Fear of the dark

FEAR OF THE DARK



「とりあえず、あいつは何者なの? 教会から来たとか言ってたけど」

 下水道での戦いから一時間ほど後。紅香たちは翔悟の事務所へと戻ってきていた。

「あいつは、如月水葉。魔なるものを狩る者たちの組織――――『教会』随一のエクソシストだ。邪神復活の気配を感じて派遣されてきたんだろう」

 翔悟の言葉に、紅香は首をひねった。

「ん? 如月、ってことは、もしかして……」

「私の、妹です……」

 そう言ってうつむきながら現れたのは、雪乃だった。

「え……だって雪ちゃんは、翔さんの式神……なんじゃ……」

「雪乃はな……元々は、人間なんだ」

 重々しく、翔悟が言った。

「あれは……十年前だった。紅香、お前の中の邪神が一度、復活しかけた時があった。その時にそいつと戦ったのが、当時まだ『教会』に所属していた俺と、式神の白夜。そして……雪乃だったんだ」

 壁にもたれかかり、タバコに火を着けながら翔悟が語りだす。

「当時の俺は、まだ未熟だった。相手の力を計りかね、無謀な戦いを挑んだ。当然、倒すことは叶わず、かろうじて封印を施すことができただけだった。そして……」

 翔悟は一度言葉を切ると、大きく紫煙を吐き出す。

「その戦いで、雪乃は死んだ。雪乃を失うことに耐えられなかった俺は……禁術を用いて雪乃の魂を、自分の式神、白夜に宿らせ、半妖とした」

 淡々と、翔悟は語る。普段明るい彼が、使うことのない語り口調は、かえってその悲哀を協調しているようにも思えた。

「そして、禁術を使った俺たちは『教会』から破門された。そして、水葉も姿を消した。次に俺たちの前にあの子が現れた時には、西洋式の悪魔祓い術を使う、『教会』一のエクソシストとなっていた」

 翔悟は再び懐からタバコを取り出し、火を着ける。

「恐らく、あの子の目的は、紅香の中の邪神に復讐することだ。姉を殺された、な」

「じゃあなぜ、……翔悟さんは、僕たちを助けてくれるのかな? 翔悟さんと雪乃にとっても、僕たちの中の邪神は仇であるはずだ」

 静馬の問いに、翔悟はまたも大きく紫煙を吐き出す。

「同じだったからだよ、俺たちと」

「……えっ?」

 翔悟の言葉に、静馬が疑問の表情になる。

「紅香と静馬。お前ら二人がな、俺たちには、かつての自分たちとダブって見えた。一緒にメシ作ったり、笑いあったり……。まだ、雪乃が人間だったころの、俺たちと同じに見えたんだ。それを壊してまで……俺たちには、復讐することはできなかった」

 言葉を吐き出すように言い、翔悟はタバコを灰皿に押し付けた。

「だから、今までも助けてくれてたの……?」

 紅香の問いに、雪乃が静かにうなずく。

「……そうです。でも、水葉――――あの子は違う。私が殺されたことで、悪魔や怪物といった、人に仇なすものの存在自体を憎んでいる。どんな犠牲を払ってでも、紅香と静馬の中の邪神を滅しに来るでしょう」

「じゃあどうすればいいの? やっつけるわけにもいかないし」

 紅香がそう言った時、ふっと部屋の電気が消えた。

「え、なに? 停電?」

 紅香がきょろきょろと辺りを見回すと、ついていたはずのエアコンや他の部屋の電気まで消えている。

「ちょっと待ってろ、ブレーカー見てくる」

 翔悟が事務所の外へと出て行くが、すぐに戻ってきた。その手には電池式のラジオがある。

「だめだ、ブレーカーに異常はない。どうやら、ただの停電じゃなさそうだ」

 そういいながら、翔悟はラジオのスイッチをいれた。

『――――原因不明の停電となっているのは前崎市、高橋市、安岡市の一部地域となっており、現在のところ、復旧のめどは立っておりません。最悪の場合、停電が深夜まで及ぶ可能性もあることから、警察では注意を――――』

「おいおい、ここら一帯、どこもかしこも停電かよ。こりゃ、ただの停電じゃないな」

「まさか、水葉が――――?」

 翔悟の言葉に、紅香が言うが、翔悟は頭を振る。

「いや――――邪神を狩るためなら手段を選ばないとはいえ、こんな派手なことをするタイプじゃない。考えられるのは――――

「邪神の復活をたくらむ奴ら、か……」

 静馬の一言を肯定するように、四人はそれぞれの顔を見合わせた。






「準備は、整った」

 前崎市にある、廃墟の一室。そこには長髪の男が一人いた。目を隠すような長い髪に、初夏だというのに、黒い革のロングコートというそのいでたちは、低い落ち着いた声とあいまって、どこか隠者めいた厭世感を漂わせている。

「今宵は闇が支配する。人間どもに闇は照らせない。すなわち、お前の独壇場だということだ」

 その言葉は、暗闇に閉ざされた、奥の一室に向けられている。まだ昼間だというのに、その漆黒の闇に支配されたその部屋は、見通すことはできない。だが、そこにほんの幽か――――まさに幽玄のごとく、その存在があった。

「……今夜、邪神を取り込んだ少女を殺せ。そして、彼女の中の邪神の力を奪ってくるのだ……シュヴァイツェ=メートヒェン」

「……仰せのままに」

 闇の中から現れたのは、濡れたカラスの羽のような漆黒の髪に、まるでブラックホールのようにそこの知れない、切れ長の黒い瞳が印象的な少女だった。これまた黒い、優美なドレスに身を包んだその姿は、暗闇の中を舞う黒い蝶のようだった。

「奴はジルを倒している。油断はするな。あれの最期は煉獄の炎によるものだった。奴の拳はお前には効くまいが、炎はやっかいだ」

 シュヴァイツェと呼ばれた少女は、無言で、こくりとうなずく。

 不意に、男が少女をきつく抱きしめた。

「……必ず、帰って来い。そして、邪神の力を使って、我らの共に住める世界を創ろう。私たちが、当たり前のように、共に笑い合える世界を、創ろう」

 男の腕も、声も、震えていた。その目には涙こそなかったが、それはまるで、母にすがりつく子のようだった。

「……はい。郁馬様」

 そっと、静かにシュヴァイツェは男――――郁馬を抱きしめ返す。

「その時こそ……私たちの世界を」

 薄い光が差し込む廃墟で、影に隠れるようにして、二人はいつまでも抱き合っていた。





「さて……いきなり問題が次から次へと出てきちまったな。紅香を狙ってる水葉に、奴らによるものと思われる停電……しかも、奴らの正体もわかってない……か」

 腕を組みながら、翔悟がうなる。

「でも……本当に奴らなのかな? ただの停電かもよ?」

 紅香の言葉に、翔悟が首を横に振る。

「それにしちゃ、地域が限定されすぎてる。この市と、周りの市の一部だけだぜ? それに、だ。さっき上の階からちょっと見てきたんだが、自家発電機を備えてるはずの病院なんかの電気も消えてるんだ。そういう技術的なもんでないとすると限りなく、奴らの仕業の可能性が高い。少なくとも、警戒はしておくべきだろう」

 翔悟のセリフに、静馬もうなづく。

「たしかに。……だけど、そうなると一つ気になることがある」

「気になること?」

「うん。もしこれが、奴らがしかけてきたことだとすると、これは奇襲だ。だとすると……ここの位置もばれている可能性がある。相手の居所も知らずにしかけてくるとは考えにくい」

 静馬が、横目でちらりと窓の外を見やる。窓の外はすでに陽も傾き、夜の帳が下り始めている。

「とはいえ、他に迎え撃てそうな場所も、僕らにはないわけだけど」

 そう付け加えて、静馬は肩をすくめて見せる。

「やれやれ、非常時にまで人気者なのも辛いとこね。あの水葉って子だってこないともかぎらないんだし」

 紅香が腰に手を当てると、翔悟がため息をつく。

「問題はそれだ。これを好機と見て攻めてこないとも限らない。とにかく、交代で見張りを立てるしかないだろう。まずは俺、次は雪ちゃん。最後に静馬だ」

「えー、ちょっと、私は?」

 名前を呼ばれないことに唇を尖らせる紅香に、今度は静馬がため息をつく。

「あのねえ。君が一番いろんな人に狙われてるんだよ? 矢面に立ってどうするのさ」

「わ、わかってたわよ。確認しただけだもん」

「やれやれ。とりあえず、玄関は俺が見る。雪ちゃんは裏口を見張ってくれ。静馬は紅香に着いててくれ」

 翔悟はそう言い残すと、ゆっくりと部屋を出て行く。

「敵さんが、お行儀良く入り口から入ってきてくれるとも限らないのです。静馬、紅香をしっかり守るのですよ」

「大丈夫。むしろ紅香が無茶しないようにする方が大変だから」

 ぽんぽんと静馬の肩をたたき、雪乃も部屋を出て行く。

「ちょっと、なによその子守的な扱い!」

 またも紅香は静馬をたたこうとするが、手を振り上げたところで無駄だということを思い出す。

「はあ……静馬が今、守護霊だって忘れそうになるよ……。こういうの、一年間無かったっていうのに」

 ため息をつきつつも、紅香のその顔には笑みが浮かんでいる。悪態をつきながらも、一年では二人の関係が崩れなかったことは、素直にうれしかった。

「……………」

「……………」

 ただ、久しぶりに二人きりになったところで、話題が無いのも確かだった。静馬が守護霊として戻ってきてからは非日常的なことばかりで、のんびりと会話をしたことなど無かったのだ。こうしてみると、一緒に生きる日常というものがどれだけ貴重であったかということが、ひしひしと感じられた。

「あ、あの!」

「あのさ」

 沈黙に耐え切れなくなって思わず声をかけたが、見事にダブってしまった。

「そ、そっちから言ってよ」

「いや……紅香から……」

「いいから、静馬から言って!」

 正直、何か話題があったわけでもない。紅香はなんとなく赤面しながら、無理やりに静馬に話を振った。

「じゃ、じゃあ……あのさ」

 頭を掻く仕草をしながら、めずらしく静馬が言いにくそうに言う。

「なんで……バスケやめちゃったの? 次期エース候補なんて言われてたのにさ」

「それは……」

 答えは、簡単だった。静馬が、いなくなったからだ。

 紅香がバスケを始めたのは、中学生の頃。バスケ部に入った静馬の練習に付き合う内に、毎回毎回、簡単にあしらわれるのが悔しくて、生来の負けず嫌いから紅香もバスケ部に入ったのだった。

 だが、細いが身長が高く、運動も人並み以上にできた静馬に勝つのは、決して背の高くない紅香にとっては難しく、彼に躍起になって追いつこうとしているうちに、一年で唯一、レギュラーを勝ち取るまでになっていたのだ。

 しかし、二年生になる前に……そして、紅香が静馬に勝つ前に、静馬は命を断ってしまった。

 そして、気づいた。自分は、静馬がバスケをするのを、もっと近くで見たかったから、一緒にやりたかったから、彼に近づきたかったのだと。だが、それを、その感情を、たった一言にして静馬に伝える勇気を、今でも紅香は持てなかった。

「それは……どうしても勝ちたい人がいたから。もし、その人に勝てたら……伝えたいことが、あったから」

「伝えたいこと?」

 静馬は、それが誰で、その言葉がなんなのか、分からない様子だった。だが、その言葉は、今はもう……口にしてはいけないように思えた。伝えたところで、彼を……静馬を、困らせるだけのような気がした。

「ごめん、あのさ……。ちょっと、少しだけ寝ててもいいかな? なんか……疲れちゃってさ」

 うつむく紅香の顔を覗き込もうとする静馬の視線から逃れるように、紅香は目をこすりながら言った。

「あ……うん。僕が見張ってるから、寝てていいよ。夜は長いし、いつ襲撃があるとも限らないし」

 その言葉にこくりと一つうなづくと、紅香は部屋のベッドに、静馬に背を向けて横たわる。その顔を、一筋、何かが流れていった。

「……ばか……」

 かすかにささやいたその言葉でさえ、静馬の耳に届くことは、なかった。







 一階では、翔悟と雪乃が、災害時用のランプの灯りを頼りに、警戒に当たっていた。

「さて……雪ちゃん、どう思う?」

「十中八九、何者かが来るでしょうね」

「何者か……ね」

 『水葉が』と言わない雪乃に、翔悟も心の中で同意した。紅香たちの前では警戒を促す意味も込めてああ言ったが、非常事態に乗じて……というやり方は、どうも水葉とは結びつかないように思っていた。だとすれば、紅香たちを狙う何者かの奇襲という方がうなづける。そして、奇襲ならば……闇を作ってから、時間をおいて来ることはあるまい。

 その刹那。

 雪乃の肩が、ぴくんと動いた。

「なにか……来るのです」

 緊張した雪乃の声に、翔悟が身構える。

 気配を探る二人の視線が、鍵の開く音に、玄関ホールの入り口で止まった。

 やがて、音も無く、ゆっくりと……入り口のドアが開いていく。だがそこに、ドアを開けた何者かの姿は無い。ただただ、漆黒の闇のみがそこにある。

 だが、翔悟の鋭い瞳はその闇を捉えて離さない。その表情が、ふと、笑みをこぼした。

「……まるでニーチェだな。……『闇を覗く者はまた、闇からも覗かれている』」

 そして、それに答えるように、闇の奥から声が響く。

「善悪の彼岸、ですか。思っていたよりも、なかなかおもしろい方のようです」

 その高い女性の声は、セリフとは裏腹に、まるで機械がしゃべっているかのように、無感動で無機質だ。

「おもしろがってる余裕があるのか? 灯りを落として、闇の怪物が忍び込む――――奇襲は完全に失敗だぜ?」

 闇の中の相手に向かって翔悟が言う。

「どうやらそのようです。しかし、だからといって私もおいそれとは帰れません。せめて――――」

 闇の中の相手が、身構えるような気配を見せる。

「あなたの首を持ち帰り、我が主へ許しを請うことといたしましょう。私は闇の子……シュヴァイツェ・メートヒェン」

「おいおい、そんなの今時はやらないぜ。お茶菓子でも買ってったらどうだ?」

 笑みを浮かべながら皮肉を言い放ち、翔悟は片手で印を切る。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行! 我が式神、その身を以って彼の者を討つべし! 行くぜ、雪乃!」

「承知です!」

 翔悟の言葉とともに、雪乃の体が光を放ち徐々にその姿を変えていく。それはやがて、一際激しく光を放つと、一振りの日本刀へと姿を変えた。それは自ら翔悟に身をゆだねるかのように、その手に納まる。それはまるで、雪乃自身の色を写したかのような、美しく透明な刃紋を描いていた。

「陰陽剣士、須佐翔悟……参る」

 普段とはまるで違う、厳かささえ漂う声で、翔悟が雪乃を正眼に構える。

 その瞬間、闇が駆けた。幽かな波紋のみを刻み、シュヴァイツェが不可視の動きで翔悟に迫る。だが――――。

「はっ!」

 雪乃の峰で、翔悟は闇に隠れて見えないはずの相手を払う。確実な手ごたえを残して、シュヴァイツェが後ずさった。

 刹那、その場所からシュヴァイツェの気配が消えた。しかし翔悟に焦る素振りもない。彼はくるりと後ろをふりむくと、軽く上体を反らす。次の瞬間、シュヴァイツェの手が翔悟の目に前で空を切った。

 さらに二発目、三発目と繰り出されるシュヴァイツェの手刀を、後ろに下がりながら、翔悟は適確にかわしていく。

 四発目をスウェーでかわしたところで、翔悟は再び、雪乃の峰をシュヴァイツェに叩き込んだ。

「くっ……」

 鋭角に入ったか、先ほどとは違い、シュヴァイツェがうめいて距離をとる。

「……さすが、あの方がもっとも警戒する人ですね。闇の中では姿が見えないはずの私を圧倒するとは」

 だがその賛辞の言葉に、翔悟はあきれたように頭をかく。

「おいおい……小芝居はやめてくれ。気配が読みやすいよう、わざと自分の気配を濃くしてるだろう? 何が狙いだ?」

「……何も」

 だが、そう言って佇む、その黒い少女の口元には、歪んだ笑みが浮かんでいる。その笑みは言葉以上に雄弁であるように見えた。

――――食えない奴。

 翔悟は小さく舌打ちをする。

「翔様――――」

「ああ、わかってる。ありゃ、物質としてそこにあるもんじゃない。いかにも『攻撃を食らいました』って動きをしちゃいるが、ダメージは通ってないはずだ」

 翔悟のその言葉を肯定するかのように、雪乃が明滅する。

「恐らく、紅香を狙ってる連中の使い魔ってとこだろう。闇から出てこないことからして、闇の精霊のようなものかもな。だとすれば、原因不明の停電の黒幕も、なんとなくわかるってもんだぜ」

 雪乃を構えなおす翔悟に、闇の中の少女の気配がふと揺らめいた。

「ご理解の早い方で助かります。そこまでお分かりならば、物理攻撃では私は倒せない――――すなわち、その刀をいくら振るっても無駄だということもお分かりいただけたはず」

「ああ、普通の刀――――なら、な」

 刹那、翔悟が駆けた。一瞬でシュヴァイツェの元まで駆け寄ると、横薙ぎに一閃――――。同時に、刀の軌跡をたどるように白雪が舞った。

「なっ――――?」

 闇の中を舞う雪が、その闇を裂くかのように、シュヴァイツェの纏った闇を、斬った。彼女が隠れていた闇が霧散し、その姿があらわになる。

「女の子を無理やり引っ張り出すなんて趣味じゃないんだが……きれいごとばかりも言ってられないもんでね」

 再び構えなおす翔悟に、しかしシュヴァイツェはなおも笑った。

「……大したものです。私の纏う闇を切り裂くなんて。しかし……これで私の任務は完遂。タイムオーバーです」

「なんだと?」

 翔悟の問いには答えず、シュヴァイツェは闇を滑るように、屋敷の入り口へと移動する。一瞬のうちに、その姿は外へと消えていた。

「逃げた!?」

 それを追って外へ飛び出した翔悟は、その光景に思わず足を止めた。

 空が、真っ赤に染まっていた。夕焼けのような鮮やかな色ではない。したたり落ちたばかりのどす黒い血のような、暗く、重い、赤。

「こいつは……どうなってる!?」

「翔様……そこらじゅうから怪物の気配がするのです! それにあの空の色……ジルの世界に引きずり込まれた時と同じ……」

「その通り、です。この街はもはやあの空間……鬼門の中と、同じ」

 不意に、上空から声がした。

「シュヴァイツェ……そうか、お前の狙いは、これを起こすまでの時間稼ぎか……」

 呻く翔悟に、シュヴァイツェがうなづく。

「はい。あの方が鬼門を開き、この街に繋げるまでの時間を稼ぐことが、私の任務でした。いかに邪神の力を持つものといえど、街そのものが鬼門となった場所で、どれほどの間、生き延びていられるか……見物させていただきます」

 ふとあの笑みを漏らして、シュヴァイツェは闇に溶けるように消える。

「……くそ、とんでもねえことになりやがった……。街ごと巻き込むたぁ……さすがに前代未聞だぜ」

 刀を納め、翔悟はぼりぼりと頭を掻いた。







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