依頼006
「儲かった儲かった♪」
カンドゥーラの下に隠れている腰の弾帯へ装具したダンプポーチを笑顔でオルソンは軽くポンポンと叩く。
このダンプポーチは本来、戦闘中に銃弾を撃ち尽くして空になった弾倉を放り込んでおく為の物なのだが今回は露店で換金したカネが入っていた。
ほぼ
換金された総額は占めて934リール。
通貨の話となるが、金銀銅の硬貨、そして銅貨よりも一回り小さい小銅貨の四種類で構成されたリール硬貨が北方大陸での共通通貨となっている。約200年前、時のシルヴェスタ王国国王が共通の通貨として流通させる事で貿易時の利便性を図り、それを周辺諸国へ提案した事が始まりであるとされる。
しかし、その“提案”は当時、まだまだ発展途上の小国ばかりであった周辺諸国からすれば圧倒的な軍事力を背景にした“脅迫”と同等のモノで拒否は出来る訳がなく二つ返事で承諾した、という話がある。
さて、そんな共通硬貨だが小銅貨一枚で1リール、その小銅貨が10枚集まって銅貨1枚の10リール、銅貨50枚で銀貨一枚の500リール、そして銅貨100枚で金貨一枚の1000リールとなる。
ちなみにだが現在の平均的な物価はライ麦の黒パン一塊(大きさは日本の食パン一斤)5リール、豚肉のブロックが7リール、ワインのボトル一本10リールといったところだ。
「つーかウチの相棒は何処にいんのかなー?」
街の大通りを歩きつつ相方の姿を探すオルソンの目に煌びやかな衣装を纏った数人の女性が映った。
「うん。見付からないなら人に聞くのが一番だよな」
野郎に聞きたくねぇし、と心中で一言付け加えた彼は足早に彼女達へ近付く。
「こんにちは、お嬢さん達」
「あら、お兄さん。何か御用かしら?」
「いや、これといって特に用はないんだけどさ……お嬢さん達があまりにも美しすぎて思わず声を掛けちまったんだよ」
「あらあら…口がお上手ね」
相方の行方を問う筈が当初の目的から逸脱して口説き文句を吐いたのは彼の持って産まれた天性の性なのかも知れない。
地球のアラブ圏で見られるベリーダンスの踊り子が纏うそれに酷似した衣装を着た女性達の内の一人がオルソンへ擦り寄ると彼の胸へ手を這わせて来る。
「ねぇ、お兄さん?私、踊り子なんだけど……近頃、調子が悪くて芸の方が今一つなのよ。時間があるなら私の踊りを見ていってくれないかしら……もちろん二人っきりになれる所で」
衣装で寄せ上げているのか強調された胸を彼の腕へ押し付ける彼女は熱っぽい視線をオルソンに送る。
それに彼は思わず“喜んで”と告げそうになったが、当初の目的を思い出して苦笑しつつ盗賊の根城から頂戴した銀貨一枚をカンドゥーラの下のダンプポーチから取り出すと、それを押し付けられている胸の谷間へ滑り入れた。
「大変、嬉しいお誘いなんだけどさ…少し人を探していてね。…俺より少し低いぐらいの背丈で茶色い背嚢を背負っていて……あと無駄に眼が鋭いっていうか…人相が悪い男を見なかったかい?」
「…あぁ……そういえば見掛けたわね。この通りを真っ直ぐに歩いて行ったわ」
「そうかい。ありがとよ。……躍りの件は、また今度頼むよ」
情報料に銀貨一枚を支払った彼へ擦り寄った彼女はついでとばかりに彼の頬へ背伸びして軽く唇を落とした。
「早めに来てくれると嬉しいわ」
「そうするよ。じゃあな」
中々良いサービスを貰った彼女へ軽く手を振りつつ別れたオルソンは教えて貰った相棒と思われる人物が向かった方向へ歩き出すーー
「ーーDぐらいあったな。形も良かったし、柔らかさも充分……勿体なかったなぁ…」
ーー僅かな後悔を口にしながら。
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