依頼005

 盗賊の根城であった遺跡を出発して三日後の昼、二人の姿は目的地としていたオアシスにあった。


 到着して早々に二人は悪目立ちするであろう戦闘服や銃火器を隠す為、街の入り口で衣服を販売していた露店商からカンドゥーラに似た丈の長い服とターバン、そしてそれぞれの愛銃を隠すための布を購入し、現在はその衣服を着用して周囲に溶け込んでいた。


 オアシスを囲うように砂漠を旅する者向けの宿屋や酒場、露店などが軒を列ねているのを見たショウは傍らのオルソンへ視線を向ける。


「何処かで戦利品を金に換えたいな」


「あぁ。先立つ物がないとなぁ」


「装飾品が主だから…宝石商あたりか?」


「まぁそうなんだろうけどさ……そう都合良くあると思う?」


「案外あるかもーー」


「ーーマジであったし」


 陳列台に宝石をちりばめた首飾りや指輪を展示している露店を存外早く見付けた二人はそこへ歩み寄る。


「いらっしゃいませ」


 にこやかに応じたのは恰幅の良い色黒の男性だった。


「いきなりで悪いんだけどさ、この店って買い取りとかやってるかい?」


 店主と思われる中年の男性に負けず劣らず、にこやかな表情と声音でオルソンが問い掛ける。


「えぇ、勿論ですとも!当店では装飾品の販売と買い取り、どちらも行っておりますよ!」


「そりゃ良かった。んで、買い取って欲しい奴なんだけど……相棒?」


「ーーこれを全部、買い取ってくれ」


 ショウが背嚢の中から装飾品や宝石でパンパンになった麻袋を取り出し、それを陳列台の空いているスペースへ少し乱暴に置くと店主の顔がにこやかな表情のまま固まった。


「こ、こちらを全て…?」


「応」


「で、では中身を拝見……」


「少し勉強してくれよ~?」


 頬を引き攣らせつつ店主が頷いたのを認めた二人は鑑定が済むまでの時間を喫煙で費やそうと互いに頭に巻いたターバンを少し緩め、タバコを銜えて火を点ける。


「にしても…このオアシス、無駄に発展してるけどさ…どう見ても堅気とは思えねぇ連中ばっか見掛けるのはどゆこと?」


「隊商キャラバンの護衛って線が濃厚だな」


 背後から聞こえる「おおっ!?」や「こ、これは!」といった興奮気味な声を無視しつつ二人は街の通りを見遣り続ける。


「あぁ…成る程。道理で皆、剣やら弓矢を持ってる訳だ」


「ところで、これからの話なんだが」


「え?あぁ…娼館は夜になったら行こうぜ」


「違う。…いや、もしあるなら当然行くが」


 相棒の軽口に溜め息と紫煙を同時に吐き出しつつショウは話を続ける。


「当初の目的地だったオアシスには到着したが、これからどうするか…もっと言えば身の振り方をどうするか、お前の意見が聞きたい」


「うーん…これからの事かぁ…」


 タバコを唇の端に銜えつつオルソンは指先で頬を掻く。


「取り敢えず、俺達って傭兵以外の仕事で食って行ける自信ないじゃん?」


「まぁな。カネに困った時はバイトしたりはしたが…」


「なぁおっちゃん」


「ーーこれも中々……あっ、はい!なんでしょうか!?」


 彼等の背後で麻袋の中から装飾品等を一つ一つ取り出して鑑定を続けていた店主へオルソンが不意討ち気味に声を掛けた。


「ここらでさ、荒事とかの仕事を仲介してくれる場所ってなーい?」


「は、はぁ。と申されましても、このオアシスを訪れる全ての行商キャラバンには既に多数の護衛がついておりますし……」


「新規で傭ったりはしねぇか……まぁ、何処の馬の骨な奴を傭うなんてしねぇだろしな」


「…気休めにしかならないと思いますが酒場などで情報を集めた方が無難ではないかと」


「だよねぇ…あんがと。鑑定に戻って良いよ」


 オルソンが笑顔を浮かべて礼を言うと店主も笑顔を返しーー再び鑑定の作業へ戻った。


「どーする?」


「…まずは宿を借りるとしよう。酒場での情報収集は夜だ。人が集まる時間帯に行こう」


「…相部屋?」


「当然」


「いやっ!俺に乱暴する気でしょう!?」


「…キモい。歳を考えろよ」


 冷めた視線を相方へ送りつつショウは短くなったタバコを携帯灰皿へ押し込むと、それを傍らのオルソンへ手渡した。


「鑑定はお前に任せる。俺は、この先に行ってめぼしい宿を探しておく」


「迷子になんなよ?あと、人様に迷惑掛けねぇようにな。特に乱闘とか殺人とかは勘弁だぜ」


「さて、それは向こう次第だな」


 背嚢、布を巻いた愛銃を肩と背中へ担いだショウは相方へ軽く手を振りつつ通りの喧騒へ紛れて行った。

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