依頼004
「ーー見ろよ相棒」
「ーーんっ」
オルソンが指先で弾いて寄越した硬貨をショウは片手で受け止めると、それを手にしたライトで照らして観察してみる。
「ーー銅貨、だな」
「色合いは俺ん国とこのペニーみてぇだ。意匠デザインはビミョーに違うけどな」
「この銅貨の意匠は…ヒゲ生やした男の横顔か。ペニーの意匠はなんだっけ?」
「“人間は、たとえ相手が自分の一番関心のある目標に導いてくれる指導者であっても自分の気持ちを理解してくれない者にはついて行かない”」
「……エイブラハム・リンカーンか」
「その通り」
「良く知ってるな?」
「
相方からの問い掛けに答えつつ、オルソンは陶器で作られた瓶を拾い上げる。
盗賊の身包みを剥いだ彼等は近くに拠点があるだろうと考え、賊達の足跡を辿りーー着いたのは古代の遺跡と思われる建造物だった。
ブービートラップ等の存在を警戒しつつ二人は索敵を実施したが、敵や罠の類いは皆無。
ならば、とショウとオルソンは金目の物はないかと物色を始めた訳である。
「ーーうえっ…小便みてぇに酷ぇ味だ…!」
「ーー毒が入ってたらどうする」
「テメェらで飲む酒に毒を入れる趣味があるなら俺は尊敬するわ」
「…まぁ、それはそうか」
「ただ……うっぷ……この酒は酷ぇ……ワインっぽい味はすっけど…なんだこりゃ」
心底気持ち悪そうにオルソンは傍らのショウへ酒の入った瓶を手渡すと部屋の床へ唾を吐き出す。
そんなにか、とショウは瓶の注ぎ口へ鼻を寄せ、香りを嗅ぎーー直ぐ様、離した。
「…なんだ…これは…腐ったワインか?…酷い臭いだ」
「お前、飲む?」
「誰が飲むか。しかしワインを腐らせるのは至難の技の筈なんだがな…」
一口も口にする事なくショウは酒瓶を部屋の片隅へ投げ捨て、叩き割った。
途端、ツンと鼻を突く強烈な異臭が二人を襲う。
「……よぉ…相棒…?」
「…済まん…」
思わず化学兵器を散布された際などに装着する防護マスクを用いたい程の異臭に襲われ、二人は堪らず部屋を後にした。
「ーーまぁ予想はしてたけどさ……」
「ーー腹が膨れるならなんでも良い…」
金目の物ーー貨幣や装飾品等をバッグへ詰め終った二人は、物色中に見付けたドライフルーツを遺跡の一室で胡座を掻きつつ頬張っていた。
砂漠の過酷な環境を考えれば生鮮食品の類いは備蓄されておらず、代わりにあったのは日保ちのする保存食ばかりだった。
「…んで、今夜はここで一晩過ごすの?」
「あぁ。歩哨は先に俺がやる。四時間で交代だ」
「現在時は2146っと。2200から始めて四時間交代だから俺は0200か」
「0600に出発出来るようにしておけ」
「あいよ」
咀嚼したドライフルーツを喉の奥へ流し込んだショウは先に食事を済ませ、ソフトパックのタバコから一本を引き抜いて銜えるとジッポの火を手で翳して遠目から見え難いよう配慮しながら火を点ける。
またタバコの火も手で覆い隠すのも忘れずに素早く食後の一服を済ませた。
タバコの小さな火とはいえ、遮蔽物のない環境ーー例えば草原や砂漠では非常に目立ち、状況にもよるが1km先からでも目視が出来てしまうのだ。
吸殻を携帯灰皿へ放り込んだショウは壁に立て掛けておいたAK-47を取り、槓桿を僅かに引いて初弾装填を確認する。
「何かあれば無線で連絡する」
「頼まぁ」
小銃を抱き抱え、壁に寄り掛かるオルソンへショウは首に巻いた咽頭マイクを指先で軽く叩いて見せる。
ブーニーハットを目深に被りつつオルソンは携帯無線機のチャンネルを開くと、そのまま微かな寝息を立てて仮眠を取り始めた。
その様子を一瞥したショウは装具の確認を済ませ、部屋を後にした。
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