第18話 緊急招集



「お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。非常事態につき、皆様を招集させて頂きました」


 受付嬢のリナは、ギルドに集まったこの街のBランク以上の冒険者にホープから聞いたマモノ出現の情報を大まかに説明した。


「ほんとかよっ!?」


「見間違いじゃないか?」


「早急に手を打ちましょう」


 反応は様々だったが、自分達の愛するこの街が危機に瀕する可能性があるという事態は飲み込めていた。それが単なる一人の目撃証言であってもだ。でなければこの街に滞在する全てのBランク以上の冒険者が皆一同に集まる訳がない。


「お伝えした通り、商業街沿いの海岸にマモノは出現しました。体躯は4メートル程。形状は人型ではなく、四足獣型。羽のような大きな両腕が特徴で、その大きな腕を使い海面から勢い良く飛び上がって来た、とのことです。我々ギルド職員は至急厳戒態勢をとり、現場周辺の方々に避難するよう呼びかけてはいますが、今日は一際人口密度が高く、一向に避難する素振りがありません。今回お集まり頂いた皆さまなら、街民の方々も事態を飲み込めると思います」


「えーと、つまり? 俺たちが街民の避難を促し、そして海岸の調査をすれば良いわけ?」


「そうです。これはギルドからの正式な依頼となります。調査結果がどんな結果であれ、報酬は支払われます。この依頼に失敗はありません。異常無しの報告をお待ちしております」


 リナが深々と頭を下げ、それに続くようにセリカが頭を下げた。


「分かったよ。リナちゃんの頼みだもんなぁ。というか俺達の街のためだ。異常無しの報告待ってろよ!」


「リナちゃん。あまり気を負わないで? 大丈夫だから。何があっても、私たちがこの街を守るわ」


「いつもギルドに世話ぁなってるからよ、なんかあったらいつでも俺達冒険者を頼んな!」


「は、はい……! 皆さまのお帰りを心よりお待ちしております!!」


 集まった冒険者達のほとんどが実際にマモノと遭遇し、一戦を交えた経験がある者たちだ。リナは彼らを心から信頼し、頼りにしていた。

 この街が繁栄し、平穏であり続けるのは、ランクの高い冒険者がマモノがいる街の外で物資の採取や狩りを行い、ランクの低い冒険者は人助け、サポートをしてくれているおかげだ。


 冒険者全員の見送りを終えると、リナは「ふぅ……」と一息ついた。


「大丈夫よ、あの人たちなら」


「セリカ……」


 同じギルド職員のセリカが肩をポンと叩いた。


「なんて顔してるのよ。リナは臨時とはいえギルドマスターでしょ! しゃきっとしなさい!」


「セリカに叱責される日が来るとは思わなかったわ……」


「ほんと、うちの可愛い可愛いリナちゃんがこんなにも疲弊してるっていうのに、ギルドマスターさんったらいつ帰って来るのかしらね」


「ギルド総会に赴いてからもう半月以上は経つわね。何かあったのかもしれないわ」


「まさかマモノに!?」


「それは大丈夫じゃないかしら。あの人ギルドマスターだけど、元Sランク冒険者でもあるし」


「そういえばそうだったわね」


 そう言って、セリカは受け付けカウンターの下から縦長の木板をを取り出し、何やら書き加えると、それをギルドの入り口に立て掛けた。


【ギルド、営業停止】


「ねえセリカ。その看板……もっとましな言葉選びがあったんじゃない? まるでギルドが潰れたかのように見えるわ」


「いいのいいの! これが一番分かりやすいから!」


「あなたねぇ……」


 事実、マモノの危険性がある限り、ギルド側として依頼を受注させる訳にはいかない。ちゃんとした説明書きを添えた看板をリナが立て掛けようと思った矢先にこれである。


「ねえねえリナ! ギルドもお休みになったことだし、美味しいお菓子一緒に食べない? 最近できた行列の出来るお菓子屋さんのやつなんだけど」


「……この状況でよくそんな悠長なことが言えるわね」


「そうだけど、でも実際私たち暇でしょ? いいから食べようよぉ〜」


「はぁ……分かったわ。今お茶を淹れて来るから先に休憩室行ってて」


「気が利くねぇ。それじゃお先〜」


 これはセリカなりに自分に気を使ってくれているのだとリナは感じた。ずっと一緒に仕事をしてきたから分かる。十四才でギルド職員になってから今までずっと、セリカとは一緒だったから。


「……バカね。気を使うなんて似合わないことをして」


 リナが事務室でお湯を沸かしながらクスッと微笑んだ。

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