第5話 新人冒険者さん
「さっきの新人冒険者さん面白い人だったわねぇ」
「うん。不思議な人だったわ」
先程ホープの受付をしていたリナは、書類作業をしながらホープとの会話を思い返していた。
「しかも黒い髪で、瞳も黒かったわ。私あんな人初めて見た」
「私も」
そして、何を考えているのか分からない、掴みどころのない人だった。
「それでさ、新人冒険者さんのアビリティカード、どんなんだった?」
「ちょっと! 言える訳ないじゃない! 規則規則!」
アビリティカードは本人の同意がない場合第三者に教えることを固く禁じられている。
「んもう、分かってるわよ」
「セリカ、あなたもう少しギルド職員としての自覚を持ちなさい」
「あー聞こえない聞こえないー」
「あなたねぇ……」
セリカは耳を塞いでニヤニヤと笑っている。
リナはそんなセリカに呆れ顔でため息を吐いた。
「ねえリナ、新人冒険者さんさ、結構カッコ良かったよねぇ」
「はいはい。ほら、喋ってないで早く書類纏めちゃいなさい? 新規の依頼書が山程届いているわよ」
「げげ、これはキツイかも」
「私の分はもう終わらせたから先に休憩行ってくるわね」
「え、もう終わったの!? って、ちょっと待ってよリナ! 手伝ってよー!」
リナはセリカに振り返ることなく、休憩室へ向かった。
休憩室に入り、リナはハーブティーが入ったカップを片手にソファへ座った。
ホープさん……本当に不思議な人だった。
まさか自分の名前を指差して「ホープってどういう意味ですか?」なんて聞かれるとは思ってもみなかった。
このことが衝撃的すぎて今まで忘れていたが、信じられないことが二つあった。
一つはホープさんのアビリティ。
技能は最低ランクなのに、運だけがSランクだったのだ。運がSランクの人などリナは見たことも聞いたこともなかった。
そしてもう一つがユニークスキル。
ごく稀にユニークスキルと呼ばれる本人にしか扱えない固有のスキルを生まれ持つ者がいる。
大抵、ユニークスキルを持つ者は世界に名を馳せる。国家錬金術師様が良い例だ。
そんなユニークスキルの保有者は片手で数える程しかいないとされているなか、ホープさんは二つも保有していたのだ。
見間違えかとも思った。
しかし、アビリティカードに誤表記はない。
何故なら人が生まれながらに持つ魂と表裏一体の存在であるマナから読みとった情報だから。
「この事をギルド総会で報告するべきなんだろうけど……」
一旦考えることを辞め、リナはハーブティーを啜り一息ついた。そして再びホープのことを思い浮かべる。
ここでセリカが言っていたことをふと思い出した。
『ねえリナ、新人冒険者さんさ、結構カッコ良かったよねぇ』
「……」
珍しい黒髪に黒瞳、そこそこ高い背丈、さわやかな好青年風。
「……ま、まあ? 言われてみればカッコ良かった……かな……って何言ってるの私!」
リナは顔をブンブンと横に振った後に、ハーブティーを一気に飲み干し勢いよく立ち上がった。
「いずれにせよ、ホープさんの今後の動向が気になるわね。今は……そうね、セリカの手伝いでもしましょうか」
休憩時間を早めに切り上げ、リナは事務仕事に追われるセリカの元へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます