vs, モスマン Round.3
休み時間──。
「うわぁぁぁああ!」
絶叫を
爆走する!
え? 校内で廊下は走らない?
知った事じゃないよ! この非常事態に!
勢い任せに教室後ろの扉を蹴破った!
目標補足──ジュンだ。
貴重な休み時間だってのに、さっきの授業を
「え? な……何?」
振り向き姿勢のまま面食らっていた。
さすがに血相変えたボクの気迫を察知したようだ。
そんな事にもお構いなく、ボクは勢い任せに彼女をかっさらう。ラリアート紛いに。
「けはっ?」
息が詰まったらしく、変な声を上げていた。
けど、そんな事は知らないよ!
「うわぁぁぁああ!」
そのまま教室を走り抜ける!
暴走闘牛の如く廊下を駆け抜けるボク!
暴走自動車を避けるが如く道を開ける女生徒達!
そして、暴風に
「ぐっ……ぐるじ……マド……」
聞こえない。
聞こえたけど、聞こえない。
何故なら、いまは爆走に全身全霊を傾けてるから。
「うわぁぁぁああ!」
廊下を走り抜け!
階段を駆け登り!
屋上への昇降口を蹴破る!
テロ破壊かと思える勢いで開いた景色には、清々しいまでの青空が広がっ──「苦しいっての! このおバカ者ーーッ!」──復活したジュンに後頭部を殴られ、そのまま顔面から滑り倒れたよ。
「痛いな! 何すんだよ!」
「私の台詞! いきなり絶叫して現れたかと思えば、人の首をフックして連れ回して! オチる寸前だったわよ!」
食って掛かるも、逆に
「仕方ないじゃん!
「ヒ・ト・ノ・ク・ビ・ヲ・シ・メ・テ・オ・イ・テ・シ・カ・タ・ナ・イ・ト・ハ・ナ・ン・ダ」
「イタタタタ……」
お仕置きアイアンクローが、ボクのこめかみをギリギリと絞めあげた。
「まったく……何よ? 一大事って?」
「コレを見てよ!」
ボクは堂々たる仁王立ちにスカートを
「この
「おぶんっ?」
間髪入れずにアッパーカットが、ボクの
「いいいきなり、ななな何をトチ狂ったのよ!
「何を誤解してんのさ! コレだよ!」
「…………え?」ようやく事態を把握したようだな。「ちょっ……何コレ? え? 鉄?」
うん、例の〈鋼質化〉が下腹部から腰に掛けて発現していたのだ。
正直、トイレに入ってビビった。
「打ち明けづらいから黙っていたけど、実は昨晩からなんだ」
「コレって
「
どういう意味だ! それは!
「コレは
「あ、中二病じゃないんだ?」
「え? いままで本気で言ってた?」
そんなボクを捨て措いて、ジュンは包帯巻きの左腕を軽く指で弾いた。
「……硬」続けて同様に下腹部を確認。「何で? こんな生体現象、見た事ないわよ」
「ボクの方が訊きたいよ」
「まさか、昨日ので?」
「う~ん……断定はできないけど、そうかな~……って。アブられたかな~……って」
「ア……アブ?」
ジュンは
彼女はサブカルに明るくない。
「アブダクションだよ。UFOに
「実験? どんな?」
「多くは謎の金属片を埋め込まれたり、異種交配させられたり……」
「怖ッ!」
「だよね。身元不明の不認知妊娠だもんね。誰の子かぐらいはハッキリしないと、養育費の請求とか困るよね」
「争点、そこじゃない」
ふぇ? じゃあ、ドコさ?
ま、いいや。
それよりも、
「でね? もしかしたら、あの時にアブられて生体改造されたかな……って」
「だから
「感触とかはあるの? 触覚とか痛覚とか」
「あるよ。一応、以前と
「トイレは?」
「できた」
「ふむ?」
「ひとりでできるもん!」
「
腰の鋼質化現象をまじまじと観察し、ジュンが黙考に
「おそらく関節等の要軟質部位は、イオン結合じゃなくてペプチド結合ってトコでしょうね」
「何さ? それ?」
「メンドクサいから
「ああ、だから金属質でも関節曲がるんだ」
「そんな単純な解釈じゃ済まされないわよ。ペプチド結合の金属なんて、まず有り得ないんだから」
「もしかして細胞から変質したって点は大きい?」
「かもね。どんなプロセスで成立しているかは知らないけれど」
そして、彼女は胸ポケットからスマホを取り出した。
デフォ画がラッセンの癒し系イラストなのがジュンらしい。俗物趣味のボクとは対極。だって、ウル ● ラ怪獣の〝ゼッ ● ン〟だもん。
で、ネット上の情報をググりだす。
「関連情報は……無いか」
「あったら苦労してないよ」
「やっぱり前例が無い現象だから……あ、一件ヒット!」
「マジ? やった!」
「えっと『左腕が鋼質化しちゃった件』だって」
「あ、それボクがアップしたヤツだ」
「アンタかーーッ!」
スパーンと、ボクの後頭部を叩き過ぎるビンタ!
景気いい破裂音が青空に木霊した!
「何やってるかな! しかも、当事者本人が!」
「最近『いいね』が停滞気味なんだよぅ」
「自身の奇病を〝客寄せパンダ〟にするな」
「ま、それは
「
「──ぶっちゃけコレ、どうなるのかな?」
「あくまでも推測だけど、同様に拡大していく可能性は高いわね」
「え? 全身に?」
「うん、全身に」
あれ?
いま、とんでもない分析論を口走った気がするけど?
「……え? 全身に?」
「うん、全身に」
改めて示唆された予想を脳内に描いてみる。
「てぇぇぇつろぉぉぉくーーーーん!」
「うわ? ビックリした!」
思わず意味不明な絶叫を上げたよ!
絶望的な未来日記だもの!
むしろ、恐怖新聞だもの!
アンドロメダ行きの肉体交換ツアーもしてないのに!
「どうやらサイバネスティック技術じゃなくて細胞レベルのバイオ技術みたいだし、それが腕から脚に拡大したとなれば……ねぇ?」
「どどどどうしよう、ジュン! どうしたらいいのさ?」
「私に
「無責任な事を言うな! 恐ろしい予言しておいて! 怯えさせるだけ怯えさせて放置プレイって、世紀末予言のジャムおじさんか!」
「……誰? それ?」
「ノストラダムス。実はジャム作り名人」
「……どうしてあなたといると、要らない雑学吸収しちゃうかな」
「ふわ~ん! このまま〈全身鋼質化〉なんかしたら──」
「まあ、私も何かしら解決策を探ってはみるけれど……」
「──それこそ名実共に〝
「まだ余裕あるわね」
サムズアップでかました即興ボケに、ジュンが冷ややかな反応をしていた。
いや、確かにやってる場合じゃないな。
「言っておくけど、これでも
「知ってる」鋼鉄の腰をまじまじと観察しながら、ジュンは簡潔に返答する。「あなたは
嬉しいな。
やっぱりジュンは、しっかりとボクの事を見てくれていたんだね。
「思考と感情と行動理念が全部リンクしてないだけで……」
「うん……え?」
「要するに〝サイコロ的バカ〟っていうか」
「サイコロ的バカって何だーーッ!」
「とりあえず撮るわよ? 考察するにしても資料は欲しいし」
──カシャ!
軽薄なシャッター音を鳴らすジュンのスマホ。
「ってか、何処の世界に
「此処にいるけど」
淡白に指摘。
現物と画像を見比べつつ、彼女は細かい観察を続けた。
と、退屈に視線を泳がせたボクは、とんでもないミステイクに気付く!
屋上には誰もいないと踏んで、この場所を選んだワケだけど……一人だけ部外者がいた!
例の銀髪クールロリータだ!
「あわわ」
顔面から血の気が引く。
頭が真っ白になる。
解析に集中するジュンは、まだ気付いていない。
そりゃそうだ。
だって、クルロリが立っているのは、ボクの正面視界。
昇降口の脇。
つまり、ジュンの真後ろだもの。
クルロリは相変わらずの
スカートを仁王立ちに捲くし上げているボクと、その内側に興味津々と見入るジュンを。
「あわわわわ」
見てるよ!
メッチャ見てるよ!
無表情に見つめてるよ!
「あわわわわわわ」
「皮膚触感とかあるのかしら?」
「ひゃうん!」
妙に艶めかしい声が漏れちゃったよ。
ジュンがヘソ下をなぞるもんだから。
ってか、変な誤解に拍車を掛けるような真似をすな!
「違うから! そういうんじゃないから!」
過剰な動揺に言い訳する。
クルロリ、無表情。
「さっきからウルサイ! 一人で何を騒い……で……」
ようやくスカートから頭を出した。
そのままボクの視線を追って、気まずく絶句。
「「…………」」
「…………」
暫し重い沈黙が続いた。
ボク達とクルロリが無言で視線を交える。
「…………」
やがてクルロリは昇降口へと踵を返した。無言無表情のまま。
「「ち……違……」」
ボクとジュンの弁解がユニゾる。
けれど、金属製のドアは無情にも閉じた。
まるで何も見なかった事にするかのように。
「「そういうのじゃないからーーーーッ!」」
悲しい絶叫が、眩しい青空に響き渡ったとさ。
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