一番になっても・・・・・・
狐兎
第1話 とある一生
私達はとある家で生まれた姉妹だった。
姉妹は大勢いてそれぞれの顔なんか覚えきれないほどだ。
私達は女王様のために働くのだと本能的にわかった。
女王様は可愛く、綺麗で私の目標だ──でもそれはみんな同じ。
姉妹のみんなは次の女王になるため、女王様の機嫌をとったりお世話したり大変だ。
その中でも私は女王様に気に入られている方だった・・・・・・でも一番ではないらしい。
一番は私よりもっと早く生まれて仕事もできる完璧なやつだった。
どうしたら女王様に認めてもらえるのか悩みながら仕事をしていた──ある日だった。
「巨人が攻めてきたぞ!」
外に偵察をしている部隊から連絡が入った。
東の巨人がこの家に攻めてきたらしい。
急いで女王様に報告しに行くが既にアイツが先に女王様の所に行っていた。
また先に・・・・・・いや、今はそんな場合ではない! 家を出ようとしたその時だった。
「待って! 貴方は言ってはダメ! 私には貴方が必要なの!」
女王様が私を呼び止めた。
「でも、巨人が来ています! 応戦しないと!」
「巨人は他の姉妹に何とかしてもらいます。貴方は他の子とは違う、だから私達と逃げてください」
女王様にそんなに必要とされていたのかと感激しながら、少ない姉妹と一緒に近くの森に逃げた。
巨人は家を壊し、姉妹を捕まえたり殺したりする──逃げる時に見たその光景が目に焼き付いた。
森に逃げた私達はまた新しい家を作り、暮らしていた。姉妹は減ったがまた平穏な日々が戻り、安心していた。
「ちょっといいでしょうか?」
女王様に食べ物を届けた後に呼ばれ、話をすることになった。
「実は貴方を次の女王にしようと考えています」
私は聞き間違えたのではないのかと思った。
「私、ですか、あの女王様の近くにいつもいるあの子ではないのですか?」
「貴方よ、あの子は私と同じくらいに生まれて仲がいいだけ」
聞き間違いでは無かった、次の女王はわたしだ! そう確信し心が踊っていた──次の女王の言葉までは。
「私はもう、命が長くありません。だから・・・・・・次は・・・・・・」
「女王様!? 誰か! 誰か来て!」
その数日後、女王様は亡くなった。
その日から私は女王になった、皆に愛され尊敬される女王に──でもあまり嬉しくなかった。
前の女王様が生きていた頃の二番目でどうすればいいか考えて行動するあの頃のほうがよほど充実していた気がする。
「女王様! 巨人がやって来ました! その数! 約十ほど!」
私が女王になった時と同じだ・・・・・・こんなに早く終わるとは思ってなかったなぁ──よし!
「次の女王は貴方よ、それじゃ! 行くわ!」
女王の証である花の冠を私のお気に入りの子に渡し、外に出た──いつぶりだろうか外に出たのは。
近くには巨人共が武装して家に向かっている──ためらいもなく、やつらに突撃した。
やつらの首に食らいつき、やつらに毒の針を刺したり、何とかして家を守ろうとした。
しかし、巨人に捕まえられ死を目前にした時思った。
「これが私の生き様だ! 二番だろうと何番だろうと関係ない! 自分の生きたいように! やりたいことをするんだ!」
思いながら口に出ていた、無口な方の私だが最後に言いたいことを言えて良かった。
「う、うう」
その時、巨人の一人が倒れた。他の巨人はその巨人を運んでどこかへ行ってしまった。
家に帰るとあの子が女王の冠をしていた。
「女王様! 生きていたんですね!」
「何とかね」
皆が喜び、巨人を撃退したことを讃えた。
「あ、これ返します。やっぱり女王はあなたでないと」
冠を返してきた──一番の名誉をこの子は・・・・・・大物になるかも。
「いいの、女王は似合ってなかったし自由に生きるって決めたから」
「自由に?」
自由とは何かまだ皆は気づいていないようだ。
本能のままに生きてきたのだから仕方ない。
それから私は自由に生きた。花畑にいったりいろんな場所を見に行ったり、そして最後は家に戻って家族の皆に見守られながら死んだ──前の女王も最後はこんな感じだったのかな。
その疑問の答えは誰にもわからない──そして自由女王と呼ばれたそれは静かに眠った。
一番になっても・・・・・・ 狐兎 @kitsune-usagi
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