反省会議は見られてる

七荻マコト

反省会は見られている


「さて、今日の反省会を始めます」

 神妙な面持ちでふーちゃんは一同を見渡した。

 そこは今後の自分達の運命を左右するまさしく分水嶺…のはずだった。

「いや~今日の僕はイケてたと思うんですよね」

 得意気にプーはふーちゃんを見下ろす。

「あのくらい出来て当然じゃ。儂の若い頃は…」

 プーの言葉に容喙した年寄りのパオはフンっと鼻を鳴らす。

「あ~パオさん今日のショーで失敗したからって拗ねないでくださいよ」とプーが小言を遮る。

「別に拗ねとらんわいっ!儂は本気を出さんかっただけじゃい、儂を本気にさせたら大したもんじゃよ」

「いやいや、パオさん本気出そうよ、ニートか芸人しか言わなさそうなこと言うとこじゃないでしょ、そこは」

 ふーちゃんは呆れてパオに突っ込む。

「あ~ダメやダメや。旦那は一時期凄い人気者やったから、歳とって衰えてんのに未だ全盛期の栄光が忘れられんのや。まぁあの頃の旦那は格好~良かったなぁ。あ、いや今も格好いいんすけど」

 滔々とした声で五郎が語りだし最後にフォローを入れる。

「しかし、ふーちゃん。私達のうち誰かがクビになるって本当ですか?」

 気弱そうなスターはいつもの覇気のない唸りを上げる。

「そう、偶々会議室の横を通りかかったときに聞いたのですが、どうやら経営が芳しくないそうなんです」

 粛然と静まり返るその場。

「なので、僕らがお互いに話し合って今後の売り上げに貢献するには何をすればいいか話し合えばいいかなと思うのですよ」

「話し合うを2回も言うってよっぽどやな」

 五郎に突っこまれながらも、ふーちゃんは、首をくるくる回して一同を見渡す。

「じゃまずプーさん」

 ふーちゃんの視線がプーに止まる。

「僕ですか?いまのままで全然よくないです?今日もそこそこキャーキャー言われてましたよ」

「確かに、この中で一番人気はあるけど、そもそもなんでプーって名前なの?どこかの熊と間違えちゃうよ」

「それはね、僕の毛並みが黄色いからですよ」

「え?それだけで?」

「あと、今ふーちゃんが連想したように、某黄色い熊と勘違いして客が増えるんじゃないかとの意図もあったみたい」

「あ…」

 複雑な表情のプーに一同は察した。

「ま、まぁ、それでもめげずに長い首を生かして頑張っとるんや、結果が出せとるのは流石でっせ」

 五郎がすかさずフォローを入れる。

「じゃ、僕はこのままで安泰かな」

 自分はクビにならないと高を括るプー。

「くぅ、その人気が羨ましいです…」

「けっ最近の若いのはいい気になりおって」

 妬むスターとパオとは裏腹に、

「いや、逆に考えてみてよ。それだけ稼げる人気があるってことは、どこか貰い手が沢山あるってことでしょ。高く売れるなら一番クビの的になるんじゃない?」と、ふーちゃんは危機感を煽る。

「ええ~マジっすか」

 急に不穏なことを言われて自信が揺らぐプー。

「多角的な視点から鑑みればそういうこともあり得るってだけですよ。今のまま現状に満足しないで常に緊張感を持って成果を上げてれば、大丈夫だとは思いますがね」

「はーい、精進しまーす」

 それでもどこか軽いノリのプーは元々の性格がそうなのだろう。

「じゃ、次はパオさん」

「儂のことは気にせんでいいわい。老兵は去るのみ」

「そうですか、じゃ五郎に…」

「って待て~い。ちょっと格好つけて言ってみただけじゃわい。真に受けてスルーせんでくれい」

 このかまってちゃん年寄りは面倒くさいなと全員が思った。

「めんどくせー」プーだけは声に出てた。

「昔は凄い人気があったのに最近は余り話題にならないよね」

「そうさな~昔は白黒のあざとい熊と二分するほどの人気があったもんじゃよ」

「パンダやね、言い方に妬みが見えるわ」

「とは言っても五郎よ、世の中流行にいかに乗るかが大事なんじゃ。ここは機が熟すのを待つのが得策よ」

「そう言いながら何年も経って一向に気が熟さないご老体はどこのどなたですか?」

 ふーちゃんの突っこみに、

「はぁ、なんか言ったかのぉ。最近耳が遠くてのぉ」

 聞こえないふりをする。

「まったく、このぼけ老人は。その無駄にデカい耳で聞こえてない訳ないでしょ」

「いっそのことその耳で飛ぶ練習でもすればいいのさ」他人事のようにプーがチャチャを入れる。

「ではパオさんは機が熟すのを待つということで」

 長くなりそうなのでふーちゃんはサッサと締めた。

「お次は五郎」

「おお、ようやっとオイラの番でっか!」

 ノリノリの五郎だが、

「今のままでいいんじゃない?」

「今のままでいいんじゃないかのぅ」

 プーとパオの意見が珍しく一致した。

「そんなぁ~」

 落ち込む五郎に、

「確かに、五郎は機敏に動けてプーさんの頭に乗ったり、パオさんの鼻にしがみついたりと他の皆に便乗するスタイルだからねぇ、変えようが無いかな。特に自分の人気を奪われたくないプーさんやパオさんにとってはね」

 的を得たのか、二人とも吹けない口笛を吹く振りをしながら明後日の方向を向いていた。

「それだけ優秀なサポートってことですよ、皆から必要とされているんだからいいじゃない」スターは心底羨ましそうにフォローを入れる。

「あと、そのエセ関西弁はどうにかならんのかの」

「あ、分かる分かる。偶にイラっとするよね」

 折角のスターのフォローをパオとプーが突き放しにかかる。

「そんなことないでっしゃろ?舐めっとたらいてかましてしまうんぞ、おんどりゃ~」

『……』一同

「わ~ん、黙らんとってぇな」

「さて、ノリのいい五郎には暫く経典探しの旅にでも出てもらうとして、次はスターさん」

「私ですか…」

 おずおずと声を上げる紅一点のスターさんはあまり乗り気ではなかった。

「私は皆さんが思うほど人気ないですからね、茶色いですし」

「まぁ、白ければ希少価値が跳ね上がりますからね」

「白ければねぇ」

「白ければのう」

「白やったらな」

 スターは涙ぐんだ。

「茶色いのはただのデカい猫やからのぅ」

「狂暴な猫だね、遠目で見ててもお客さんに噛みつこうとするから冷や冷やしますよ」

「オイラもいつガブッといかれるかと気が気じゃないんで、絡みづらいんですわ」

 一気に攻め立てられたスターは、

「うわーーーーーん。私だって好きで茶色いんじゃないのよ!生まれつきなんだからどうしようもないじゃない!噛みつくのだって本能なの!自分でどうにか出来るものじゃないんだものぉぉ!うわーーーーーん!!」

 ふーちゃんがスターの頭の上に止まる。

「みんな!言いすぎじゃないか」

 一喝して一同を見渡す。

 確かに言い過ぎたかなと場の空気が重くなる。

「毛の色や本能は生まれ持ったもので僕らにはどうすることも出来ないじゃないか。そんなスターをみんなで助けようとは思わないのかぁ!」

 温厚なふーちゃんが珍しく声を荒げた。

「元気出してね、スタ…」

 言いかけたふーちゃんはスターの目が爛々と輝いているのに気づき、死に物狂いの全力でスターの頭から飛び立つ!

 ガチィィイィィン!

 獰猛な牙でふーちゃんが居た頭上に噛みつこうとしたスターの空ぶった牙の音が鳴る。

 野生の感で難を逃れたふーちゃんは涙目でぜぇぜぇはぁはぁと息を切らす。


『そういうとこやぞ!』一同


「す、すみません」

 しょぼんとするスター。

 議論は持ち越すことになり、反省会は誰一人、何一つ解決しないまま幕を閉じた。


     ◇   ◇   ◇


 みんなが居なくなった後、フクロウのふーちゃんは会議してた部屋に一人現れた。

 隠してセットしていたスマホを嘴で器用に掴み出すと、銜えたまま飼育員室に運ぶ。

「飼育員さん、何時もの持ってきましたよ」

「おお、ありがとねふーちゃん」

 スマホを受け取って動画を確認する。キリンのプー、象のパオ、猿の五郎、虎のスターが生き生きと会議する様を見て笑う。

「今日もいいの撮れてるでしょ」

 ニヤリとほくそ笑むふーちゃんに、

「そうだね、これはまた再生数稼げそうだよ!いや~ふーちゃんの助言でYouTubeに動画をアップして成功だったよ。これで我が動物園の経営もなんとかなるし、彼らも誰一人欠けることなくこの動物園で面倒みれる。さすが知恵の化身フクロウ様だ」

「いや~それほどでも…普通、動物が言葉を喋れるなんて人間は思わないからね。こうやって話してるのも声優さんのアテレコだと思ってるみたい出し…」

 動物園が経営難で閉鎖に追い込まれているのは本当だった。

 しかし、ふーちゃんの機転により今はどうにか経営出来るまで盛り返していた。

「僕はこの動物園が大好きだからね。飼育員さんアップよろしくね、今日はもう眠いから寝るよ、疲れたや」そう言ってねぐらへと飛び立つふーちゃん。

「おやすみ、ふーちゃん。また明日」

 静かになった動物園にフクロウの鳴き声が木霊する。

 ご近所の森に住むこの山の守り神とも言える鳥がねぐらへと帰っていった。

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