夜はふけて、はじめての

身体に僅かな重さを感じて

俺は目を開けるが暗がりの中では

何も見えずに


ーー最初はなんだか分からなかった

俺はまだ眠りから完全に覚めておらず

頭すら上手く回っていない


レースカーテンの隙間からわずかに照らす月明かりに目が慣れた時

俺は目の前の光景を飲み込み切れずに


「…何で服着てないの?」


眼前には、パジャマどころか下着すら纏っていないユウキの裸体があり

俺に馬乗りになっている


「起きちゃった?」

そんな事を彼女は聞く


俺は枕元にある調光スイッチを触ろうと、手を動かすと


彼女の指が優しく俺の手を絡め取り、それを許さない。

「明るいと恥ずかしいから駄目」


そう言いながら俺に覆いかぶさって

囁くような声で問われる


「…初めて?」

何とは言わないがここまであからさまなら言われるまでもなく分かる


「…そうだよ」

くだらない見栄をはる余裕すら無く

それに彼女は妖艶に笑い


「寝てるときに、始めてしまおうと思ったけど」

「せっかく初めてなら、ちゃんと分かるように」


「優しく教えてあげる」


そんな言葉を囁くのだ。


やっと頭が追いついてきてそんな言葉の意味を理解して体が反応してしまう


ゆっくりと体重をかけて、俺が逃げられないようにして


言葉で仕草で

俺を絡め取って、思考すら奪って

彼女は俺のズボンに手をかける


「飽きるくらい、いっぱいして?」

「それで全部私に頂戴?」


彼女は、自分のお腹を撫でる

「ここはずっと空っぽのままで」

「だから、せめて貴方で満たして?」


彼女のそんな言葉に

俺はもう抑えきれなかった


その感情をありのまま

隠すことなく彼女にぶつける









「…嘘をつくんだったら、最後までちゃんとつけよ」


その言葉は自分が思ってるより

冷たく空気を震わせて


俺が、もう少し愚かだったなら

彼女の言葉を信じられれば


今のまま、続けられたかも知れない

知った気になって、わかったふりをして、そんな勘違いを抱いたまま


でも、ユウキは

「いつかちゃんと聞いてね」なんて

そんな事を願うように言ったから



「残念だけど、そんな事を期待して望んだこともあった」


思春期の男子なんて

そんなことばっかり考えてるけど


それでも

彼女の目は俺を見ていなくて

彼女は俺をチアキと呼ばなくて

その紅い瞳は涙をこらえていて


そんな事に気がついてしまった俺は

この先を続けられない


「俺が欲しいなら、いつもみたいに俺の目を見て」

「…チアキって名前を呼んで」

「そして、ちゃんと笑ってくれよ」


そんなふうに、彼女といたいと

確かに俺は願った


俺が嘘つきだからわかってしまった

そんなふうに生きてきたから気づいた


その言葉は決して俺に向けられてはいなくてそれは、誰でもいいのだと

分かってしまったから


思ったまま、口にしてしまう

それが物語を終わらせてしまうような

言葉だと知っていても


それでも止めることはできず

声になってしまう


「俺の事、勘違いしてるなら教えてやるよ」


全ての始まりの真実


それが、今までの全てを嘘に変えてしまうのだとしても


「なんで、お前を幸せにするなんて依頼を俺が受けたと思う?」


彼女は考える事すらしないで即答する

「わからないわ」


「不幸だったら、何も無い俺でも、幸せに出来ると思ったから」


この物語の始まりはただの自己満足で

同情でも、憐れみですらなく

ただ、何もない俺でも誰かを幸せに出来るなんて


そんなくだらない証明のために彼女を使おうとしただけで


それなのに

俺は何に憤っているんだろう?


それすら出来ない自分だろうか?

それとも選んでくれなかった彼女?

…あるいは神様なのだろうか?


それすらわからないまま声を荒げて

ずっと隠して言わずにいた

考えない様にしていた想いをぶつける


「俺には、そんな簡単なことも出来なかったみたいで」

「そんな俺しか頼る人が居なくて」

「王子様なんかじゃなくて」

「本当に残念だったな?」


そして、告げる


「…それが、俺だよ」

「小暮千秋って人間だ」




始まりが嘘ならば

積み上げられたそれらは


たとえ本当の想いが

紛れのない真実があったとしても嘘なのだろうか?




彼女への想いも

見続けていた時間も

交わした言葉すらも


ただ無意味で空虚なものに姿を変えるのだろうか?


その答えは、俺にも分からない


堪えきれなくなった俺は

何も言わない彼女を振り払い、逃げるように寝室を後にして


彼女には、ここ以外居場所はなくて

それだけは奪いたく無いからと

玄関から飛び出した



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



そんな彼を追いかけることも出来ず

独り残された紅い目から涙が落ちる


「…どうして夢を見せるんだろう」


…私は彼に求めた

この世界が生きていく価値もない

下らない残酷な世界で


そんな世界に生きていく位なら

死んでしまったほうが良いって

そんな照明を求めて


誰にも大切にされないって

そんな今まで通りの普通を求めたのに


どうして彼は

悲しい目をして傷付きながら


それでも

「そんなのは嘘だなんて」

言うんだろう


涙は止めどなく頬を伝って

それを止めてくれた優しい嘘つきは

居なくなってしまって


ーーそれはいつまでも流れ続けて

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