√2

奥野鷹弘

二兎を追う者は一兎をも得ず

 作家として、この世界にこびりついてからパソコンとよく睨むようになった。小学校の時の視力検査の結果が”A”だったことを懐かしく思いながら、どこまで視力が悪くなったのかと想いを崩しながら・・今日もパソコンと向き合う。


 毎晩のように見る夢とは違う”夢”は、感情によって大きく転職していく。いま置かれている自分の本職でさえ、フリーランスのまま。感情の転職よりよっぽど酷い。

 そんな自分自身は周囲から、タイトル通りに『二兎を追う者は一兎をも得ず』な行動を起こしていることは認識し直したい。周囲がどんなに夢と現実とで、そんなその二つを抱えて捉えようと頑張ってくれていても、僕は・・自分はその両腕から逃げ出してしまっている。

 どんなにウサギのように耳を大きくしていても、ウサギのような小さなジャンプだったとしても、それは自分なりの努力であって他人には理解しようがない。



 自分に降り掛かってくる空気が身に染みて狂う。自分がその環境を作り出したばかりに相手はなびいているのに、そのなびいた環境から得た風で自分の心が凍えている。『上を見て育つ』とは、よくいったものだ。…じゃなく、とにかく、先輩がいるという事はいい環境である。

 2番目以降のみなはそこから失敗を学んだり、知識を得てそれを踏まえての新たな試みが出来る。しかし何かと比べられたり、我慢させられたりもする。首位を獲る目標もまだ描くことが出来る。


 受験シーズンでもあり、自分が無職であることから”公立”を勧められてる妹を診ながら、目を背けるように、耳にイヤホンも付ける。自分を抜いた、兄弟による3度目の合格発表を、趣味と打ち立てた”随筆”で気を紛らわす。我がままばかりの自分を抜いて、きっと一番下の妹も公立合格は間違いないだろう。自分ばかりの自分は、私立だけがお似合いだ。それからの生活も中退という道ではなく、きちんと卒業して職に手を付けていけるだろう。

 2番目の気持ちはわからない。



 明日は個人においてのメンタルクリニック受診の日。疲れた眼を休めるのではなく、薬を何滴か垂らして涙する。濡れた頬を隠ぺいするが為に、服の袖がだらしなく汚れる。その経過を知らない、人物が1歩引いて不思議そうに距離を測る。

 『―—―ちゃんと、言葉にしなさい。

     それは、本人にしかわからない気持ちなんだから。』

  自分の主治医が出したアンサーは、本来の自分にとってアンサーでも・・周囲にとってはミスリードにしか過ぎない。


 誰かが残してくれた手紙に、『√2』というキーワードがあったのを憶えている。それは、「独りで”1”になろうとしないこと」という内容だった。そもそも”1”という数字は複数あって、創めて〈はじめて〉”1”になるという事。

 要するに『一人で何でも完結させてしまうな』ということを、永遠に綴られていた。『√2』という文字を、作文用紙1枚に、それもデカく、枠を思い切りはみ出して、太字で、何度も何度も細い線質を組み合わせて…。



 何度も云う。

 ”2番目”は、わからない。


 たぶん自分に芯と責任がないから解らないことも一つ。やることなすこと、あまり実感が得ることが出来なくて複数形になっていることも事実。興味の範囲が広すぎて、また戻ってきて反省もなく、生かすこともしなく、はっきりと言葉に出来なくて相手から「一番に思っていることはナニ?」といまの一番を伝えても、相手の様子から境界線がなく1番が判らないのは真実。

 ・・・であるならば、どうか読者にだけは、この思いを含めて”1”で、読者の気持ちが”1”で、そこから感じ取った自分が『√2=”1”』と考えることを許してほしい。


 何度も考えて、卒業を考え、それでも留まることをしてしまった自分に、エッセイ作品として書き留めておこうと思う。



―—―”2番目”。


 それがこの僕の、この場においての、作品の名誉もコンテストも乗かっているつもりもないながらの、『降り注いだお題に沿って、目標にたどり着く』という小さくて馬鹿げていて、もっとやるべき事があるはずの”2番目”をやっている周囲から見ると2番目な自分。

 ”2番目”のテーマを用いて、『書き上げる』『あきらめない』『中途半端』『自己の想い』をやり切ろうとしている自分は、どうか過去の自分よりも1番でありたいと願う――—。



 

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√2 奥野鷹弘 @takahiro_no_oku

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