あなたのことがわからない
まるのりとも
第1話
かぞくの話
三年一組
ぼくのかぞくはりょう親とお姉ちゃんがいます。
かぞくはいやなところもあるけど、けっこうなかよしです。
これからかぞくのことを、しょうかいします。
まずはお父さんです。
正直に言うと、ぼくはあまりお父さんのことが好きではありません。
いつもぼくのことをからかってくるからです。からかわれると、とてもイヤな気持ちになります。
でも、夜さみしい時にいっしょにねてくれるのはうれしいです。
つぎはお母さんです。
さいきん、お母さんはぼくにきびしいな、と思っています。
小さいころはお母さんとチューができたのに、一年生になったら、
「もうチューなんかしないんだよ。だって一年生じゃない」
って言うようになりました。
ぼくはいつでもお母さんにくっつきたいのに。ぼくのあいはつたわっていないみたいです。
お母さんには、「あいがおもい」と言われました。でも大すきです。
つぎはお姉ちゃんです。
お姉ちゃんは中学一年生です。
中学じゅけんをして、電車で学校にかよっています。
べんきょうができるから、ぼくのテストの点が悪いとからかってきたり、「バカ」とか「アホ」とか言ってきます。
お母さんに「そんなこと言うもんじゃない!」っておこられると、「だって学校でストレスたまってるし!外では言ってないし!」って言いかえしています。
ぼくはいじわるなことを言っていないのに、ひどいお姉ちゃんだな、と思います。
でもたまに、ぼくにおかしやジュースを買ってきてくれたり、ゲームであそんでくれることがあります。
いつもこんなにやさしければいいのにな、と思います。
さいごにぼくです────
######
「ちょっとさっちゃん、何書いてるの?」
仕事から帰ってきたお母さんが、突然原稿用紙をのぞき込んできた。
「ちょっとやめてよ!まだ書いてる途中!」
慌てて隠そうとしたのに、その前に原稿用紙は取られてしまい、すでにお母さんの手の中。
こうなったら読み終わるまでは返してもらえない。
私は諦めて、お茶を飲もうと立ち上がった。
「これ宿題よね?国語?お話でも作るの?」
「総合学習の宿題~。なんかね、自分とは違う立場の主人公にして、その人がどういう家族で、どんなことを考えているのか、考えてみましょう、って感じの」
六年生も二ヶ月過ぎたら、早い子は「思春期」になり、中学受験で塾に通う子も増えていて(私は塾には行っているけど受験はしない)、みんなのストレスも増えているらしく、ちょっとのことでクラスがギスギスするようになってきた。話し合いなんかすると、自分の意見を曲げない子も多いし、かと思うと他の人と同じ意見じゃないとダメって雰囲気になったりして(同調圧力?って言うらしい)、すごく居心地が悪くなる。
そんなクラスの様子を見ていた先生が、総合学習のコミュニケーションの時間を使って、同じ班の人がどんな環境で育って、どんなことを考えているのか、話を聞くという授業を行った。
それはとても楽しい時間だったけど、宿題で物語を作らなくてはいけないとなると、話は別だ。宿題が出たとき、「えーっ」って不満の声も大きかった。こんなの書いて、他の人の気持ちなんて分かるのかな?
「へぇ、最近の宿題っていろいろ考えなくちゃいけなくて大変よね~私の頃と大違い……あら、お茶ありがとう」
「どういたしまして。」
「それにしても主人公を男の子にするなんて、思い切ったわね。誰かに教えてもらったの?」
「授業中、班でみんなの話をいろいろと聞いたよ。橋本さんがいたから、参考にしてみた」
同じ班の橋本さんはいつもニコニコしていて、他の男子みたいに乱暴したりいじわるなことを言ったりしない、貴重な男子だ。
四人きょうだいの二番目で、姉、本人、ときて三人目だと思ったら双子だったそう(しかも二人とも女子!)。間に挟まれてるし、下は双子だし、何かあっても他のきょうだいには言い返せないし、親にもほっとかれてるんだよね~とあっけらかんと教えてくれた。
ちなみに私、
一人だから周りを気にすることはあまり無いし(良くも悪くも)、親も他の人と較べることは無いし、勉強も運動もほどほどで目立つところが無いし、周りの人がなんと言おうと、どうでもよかった。
それなのに橋本さんが、「二番目はやだよ、一番目が良かった。安田さんは一人っ子なんだよね、うらやましいよ」とちょっと強い口調で言ってきたときはびっくりした。
橋本さんの「二番目はやだよ」が妙に気になり、班の他の人そっちのけでいろいろと聞いてしまった。お姉ちゃんの立場だったら?妹たちの立場だったら?二番目以外なら何番でもいいの?きょうだいたちが嫌なの?
答えはお姉ちゃんも妹たちも、橋本さんから見たら一番になるそうだ。結局オレは二番目なんだ、と。なんかさ、姉ちゃんや妹たちが嫌なわけじゃないけど、親から見たらオレは二番目に感じるんだ、二番が嫌なんだ、って。
お茶を飲みながらそんなことを考えていたら、原稿用紙が戻ってきた。
「まだ、このお話続くのよね?」
「そうだよ、これから高宮和樹のことを書かないといけないんだから」
私は高宮和樹のことが分からなくて悩んでいた。高宮和樹のモデルは当然橋本さんだ(ちなみにお父さんのモデルは、うちのお父さん、お母さんのエピソードは同じ班の相田さんの弟、お姉ちゃんは夏目さんのお兄さんだ)。
きょうだいがいると、他のきょうだいのことを強く意識しながら生活をするのか。みんな違ってみんないい、という訳にはいかないのかな?やっぱり親の一番になりたいのかな?橋本さんのうちに秘めた一面を見せられたら、いい加減に書く訳にはいかなかった。
「まあ、高宮和樹のこと考えたら、男の子のことも下の子のことも多少はわかるんじゃない?もう少し色々と聞いてみればいいじゃない。出すのはいつなの?」
「三日後だから、まだ大丈夫」
そう、もう少し
「ところで」
お母さんがニヤリと笑った。
「高宮和樹って好きな子の名前?」
「そんな訳ないじゃない!女子ならみんな知ってる本の主人公の名前!」
お母さんが余計なことを言うから、やる気がすっかり無くなってしまった。
「高宮和樹」は周りの友だちも使う予定なのだ。知っている人の名前を使うことは怖くてできるわけがない。学校生活には、そんな注意も必要なんだから。
原稿用紙を片付けたら、ご飯の準備をするお母さんの手伝いをしよう。お父さんに話さないように、口止めをしなくちゃ。
私が
あなたのことがわからない まるのりとも @marunoritomo
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