1番だから
turtle
第1話
私はいつも一番。成績は学校で一番。容姿も自信が醸し出す快活さから2割増しに見える。当然手際が良いのでの運動神経も良く見られる。本当は50メートル10秒だけど、そんなことは日常生活では必要ない。
お姉ちゃんは可哀そう。成績は学校では中くらいだけど、私に比べられるらしく「いいなあ、貴方は。」
といつも呟く。そして習い事も続かない。
「だって、先生厳しくて、だって、一緒に習っている子に嫌がらせされて、だって、、、。」
また言い訳だ。私がこうすればいいのではと提案しても逆ギレされて、
「貴方はいいわよ私はどうせ。貴方がいるから私は永遠に2番目なのよ!」
そして泣き出しわめき散らす。これが出てくると両親の出番だ。姉の気持ちを引き立てるために慰め、褒め、姉の欲しいものを買い与える。
姉は短大を卒業すると両親のコネで会社に入り、同僚とできちゃった結婚をした。「やっと出ていけるわ、こんな家。」
吐き捨てるようなセリフを後に実家を後にした。母は悲しそうな顔をして、姉の為に結婚式のお膳立てをした。
兄弟の嫁と比べられないよう姉は一人っ子の男性を選んだ。始めはその企みは功を成していた。義理の両親も大切な一人息子のためにマンションを買い与えてくれた。しかし息子を産んで事情が変わってきた。夫は育児にかまけて自分にかまってくれない姉に不満を募らせていき、姉はワンオペ育児にてんてこ舞いでストレスでおやつを食べまくってどんどん太っていった。育児についてどこで誰に教わったらいいのか分からない。なんとか自治体の育児教室に辿りついても自分から質問出来ない。手取り足取り向こうから指示してもらわなければ何も出来ないのだ。要領の悪い嫁を観て義母は呆れ、夫に訴えててみたが大抵の男性がそうであるようにマザコンなので姉の味方にはなってくれなかった。
「どうせ私はどうせどうせどうせ、、、。」
繰り返される自虐の形を取った攻撃に嫌気がさして旦那は離婚を迫った。追い詰められた姉は旦那の同情を引くためにマンションのベランダから身を乗り出し、飛び降りるふりをした。驚いた夫は姉を実家に一時的に戻した。姉は母に育児を押し付けようとしたが、母も男の子の育て方は未経験で手に負えない。
突然姉は私の部屋に飛び込んできた。
「あんたのせいよ、あんたのせいで私は不幸になった、私もう駄目、死ぬ―。」
言い終わるや否やくるりと後ろを向き、一直線にベランダに向かった。叫びながらベランダから飛び降りようとする姉の腰に私は必死でしがみつく。手すりから身を乗り出して体をゆすって自分の苦境をわめき散らす。姉にしがみついていた私は姉の太った尻に弾かれて手が解け、体は宙を舞いベランダの外側に飛んだ。
今私は病院のベットの上に横渡っている。包帯がぐるぐる巻きになり、片目でしか外が見えない。チューブが繋がれ、動けない。いわゆる植物人間状態らしい。私のベットの横に立つ医師は両親に、訓練すれば瞬きで意思を伝えられようになるかもしれないが、現段階では分からないと告げているようだ。私の手に父か母の温かい涙が落ちてくるが、拭う事はできない。
両親はベットから一歩離れて立っている姉に告げた。
「貴方は自分の事はもう自分で対処して。この子がこんな状態では、私達はこの子の事で精いっぱいなのよ、わかるでしょう。ご主人と話し合って育児しなさい、そうね、あちらのお孫さんなのだからお義母様にも手伝ってもらいなさいよ。貴方も大変だろうけど、世の中にはシングルマザーで頑張っている人もいるのよ。」
話が進むにつれ姉の顔から徐々に血の気が引いていくのが片目でも分かった。私は声にならない声で呟いた。
「どう、お姉ちゃん。本当は私たちの間では私が2番だったのよ。貴方はいつも一番だった。一番気を使ってもらっていた。一番ちやほやされていた。でも、もう無理ね。」
私の片頬がほのかに歪んだらしく、両親は喜びの声を挙げた。
1番だから turtle @kameko1
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