三周年の記念日






「こういうのってさ~マジ悩むんだけどおめどう思う?」

「それどころじゃないだろ!」


「いやそれどころだろ。こういうの大事よマジで。

コスパ的には”本日の日替わりランチ 鳥の南蛮タルタルソース ライススープ付で500円”にドリンクバー190円てのがマジ最強なんですけど」


「聞けよ!」

「聞いてるって。彼女にデートすっぽかされたんだろ?

それで俺はチャリ漕いできたワケだ。このファミレス”ジョイジョイ”に。

おめーが何でも奢るつーからさ。やべーよ俺マジでやべー。

友人の鑑、フレンドミラー」


「すっぽかされてないっ!まだ待ってるんだ!

彼女が来るまで待ってやる!閉店まで!」

「ここ24時間営業じゃなかったっけ?」


「じゃ永遠に待ってやる!」

「ムキになんなよ」


「勝負はまだ終わってない!」

「あ勝負なんだコレ」


「ああ、もう俺には何が何だかどうしたらいいのか・・・」

「なんかまたこんぐらかった話みてーだな。最初から話してみろよ」


「・・・ああ」

「ところでさ」


「ん?」

「やっぱランチメニューだけだとちょっと選びづらいつーかさ、グランドメニューも見ていい?ちょっと高くなるけど。いいよね?」





「今日はさ、俺と彼女にとって特別な日なんだ」

「ふんふん。カツ重御膳、てこれカツ丼だよな?・・・¥1980円?高!」


「彼女に告白してOKを貰った日が3年前の今日」

「お~ミックスグリルってハンバーグとソーセージと

から揚げ入ってんだお得じゃ~ん♪」


「あんまり嬉しくて彼女と二人で入った店がここ」

「なるほどなるほど、パスタとピザと前菜で¥1680か~」


「その時彼女が言ったんだ。


     ”この日を私たち二人の記念日にして、

      毎年この店でお祝いしよ♥”


って」

「ん~でも男ならやっぱガツンとメガハンバーグチーズ乗せかなぁ?」


「だけど!一度もまともに”待ち合えた”ためしがないんだ!」

「え意味わかんね、どゆこと?」







「一周年の記念日。彼女は”先店入ってるね~♥”とメッセ送ってきた。

俺は後から店に入って店内を探したけど、彼女の姿が見当たらない。」

「女子トイレにいたとか?」


「それは無い。”そんなヒキョーな真似はしないよっ♥”って言ってるし」

「ヒキョーって、彼女も勝負気なのかよ!」


「・・・結局彼女が自分から出てきて、会えたんだけど」

「会えたん?どこにいたん?」


「喫煙室さ!俺も彼女もタバコなんか吸わない!この店の座席9割は禁煙席だ!

店の片隅の小部屋なんか探すもんか!」

「吸わないからって喫煙席座っちゃいけないって法はないからね~やるじゃん」




「二周年の記念日。今度は二人で店に来た。同時に入れば見逃さない。

でもドアをくぐる直前に電話来ちゃって俺は数分間彼女から目を離してしまった。

その隙に彼女は店に潜入して、消えてしまった」

「どうでもいいけどさっきからスパイ映画みたくなってね?」


「店は込んでて、空いてる席はなかった。カウンター席、二人席、四人席、

もちろん喫煙室も見たさ!でも彼女は居なかった!」

「おやおや」


「・・・結局彼女が自分から出てきて、会えたんだけど」

「会えたん?今度はどこにいたん?」


「団体の貸し切り席さ! あいつ、見ず知らずの!よその学校の!女子会に

潜り込んでちゃっかり席に座って周囲と同じように談笑してたんだ!

気づくもんかそんなの!」

「ぶははは!確かに知らないグループが盛り上がってても気にしないし

目だって向けづらいもんな~!。超盲点ってやつ?すっげーわ彼女?!

超やばコミュ力じゃん!真似できね~!受け入れる方もノリ良すぎ!」


「笑い事じゃないよ。・・・で今日は、その三周年の記念日なんだ」

「なあ?ガパオライスって知ってる?これ?チャーハンぽいんだけど」

「・・・聞いてたか?」


「こういうのってよ~見た目で判断するとヤバいんだよな。

店員さんに聞いた方がいいかな?ピンポン押していい?」

「・・・・・・聞いていたのか?」



「その三周年の記念日が今日で、彼女とおめーはこの店に来たと。

今年は店に一緒に入ったのか?」

「いや、彼女が一人で店に入ったのを見た。今から1時間前さ。

その後店を出てはいない。で、後から入った俺は、やはり彼女を見つけられない。

俺はもうどうしようもなくて、お前を呼んだ。それが今さ」

「うわ全部つながったわ~。なるほどね~それでか」



「俺・・・もうこれ以上彼女と付き合っていける気がしないよ。

いっつも振り回されてばかりだ。こんな関係が続くくらいならいっそ・・・」

「あんま思いつめるなよ。彼女はおめーのこと大事に思ってるって」

「テキトーな慰めとかやめてくれ!あの子にとって俺は

”からかう玩具”でしかないんだ!」

「落ち着けって、イージーイージー」


「ま確かにおめー、一途と言うか、思い込みが激しいというか、

視野が狭すぎるとこあるけどさ。だからこそ彼女にとっては

一緒にいて楽しい相手なんだろうなあ。わかるわ~マジわかる」

「なんだとぉ!」


「おいおい大声出すなよ。周りが見てるじゃんか。

マジ切れマジ勘弁だっつ~の」

「だけど!」


「聞けって。俺に言わせりゃ彼女はおめーにぞっこんさ。

” そ こ ま で や る か ? ”ってほどにな」

「???」


「いつ仕込んだかは知んね、けど年に一度、おめーと出会った記念日を

楽しむために、綿密に計画を立て、入念に準備してたってわけだ。

素敵な彼女じゃんか。大事にしろよ」

「どういう意味だ?」


「決めた!やっぱ俺はカツカレーだわ!

タマシイがそれを喰えと叫んでるわ!

押すぞピンポン!」

「おい!」


「・・・さっきから通りがかるウェイトレスさん、

どっかで会った気がするんだけど」

「!!!!!!!」






「・・・押していいか?ピンポン」







おしまい


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