壱図くんと茶雷くんと謎の彼女
椎慕 渦
二番目の窓
「おい」
「・・・・・・」
「おいって!シカトすんなよ!なあ!」
「ん?・・・ああ、おまえか」
「何してんのおめ?、昼休み終わるってのに、
こんなグランドの真ん中で、ぼーっと突っ立っちゃって」
「終わる?昼休み、もう終わりなのか?」
「終わるよ!もう12時55分だよ!5限始まるつーの!
えなにお前、まさか飯食わずここにずーっと立ってたん?
何それ罰ゲームかよマジで」
「い、いや確かに飯は食ってないけど・・・そうか・・・もう終わりか」
「今日はヤバかったぜぇ学食。”食券機の設定ミス”とかで全品半額ヤバイ。カツカレーも来賓用定食も半額ヤバイ!も~食いまくりマジヤバい!最初は訂正しようとしてた食堂のおばちゃんもしまいにゃヤケになってたみたいでヤバイ、マジヤバいアレは。おめーも来りゃよかったのによ。あ、購買で見切りのあんドーナツ買ったけど、食う?」
「いらないよ それどころじゃないんだ今」
「おんまえな、マジどうしちゃったの?マジヤバくね?」
「・・・・・・」
「つか行こーぜ。昼休み終わるってマジで。なにずーっと校舎ガン見してんだよ?」
「・・・二番目の窓」
「へ?」
「校舎の、右から、二番目の窓が」
「なにそれ?」
「昼休みの間に、開くのを、待ってるんだ」
「え意味わかんね、どゆこと?」
「・・・・・・」
「ケンカしたんだ アイツと」
「ケンカって・・・え?彼女?」
「・・・・・・」
「あららら・・・どうしちゃったん?おまえら超仲良かったじゃん。
一緒にいると”半径2m以内誰も近づくなオーラ”出しまくりだったじゃん」
「わからないよ・・・昨夜電話でいきなり
”あんたは私と向き合ってない”
”私の立場で考えてくれない”
”もう無理”
って!」
「へ~。で、そうなん?」
「なわけないだろ!・・・い、いや、俺はそうじゃないと思ってる。
電話でも彼女にそう言ったよ。でもあの子は頑なで」
「ふ~ん。でもそのケンカと今おめーがグランドに突っ立っているのと
何の関係があるわけ?」
「電話を切る間際にあの子が言ったんだ。
”もしあんたが私と本当に向き合っているというのなら、
明日の昼休み、校舎の右から二番目の窓から手を振るから
あたしを見つけて。それなら考え直す”
って」
「うっわ全部つながったわ。なるほどね~それでか」
「そうだよ!だから俺は昼休みのチャイムが鳴ると同時にここへ来たんだ!
こうして”校舎の右から二番目の窓”をずっ~と見てる!なのにあの窓は
閉まったままだ!人影すら見えやしない!」
「おいおい落ち着けよ。マジヤバいって。マジで」
「ああもうあと2分!昼休みが終わっちゃう!」
「落ち着けって、イージーイージー」
「ひどいよ!こんなのいいがかりじゃないか!
あれきり電話も出てくれない!既読もつかない!」
「・・・・・・」
「・・・これは口実なんだよ!きっとあいつ、違う男と仲良く・・・」
「・・・わかるわ~」
「?」
「彼女の気持ち、マジわかるわ~」
「なんだと?」
「彼女の言う通り、お前、彼女と、向き合ってないわ~」
「おまえなあ!」
「おいおいその胸ぐらをつかんだ手、放してくれよ。
マジ切れマジ勘弁だっつーの」
「だけど!」
「聞けって。お前とあの子の間に何があったのかは知んね。
でもな、確かにおまえは彼女と”向き合ってるのに向き合ってない”よ」
「???」
「つーか正確には
”彼女と向き合っているという事を正しく理解していない”って感じかな?
だから彼女を見つけられないし、
”彼女の立場で考えてない”なんて言われんだよ」
「どういう意味だ?」
「いいか?今のおまえは彼女と間違いなく”向き合っている”とするぜ?。
ならその時”左右”はどうなる?」
「・・・・・・」
「こうしてグランドから校舎を見上げているお前にとっての
”校舎の右から二番目の窓”は」
「・・・・・・」
「教室からグランドを見下ろしている彼女にとっては・・・」
「!!!そうか!」
「お前は校舎の右側ばかり見ていたようだけど、左側を見てみろよ。
さっきから二番目の窓が半開きになってて、
小さい手が必死に振られているのが見えないか?」
おしまい
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