‪③殺された獣の咆哮

「私が何をしてしまったか教えてください!」


続けてこう言うと心の動きを表すように、振り子時計の音がゴーンゴーンと鳴り響き始める。


鼓動は獣たちの身体を震わせ、時計に返事をするようにこぉぉおおおと吠え返し、白うさに真実を述べるように急かしているよう。


急かされている側は咆哮に対して、身体が無意識にビクッと動いているが、口は頑なに開かない。


その様子を見かねた獣は声を小さくしていき、最終的には白うさと嘲笑うように同じような動きをみせつけ始める。


……白うさも、剥製も、ホラー映画でケタケタと笑う髑髏(しゃれこうべ)みたいになってしまった。


まいったなぁ……先に急ぎすぎるのはまずかったかな?


私が何かしたならズバッと言ってくれた方が楽だし、先輩の様に"ぜひこの話を触れてほしい!"と言っているものかとばかり。


大胆な行動を起こす彼女だけど、自分の意思は遠回しに伝えようとする多少面倒臭い人でもあって……。


……あっ!


先輩と似たような見た目をしてるから、無意識に同じような考えだと思い込んでいたのかもしれない。


「いえ、やっぱいいです……私と皆さんに接点があったことは」


ドサドサドサッ!!


"分かりました"と言おうとした時だった。

頭の上から沢山の本が荒々しく落ちていき、机の上に衝突する。


反動でテーブルクロスはクシャクシャな皺ができ、フォークやナイフはシャリーンと音を鳴らし、本は焦げ臭く灰色な塵を撒き散らす。


「真実を知るにはまだはやい」


そして、透き通った男性の声が上から聞こえ、急に人の気配を感じ始めた。


男性の気配に異様な懐かしさと不安を感じ、私は気配がある方を見上げると、


「久しぶり、八重」


灰色の髪のオオカミの様な美形で、鋭い目付きをしたカッコイイ人が不気味に微笑んだ。


私の名前を知ってるなら……白うさの知り合いか、銀の鍵事件の関係者なんだろうか?


そんなことより、この人を見るとすごい鳥肌がたつ。体がこの人を拒絶している気がする。


「あの、怖がってますよ」


白うさは耳を垂れ下げながら、呆れた表情をみせる。


「やっぱ記憶ナシでも八重に嫌われてるのか、私は」


彼は狼の雄叫びをするように高笑いをし、黒い指先で涙を拭き、拭くたびに何処かの民族が付けてそうな線が目元に描かれていく。


いや、嫌いというより……。


「なんか生理的に受けつけない人だなぁ」


タイミングが悪い時に、私の本音が漏れてしまった。


「すっすみません!えってさっきのは……え、えーと!?」


焦りながら言い訳を探していると、彼はさっきより大きな声で笑いだした。

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