①殺された獣の咆哮

扉を開けた先には、小さな部屋の中が半分以上埋まるぐらいの長方形のテーブルが、真ん中に主張するように置いてある。


更にテーブルの周りを囲うように置いてあるアンティークな木製の椅子が6つ。


壁には見たことあるようなないような形をした獣の剥製や、植物などの写真が机を見下ろしていて。


周りに置いてある複数の剥製達は、料理を残さないように見張っているみたいだ。


「……凄い、威圧感」


自ら私達が足を運んでここまできたのではなく、この部屋が私達に料理を味わうよう、誘導しているような錯覚に陥ってしまう。


「えーと……席は、あっあそこ、みたいですね!」


白うさは剥製が怖いのか、タタタッと駆け足で一番奥の席に向かい、机に置かれているハートのマークが描かれた札を凝視しながら座る。


私もその向かい側の席に着き、机の上を見渡した。

うすだいだい色のランチマットが4つ。後、同じ様に木札が1つ……。


「まだ、他の人達はきてませんね」


「んー」


白うさは扉の上にある振り子時計を見て、


「ああ……少し時間が早かったようですね。今は、水を買いに行くかな?」


と少し震え声で言い、顔をまたテーブルへ向ける。


「水を買いに?」


「ええ、この街の水は地下水を組み上げる装置がある、お役所で買わないと手に入れられませんからね」


「お水が貴重な場所みたいですね。お役所?真ん中のお城みたいな所ですか?」


「はい、だから収入不安定な冒険家の人々は、狩り終 えた他の生き物の体液や、森の樹液を飲むのが主要だとか。 まぁ……言っちゃえば王様みたいな存在も居ますし、お城なんですけどね」


冒険家という職業柄があって……お城には王様がいる。先輩が好きそうな世界観で、良くしているゲームの内容にも似た状況。


「魔王がいそう……あっもしかして!その魔王を倒せば銀の鍵事件の真相と共に元に戻れるとか!!」


それなら希望が見えてくる!


最近は神的な存在に物凄く強い力を貰い受けてから、別世界に飛ばされる話が多いとも先輩から聞いた!


ああっそう思うと、また何故そのジャンルを触れなかったかと思ってしまう。


「違います」


「あっ……はい」


白うさは私の憶測を全否定し、ボソッと小さい声でこう言った。


「……僕にとっては、あなたが魔王だと思いますがね」


「えっと……どうゆう意味でしょうか?」


白うさの返事は来なかった。

そして彼は何か嫌なことでも思い出しまったのか、頬杖をついて呆然としだす。


この言葉に対して、何か突っかかる。


……いや、違う。

本当は自分でも予測はついているのだ。


白うさの言動といい、この世界に来てからの不安感も。


あの魔法の時の夜空 蕾と川口 彩花が私を発見して驚いた理由も。


昨日の夕方に言おうとして閉ざされてしまった言葉を言えばいい。


けれど言葉を言うと、先輩と一緒にいたあの日常を否定し、個人的に好ましくない魔法の存在を肯定するようで嫌だった。


でも……。


「白うささん」


「……はい」


彼は察したのか耳ををたらんと下げて、肩の力を落とした。


その様子を見て、やっぱり違う話題に切り替え、誤魔化そうかと考えてはいた。


「もしかして」


でも口は一向に止まろうとしない。


人間の好奇心という本能が剥き出しになっている状態から抜け出せない。


「私とお知り合いでしたか?」

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