⑤曖昧な記憶と不安定な魔法の存在

「……まぁ治ったっのなら、よ、良かったじゃないですか」


白うさは何か後ろ冷たいものがあるのか、目を逸らし言葉を詰まらせていた。


何故、そんな様子なのかが気になるところがあるけど、白うさが私をここへ連れてきた理由。


昨日の夜空 蕾だと名乗る人物がどうなったのか……他にも色々な疑問が沢山ある状況で、人のことまで考えている場合じゃないよね。


「本当に治って良かったですよ!あのままだったら死んでいたかもしれませんね!」


私は気になることがあることを大雑把に笑い誤魔化した。


自分の気持ちを偽ったせいか、なんだか心が虚しい。


この感情を抑えるように、白うさの顔や返事を確認しないまま、早々と階段を駆ける。


「ぁ……」


そして、キギーという木々の擦れる音で彼の言葉を掻き消していく。


「ぇ……ぃ」


今朝の不安も吐き気も治っている分、身体が軽い。


多分、大丈夫だよね!

誤魔化せてるよね!?


いちいち細かいことを気にするなんて、自分らしくないじゃないか!

この世界にきてからごちゃごちゃしてるだけっ。


ダン!


「いだぁ!」


私は階段降りた先にある、木箱に思いっきり足の指をぶつけた。


「ぁあっ足腫れてませんか!?」


すぐ後ろに居る白うさの心配する声がする。


……また心配させてしまった。

……川口 彩花を。


「はい!大丈夫です!」


私は振り向き、無理やり笑顔を取り繕う。それから早々と立ち上がり、タッタッタと白うさを通り越して行く。


「そうですか」


この私の行動に対して、悲しそうな声を返してきた。


胸が縮んで破裂してるように苦しくてシンドい。

でも心の奥底でシュンとした声を聞いて、安堵している自分もいる。


今歩いている道も箱に道幅を狭ばれていて窮屈なようで、窓から光と風を体感でき、心地良いよくも感じて。


「……ユラユラする」


「ゆらゆら?」


心の中が漏れる。

その言葉を聞いた白うさはキョトンとして、どうゆう意味か分からないようだ。


「はい……私にもよく分かりません。川口さんの言葉を聞くと、何故か心がユラユラと揺さぶられているような感覚になります」


「へ?」


「いっいえ、何でもありません」


わざわざ口に出すことでもないか。

確証はないけど川口 彩花や夜空 蕾という銀の鍵事件に深く関わりがある人に会って、少しだけドキドキしているのだろう。


でも、今は銀の鍵事件について調べる場合じゃない?


この世界や自分の置かれた状況について知らなければ。後、家族や先輩が待っている場所に戻る方法、白うさがここに連れてきた理由を奴に恐喝してでも聞き出さねばいけない。


「白うさに刺されたことも。

唐突に別世界に連れていかれたことも。

カフェでわけも分からず魔法にかけられ、目を覚ま すと夜空 蕾の形態が変化するような不可思議について後々の説明もない。

だから彼に対してイラついているのは確かだし……少々手荒な真似をしても私は悪くない!うん!」


「うん、じゃない!手荒な真似って何をする気なんですか!?ほっほら……ドアの向こうには美味しい朝食が待っていますし、一緒に食べましょう?食べながら話をしましょう!?」


私の言葉を聞いた白うさはフォークとナイフの形に彫られている丸い扉を、焦りながら横から指を指す。


……浅い心の声が口にでただけで、深いところでは個人的にはなるべく穏便に済ませようと決めているのだけど。


「今日は見逃してやろう……だが、明日があると思うなよ」


「え?ちょっと!?嘘ですよね!?」


腹が立っているのは確かなので、暫くの間、こんな風に白うさを焦らさせて遊んでやよう。


私はそう決心し、後ろで焦っている白うさにニヤついついる顔を見られないように、振り返らないでドアを開けた。

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