White Country

①曖昧な記憶と不安定な魔法の存在

薄暗い部屋の中。カーテンがなびくたびに日光が差しかかり、ガヤガヤガラガラと人が働き始めている騒音が聞こえ始める。


今何時!?

急いで学校に行かないと!!


私は外の騒がしさに焦りを感じて、無理矢理目をこじ開け、更に掛け布団を投げ捨てた。


しかし、馴染みのない柑橘系の香りとベッドの感触と、外からはカラカラとドラマでしか聞いたことがないレトロな滑車が回る音。


カーテンから外を覗くと、モフモフの尻尾があったり、眼の色が違う外人さん。滑車の音の正体は、馬車で木箱や樽が積まれていた。


そうだ。

ここは宿……自分の知らないところ。

学問を学ぶという学生の為の仕事場への順路さえ分からない。


そしてベッドに横たわり、布団を深々と被る。


ココ、イセカイ。

センパイハマッテナイ。


いつもとは違う朝。

私の体がガクガクと震えだす。


思えば登校する時も、昼も、放課後の部活動も、ずっと一緒に居るのは先輩だけ。


他の友達は居るし、遊ぶことも少なくない。けど、控えめで自己主張が激しくない子が多く、自分が相手に対して気疲れしてしまったり、本当に楽しんでいるか分からない。


でも、先輩は遠慮がないというか。

いつもノーテンキで自分に正直で、真っ直ぐで、己を貫いている感じだ。それにムードメーカーで、皆んなを盛り上げることが上手い。


偶にやり過ぎな所もあるし、普段はウザいと感じてしまうが、私はそんな先輩に憧れている。


彼女のように人を盛り上げることや、自己主張が強くなれば。きっと友達に遠慮されることも、気を遣い過ぎて、疲れることも無くなるのだろう。


………でも、時々。

彼女は無理をしていないか不安になる。

偶に大人びた表情の裏に、何か無理をしているのではないかと。


友達と同じように、私と似たように、人に遠慮しているのかもしれない。


「……モヤモヤする」


私は近くにある枕に抱きついた。


違う。

今はそうじゃない。


朝、母親と父親と一緒に朝食を摂り、先輩と登校して、学校で友達と話し、放課後には新聞部の部活動。


当たり前の生活が消えてしまう。

そんな不安が渦巻いて、頭が混乱する。


魔法という曖昧なモノが存在している世界があるなら、私が日常と認識している世界が偽物という可能性だってあるのだ。


もしかしたら、両親や先輩の存在も虚像で、こちらの世界が普通なのかもしれない。


私達は異世界転移していて、複数人が病院で昏睡状態だと説明はされたけど、何かの魔法でそう思うように植え付けられていることもあるかも知れない。


不鮮明で不安定なモノ。そんなものが普通に使える自体、こちらの世界の方が向こうの世界より強い。格差があるのは明らか。


ここの技術が余り発展してなさそうなのも、魔法があるから必要なもの以外つくる必要がないからかもしれない。


私の頭が膨大な妄想や予測を膨らましては、風船のようにパァンと破裂させていく。


その度に頭のグラグラが加速し、気分が悪くなる。考えないようにしても、考えないことをどうするか考えるように悪循環を生み、吐き気が酷くなった。

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