②人間じゃない、ケダモノ
「に、逃げるのですか?」
彼は笑顔ではいと答える。
夜空蕾を置いて行くことになるけど、いいのかな!?元を戻す方法があればどうにかして欲しい。
だって、やっと見つけた銀の鍵事件の鍵を握っている人を逃したくない!
でも。
でも!
木片とガラスが散らばった所からガウヴルと声がする。声の主はコウモリような赤茶色の翼を生やし、私たちを赤い眼で睨みつけている。
……怖い。
あの生き物が元人間だと分かっていたとしても、体が強ばって動かない。アレを拒絶している。
それに自分はこの世界について詳しい訳じゃない。そもそもいる場所もよく分かっていないのだから、判断しようがない。
「………分かりました」
なんとかしたいと気持ちを抑えて、白うさの意見に賛同した。返事を聞くと、薄ピンク色の目が少し潤みだす。
何故か彼の様子を見ていると、私の胸がざわついた。
こんな状況じゃ自分もモヤモヤするよね?
不意に疑問詞が出てきた。
理由は、この感情が嫉妬や羨みだったから。
「さぁ!ささっとここからでますよ!」
白くて細い手が差し出される。
そうだ、今は考えている場合じゃない!
逃げた方がいいなら逃げないと!
差し出された手と自分の手を繋げた。後ろから、ケモノの雄叫びとレンガが崩れる音。
「行きますよ!」
白うさは私を手を引っ張り、レンガの壁を右手を伸ばし、静かに2回ノックする。
「静かにしてくださいね。目撃されたら面倒なので」
そして、口元に指を当てて忠告してきた。耳がピーンと立ち、人々を警戒していることが分かる。
やっぱり、この状況はこの世界でも普通じゃないんだ。
白うさが逃げる判断をしたのも、異常事態でどうしようも無いことだから。
風変わりした世界でも、人がバケモノに変化することが異常な事態だと知り、焦りがじわじわと奮い立たせる。
だけど扉は待ってくれない。
心の安心の時間などくれず、パタパタ音を鳴らし、空洞が創られていく。
私達は目撃されない様に、空洞ができる場所から左にズレて、しゃがんで身を隠した。
「バケモノ!バケモノが!」
「は、はやく!誰か!」
「あっあえ……」
勿論、外はおぞましい姿を発見した人々の甲高い声がし始めた。
そして、住人達はあっちこっちへ遠くに走り逃げさり、好奇心旺盛の子供も、大人達の反応を見て、便乗するように遠ざかって行った。
「……今なら、大丈夫そうですね!」
「はい」
私と白うさにも逃げるタイミングが来た。
グガガ……ゥヴ。
あの子が苦しんでいる声がする。
なのに助けようともせず、恐れるだけ。
私も、住人達も、白うさも。
どうすることが出来ないのだろう。
自分に対しての怒りと、恐怖に対しての共感が生まれた。
「さぁでます!」
もう日は沈んでいて、橙色の空模様。周りには人の気配は無く、ケモノが吠えている声しかしない。
「少し遠くの場所に宿があります!今日はそこに泊まりましょう!」
カフェを後にし、2人で手をつないで走り出した。白い頬や髪が揺れる度に、光が反射していて、星みたいだ。
そして心の奥底の中、ひっそりと。
"自分があの2人に話しかけたから、あの子が変化してしまったのかもしれない"
という様な不安や罪悪感が私に渦巻いていた。
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