⑦真っ暗な空に星の光を
なーお。
獣の声が聞こえる。
多分、その正体は猫だ。
激痛の渦の中。
私の体力が削られ、気絶しそうになりながらも、微かに聴こえる獣声を捉えた。
パチパチパチパチパチパチ!
目をつぶっていて、雑音で位置が把握出来ない関わらず、猫はこっちへ真正面に進んでいることを感じる。
真っ直ぐ迷うことも無く、私の方に走ってくる!
「ぐぅ……ぁね、こ、さん!こっちぇ……きたら……ダメ」
咄嗟に"猫を止めないと!"という言葉が脳裏に浮かび、硬くなった口を無理矢理動かした。
しかし、ケモノの気持ちは揺らがない。強く硬い意志をもっているように、足を止めることはない。
パチパチパチパチパチパチパチ!
進むために必要な鍵は、激しい音発しながら残酷に体を蝕んでいく。
あの猫がこっちへ来たら、進まなくなってしまう。
あの猫がこっちへ来たら、紐は千切れたままになる。
あの猫がこっちへ来たら、炎の犠牲になってしまう。
あの猫がこっちへ来たら、幸せな日常に戻れない。
「……っぁあ」
あの子を犠牲にする訳にはいかないのに。
口で伝えようにも上手く話せない。
仄かな暖かみと重さが左肩に触れる。
猫が私の体に乗っかってきたのだろう。
パリップシャァ。
無様に炎が離れていく。
あの子が咥えて引っ張っているのだ。
炎の痛みがスーッと抜け、重い体が軽い。私が目を開けると、真っ黒い猫が炎の塊を咥えながら、少しだけ爪を剥き出して肩から降りて離れていくところがうっすらと見える。
周りも変化していて、学校の図書室から、強い雨が降り続け、水溜まりが沢山ある場所になっていた。そして、咥えているモノの炎は消えていき、ボロボロの鳥の死体になってしまう。
立ち上がる気力がない私は、横になりながら、ボヤけた目で猫の様子を眺めることしかできず。動けないことの悔しさのあまり、顔も制服も水でぐしょぐしょになっていく。
「うゔーぅうう」
私はあの子のことも知らないし、あの炎が何かも分からない筈なのに、こんなに"止められなかった"ことに対して悔しいと思うのは何故だろう?
大切なものを忘れてしまっているだろうか?それとも、誰かに忘れるように仕向けられてしまったのかもしれない。
訳が分からないまま、目の前が涙がぼやけていく。
その様子を見兼ねたのか黒い猫はボロボロになった鳥を地面に置いて、ピチャピチャと足音を鳴らしながら近くまで寄って擦りついてきた。
猫はふわふわ濡れない。
ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえる。
だけど、この感触や喉のゴロゴロの音も造りもの様な。猫の皮をかぶった違うケモノみたい。
………雨が降っているのに関わらず、体の体温が低下していない。寧ろポカポカしてて暖かいや。
私の瞼が少しずつ下がっていく。
すると猫は擦り寄るのを辞めて、満足そうに目を細める。そして、黒焦げの鳥を拾い上げ、ピチャピチャと足音を鳴らしながら遠くへ歩いて行った。
猫の姿が小さくなっていくに連れ、雨もザーザーと強くなり、周りが真っ白の色に塗りつぶされていく。
私は眠気が強くなり、瞼をゆっくりと閉じた。
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