③赤ずきん少女の不思議なカフェにて
「川口彩花!?」
私は机を叩き、席から立った。
ダンッと音の後、紅茶やクッキーのお皿がグラグラと揺れる。
銀の鍵事件の被害者である人の1人。
川口彩花が目の前にいる。
確かに先輩から貰った手紙の宛名にも書いてあったけれど、白うさが私を騙すための罠だと思っていた。
いや、まだ信じないぞ!
異世界に移動したとか、魔法とか意味の分からない事を言っている奴らだ!
見た目も可笑しいし!
それに彼女は病院で昏睡状態で、話すらできない状態のはず!
見た目も可笑しいし!
うん。
うん、ここは一旦落ち着こう。
平常心……平常心。
……。
「うそうそうそうそですよね!!」
しかし、心と身体が一致せず、興奮したまま叫んでしまう。
すると、白うさはため息を吐いて、紅茶を一気に飲み干した。
「はい、そうです。そうです。僕は川口彩花ですよ!」
そして、あからさまに不満そうに述べ、空になったティーカップを力強く置いた。机の上の物が叩いた時と同様に、地震が起きているみたいにグラグラと揺れる。
「机の揺らすのは良いが……もうちょっと落ち着いて話せよ」
紅茶を少しだけ飲んだ後、少女が赤い目をギロりと光らせる。
「「は、はい」」
目つきの怖さから私と白うさは、蛇に睨まれた蛙のように固まった。そして、素早く椅子に座り、静かになる。
……また気まづい状態になるのは嫌だなぁ。
けれど話題があり過ぎてどうすればいいのだろう。
後、興奮が収まらない。
銀の鍵事件に関わる人が、しかも当事者がいるなんて。
学校で調査しても何も進まなかったのに、こんな不可解な場所で出会うとか。
まるで、推理ゲームを冒頭みたいで、わくわくしてきた。
「ふへへ……」
無表情でいようとしても、ニヤけが止まらず、口が緩んでしまう。
「なっ何か八重さんの様子が可笑しくないか?」
少女は私の変な様子を見て、若干戸惑いの表情を見せる。一方、彼の様子は彼女とは対称的で、落ち着いていた。
「ユッユキがこの状況で戸惑わないなんて、可笑しいぞ!二人共どうしたんだ!?」
更に彼女は白うさの様子が不気味なことから、焦りと不安を感じ始める。
そして、不気味な生き物が笑顔でこう言った。
「いえいえ、何でもありませんよ。蕾さん」
「えっ?」
白うさの言葉で驚かされる。
川口彩花が居て、今度は夜空蕾がすぐ側にいるだと!!
「私の名前を言ってくれてありがとう」
暴露されて怒った彼とは違い、彼女は全く気にする様子がない。その冷淡な返しに白うさは悔しそうな顔をし、涙目でポカポカと優しく殴りだした。
「……ふぐっまだだ……信じない信じない」
私の頭の中の天秤が突飛な話を信じるか、信じないでグラグラと揺れだす。
もしも話が本当で銀の鍵事件に関わりがある人が異世界にいるとすると、現実世界で刺された筈なのに傷がない理由や、この変わった世界観について、ある程度納得できる。
けれど、個人的に2人が信用出来る相手と言われるとそうでも無いと言うのも事実。後ろから鋭い刃で刺殺してきた奴と、殺人犯の友人という時点で信憑性が低い。
しかし!
不思議な行動の理由が異次元に連れていく条件が鍵を刺すことで、私を何かしらの事情で連れて行かなければならなかったということだったら?
「……うーん、何か。2人だという証拠があればなぁ」
考えていることが、また口から漏れだす。
すると白い耳をピクっと動くと白うさの手が止まり、彼女が解放される。そして、2人は小声で話し合いを始める。
……なんだろう。
2人がヒソヒソ話している様子を眺めていると、複雑な気持ちがでてくる。
私はなるべく気にしないように、紅茶を啜り飲む。紅茶はもう生ぬるく、スッキリ味の後に茶葉特有の渋味が広がっていった。
そして、ティーカップに入っている紅茶を全て飲み切ったタイミングで、2人の話し合いは終わって満足そうな顔をする。
「これを見せたら信じてくれるのか分からないけど、お互いにモヤモヤし続けるのは嫌だろ?」
私は2回うなづくと、少女は席から立ち上がった。それから、カウンターの奥へ戻っていき、何かを持ってきた。
持ってきたのは月夜高等学校指定のカバン もこれでも驚きなのに、ガサゴソと中から2つのものを出てきた。
まず1つは学生証で私のとは違い、ボロボロの状態だった。
そしてもう1つは、赤紫色の和紙で作られたアジサイの花がついたストラップだった。
「学生証を渡すから、手でしっかり持っといてくれ」
少女は私にそう言い、学生書を投げた。私は慌てて立ち上がり受け取る。
そして書物の裏面を見ると、夜空蕾と名前が書いてあり、黒の長髪で、少女と同じような目の色は違うが目付きの悪い女生徒の写真が写っていた。
確かに似たような雰囲気もなくも無い!
私は写真と彼女をチラチラと何回も見比べる。
でももう1つは何なのだろうか?
自分には覚えが無いものなのだけど、何か意味はあるはず。
考えていると白うさが立ち上がり、少しだけ彼女に近づく。そして、同時にうなづいて、決意をしているみたいだった。
「じゃあ、始めるよ」
こう彼女が合図のように言うと、もう1つのものを祈るように握りしめる。すると、握りしめている所から、黒いモヤのような物が漏れだす。
「へ?」
私は嫌な予感がし、後ずさる。
しかし、時既に遅し。
少女はゆっくりと眼を開けると共に、黒いモヤが帯状の形になり、私達を捕まえるようにシュルシュルと音を鳴らしながら円状に伸びていった。
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