②赤ずきん少女の不思議なカフェにて

うん……話が突拍子すぎる。


信じがたい話だけど、確かに獣耳と尻尾がある人種が地球にいると思えない。それに姿が見えない少女の時、魔法がとかこの世界だとか言っていた。


……いや、待って!

大切なことを隠すために使っている隠語かもしれない。獣耳は付けているかのうせいもあるし!


サスペンスではよく麻薬の取り引きや詐欺グループ、会社の違法資金の運用場所とかで使われたりするもんね!


ってことは、白うさ以外もグループ班の犯行になるのか……アハハ。


私にそんなことする価値があるのか?

騙しやすそうだと思ったのかな?


「何の話をしていたのか?」


こんなことを考えていたら、横から不機嫌そうな声が聞こえてきた。


そちらの方を見ると、赤い頭巾を被った少女が、両手で木製のおぼんの上に白くてシンプルなティーポットとティーカップが3つと、平皿に色々な形のクッキーを持っていた。おぼんの上にある物を静かに乗せ、紅茶をゆっくりとそそぐ。


「ここの場所について説明していたのですよ。紅茶とクッキーありがとうございます……ぇーと、救急箱は?」


白うさは声を少し震わせながら、左右をキョロキョロと見渡している。


彼の様子をチラリと見た後、少女はポットを机の上において、カウンターの上に置いてあるバスケットを持ってきた。


そして私の方を睨みつけるように凝視する。


何か怒っているのか気分が悪いのか分からないけど、蛇みたいな鋭い目線が怖い!怖い!


彼女が見ている間、身体が強ばって肩の力が入ってしまう。


「あーはいはい……唇に噛み傷だね」


そう言うと救急箱を開けて、薄肌色の布と茶色い試薬瓶を取りだした。


試薬瓶の蓋を彼女が開けると、ヨモギのような草っぽい香りが部屋に広がっていく。

そして、鼻にツーンと匂いが染み渡り、少しだけ頭がヅキヅキと痛くなる。


「ゔっ」


匂いを嗅ぐたびに段々と頭痛が酷くなっていき、白うさも薬品の匂いが苦手なのか、顔を青ざめて指で鼻を抑えた。


一方、彼女は私と白うさとは違って薬品の匂いを気にする様子は無く、テキパキと布を薬瓶の中に入れて、溶液を染み込ませいた。


そして、瓶から薄肌色から赤茶色に変化した布を取り出し、私の方へ近づけてくる。


「んゔ」


うん。

これはやばい。


マッキーペンやキシレンで良くあるツーンとした感覚に、漢方薬独特の臭さが混ざった様な匂い。


しかも近くで嗅ぐにつれてキツくなっていき、目に涙が止まらない。


「はいはい、我慢我慢。もう少しだけの辛抱だからね」


少女という名の悪魔が、片手で顎をクイッと上げて、匂いの元を近づけてくる。心なしか彼女が嘲笑っているかのような表情が見えてきた。


「んんんんんん!!!!!」


私は恐怖のあまり、口を閉じながらも叫びだした。しかし、彼女は容赦なく患部にそれを丁寧に塗り、その上に白いテープみたいな物を貼り付けられる。


更にじーと傷口をガンを飛ばしているように観察したのち、


「うん!これでよし!」


と満足気に言い、微笑む。


「あっ……ありがとうございます」


私は涙目のまま、一礼して彼女に感謝を伝えた。薬瓶や治療に使った物を片付けに集中しているのか、無言で顔を1回下げて"いえいえ"と言葉を伝えてくれた。


そして、1回茶色い尻尾を立たせた状態で静かに白うさの隣にある椅子に座り、クッションと背もたれの間に体の一部分を差し込ませる。


「話を中断させてしまって申し訳ない。続けてくれ」


彼女はそう言いい、ティーカップを両手で支え、1口飲んだ。


隠語なのか、薬的な意味の別世界だったら嫌だなぁ。


「えっと、確か"此処が別世界"ということは聞きましたが……どうゆう意味でしょうか?」


目を擦り涙を拭いた後、聞いてみた。


すると、2人が顔を合わせ、次に腕を組み、難しい顔をする。


それから、少女が意を決したように鼻息をスンッと立てて、口を開いた。


「……私達が住んでいたり、暮らしていた地球とは、生態系や生活感が違うっていう意味」


「簡単に言えば、異世界転移?でも体は病院にありますから、複数人で夢を見ているような状態ですね」


白うさも言葉を思いつき、ティーカップを置いて話す。


……地球とは違う。

……異世界転移。

……複数人が病院で昏睡状態。


「……嘘、ですよね?」


また頭がグルグルと回り、困惑しだす。

ここに来てから、有り得ない言葉を聞いたり、存在が曖昧なモノや変なカラクリを見てきて、更には自分が昏睡状態?


銀の鍵事件について調べ過ぎて、とうとう頭が可笑しくなったのかな?

白うさに刺され、病院で昏睡状態って所が似ているし。


「嘘じゃない。確かに私達の意識は異世界にあって、身体は向こうに置いてきぼりだ」


少女は真剣な表情でこう言い、クッキーを右手で取った。そして、洋菓子を食べ終えると、横目で白うさの方を見る。


「そうだよね、彩花?」


この質問に白うさ……いや、川口 彩花は答えず、俯いたままティーカップをユラユラと回し始めた。













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