③気がついたら見知らぬ世界へ

その後、疑われていたことがなかったことになったような勢いで事が進んでいった。

 

門番さんに私のパスポートや住民票などの仮登録の手続きをしてくれたり、町の地図と“manual”と表紙に書かれた茶色い分厚い本を渡されるし。“持っていたほうが便利でーすよ”と言われ、大量の教材を動物の皮で出来たリュックサックにまとめて詰めて貰ってしまった。

 

詰めている途中で“IMAGINATION”というタイトルの本を見つけ、魔法関係のモノなのか思い開けてみると、英語文で書かれていることが分かった。

 

ここで使われている言語は英語だと理解できたことと、今までまともに勉強してなかった自分に後悔していた。

 

最後に私の体が動けなくなった訳、何故変な疑いが晴れたのかと二人に聞いてみたら、

前者の方は“疲れていたのだろう”。後者の方は“昔、白うさが森に迷い込んだ子供を拾って来たことがあるから、今回も同じパターンだと思った”ということになった。

 

私は正直二つとも納得出来なかった。

 

疲れているだけで一定時間立ったまま体が動かせなくなるなんてどう考えてみても可笑しいし、誰かが手を叩いた後直ぐに戻るなんてタイミングが良すぎる。

 

後者の方も、白うさが説明していた時は納得してなかったのに、こんなどんでん返しが起こるわけがない。それに、小声で話す必要性もないはず。

 

けれども二人はそう嘘をついた理由や、話した内容が分からないと反論できない。

それに今の目的はこの街に入ることなので、いつか白うさがポロっというかもしれないと思い、自分は妥協せざるを得なかった。

 

そして門がギギギと音を鳴らしながら開け、私は少し重たいリュックを背負って街に入った。

 

中には焦げ茶色の木のようなもので出来ている屋台が建っていて、沢山の人が屋台を物色したり、何か交渉したりして色々な声が飛び交う。そして遠くの方が気になり見てみると、白い石が埋められた道と大きい4つの窪みが一直線上に続いていて、行く手を見ると洋風のお城が立派に我が物顔で立っていた。

 

「おおー凄い凄い!!」

 

私はテーマパークみたいな世界観にテンションが上がり、人混みの中でピョンピョンとジャンプする。

 

「…….ちょっと落ち着いてください。行きつけのお店があるので、早くそこへ向かいましょう」

 

その様子を見た白うさは少し頬を赤く染めて恥ずかしそうな表情で止めてくるが、私は感情が抑えきれなくなっていた。

 

あと白うさを信用していいのかまだ分からない。

自分を刺したのに私とことを進めている理由や、さっきの尋問の時を含めて怪しい所が多すぎる。

 

何か恐ろしいことを隠しているかもしれない!

なら相手を動揺させる行動を起こしてボロを吐かせれば、彼の目的も分かるはず!

 

サスペンスドラマでも犯人を罠に嵌めたり、揺さぶらせて証拠を得たりするし、いける気がしてきた!

 

まぁ、ただ単に街を周りたいという気持ちもなくはない!

初めて見る光景だから仕方がないよね!

 

「話は後にして少し街を探索しますよ!白うささん!!」

 

「ちょっと!何言っているのですかああああああああああああ!!」

 

私は白うさを無理やり引っ張りだし、思いっきり街を走り出し始めた。

ふふふ……これなら多少なりとも町の探索できるし、場所についても色々分かることができるかも。

 

「白うささん!私、わくわくしてきました!」

 

自分がこんなにも胸を躍らせているのを主張するように叫んだ。

その声は、街の人々や人の様なモノをわわっと驚かせたりクスっと笑わせたりして、元々賑だった場所をもっと賑やかにさせる。

 

白うさはますます人々から注目されて恥ずかしいのか、

 

「はっ初めて見る光景で期待に胸を膨らませるのは分かりますが……はぁ、一回落ち着いてっ探索しまっせんか……はぁ……後っめ目立って、は、はずっかしいです」

 

と顔と耳を下に向かせながら、こう弱弱しく言った。

 

ああっどこに行こうか!

取り敢えず、走り疲れて止まるまで走ればいいか!

 

私は白うさの言葉は聞こえていたが頭に入ってこない。人目も全く気にならなくなり、そのまま走り続けた。

 

それから自分の気分次第で道を左右に曲がり、坂道を登って行った。いつの間にか景色も変わっていて人が殆ど居なくなり、埋め込まれている石の色が灰色から黄色になっていた。

 

私は景色が変化しているのが面白く感じ、周りを見返しながら走り続ける。

クリーム色の壁と赤や橙色の屋根の家が一直線上に並んでいて、住宅地なのにお洒落で素敵きだなと思っていると。

 

ふと、家の向こう側が視えて呆然と立ち止まってしまった。

向こう側の様子は白い靄がかかったようにぼやけていて、はっきりとした人の動作や容姿は視えないはずなのに。


小さな子供がお母さんとお父さんと一緒にテーブルの上にある料理を分け合っている様子が、頭で勝手に映し出されていく。


勿論、私も体験したことがある光景で、図書室に行く前にも一緒に食べたはずなのに。


この当たり前な光景が凄く程遠い場所へ逝ったきがして。もうあの日常には戻れないきがして。


……何故だろう羨ましく感じてしまう。

私は唇を少し噛み、嫉妬や複雑な気持ちを抑え、


"そうだ、あの人達は食事を摂っているだけだ"


と言葉を心の中で繰り返した。

けれども、落ち着くどころか胸騒ぎが激しくなっていく。

息苦しい。

何かが辛い。

途切れていた要らないモノが少し戻ってきたような。

まだ何か解りたいけど知らないままでいたい。


「……ゃえさん?」


なんでこんな気持ちになるんだろう。

家族と食事している様子が目に入っただけで、こんなに魅力的で珍しくも感じる。


そして哀しいより羨ましい。

ただならない怒りと、滅茶苦茶にしてやりたい破壊衝動が湧きだしていた。


自制心を保つ為に、唇を次は強く噛んだ。

すると、目から出ない代わりに唇から血の涙が流れだし、ポチャリと白いシャツが赤茶色に染み込んでいく。


「……ゃえさん!八重さん!

急に走り出して、急に立ち止まったと思いきや、次は 唇に噛み付いて何をしているのですか!血がでていますよ!!」


「ゔぇ!?」


急な白うさの声に私は驚きを隠せずに濁音を漏らした。そして質問に返事をしないと思い、どう答えようか考えていると、彼は私の両腕を強く掴んで患部を見てこう言った。


「確かこの場所に私の友人が経営しているお店があったはずです!救急箱ぐらいはあると思うのでお借りしましょう!」


私はさっきまでの複雑な気分が消え去り、不思議と落ち着きを取り戻す。同時に唇からピリピリと痛みを感じだす。


「……痛い」


口が勝手に開き、この言葉が微かに漏れた。

白うさはそれに対して耳をピクっと左右に動かして、少し眉を訝しげに寄せるだけだった。

 

そして無言のまま、左手を掴んで優しく引っ張られながら歩きだした。


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