マシュマロココアと極寒の地へ
大晦日の前日。
手紙に書かれていた“12月31日の夕方に図書室で「獏の夢」という題名の本を探してください”の指示に従うため。
私の家で大晦日の日に学校に侵入する方法を二人で考えようと、コタツで温もりながら作戦会議することになった。
「じゃあ、休校日の学校に不法侵入して、図書室から本を盗みだす方法を考えようじゃにゃいか!」
先輩が立ち上がりコタツを両手で強く叩き、とても嬉しそうな声で高々と窃盗の犯行宣言をする。心なしか目に星マークが見え、いつも以上に生き生きとしている様な感じだ。
「先輩、声大きいです!親にばれないように静かに話しましょう!」
私はすかさずツッコミを入れるが、内心ワクワクしていた。
だって、危険だと分かったうえで犯行現場に向かうドラマの主人公みたいに、スリリングなことになりそうな予感がしているから。
「…….ふふっ」
すると、先輩は何か毒気が消えたのか、悩み事でもあったのか分からないが、安心したかのように微笑んだ。
彼女が、いつもみせる表情と違うのが私には分かる。普段は無邪気で子供っぽい満面の笑みを浮かべるのだが、偶にこういう少し大人びた靨を少しあげるだけの笑顔をする時があるのだ。
大人びた表情をされると、どこか悲しいような嬉しいような…….変わった気分になる。多分、あまり見慣れていないから、頭が困惑しているのだけだと思うけど。
「ん?どうかしたみにゃぁ?」
「…….時たま先輩の表情が大人びて見えるなっと思いまして」
そう言うと、先輩は無言で首を傾げていた。
どうやら本人にも分かっていないみたいで、頭上にハテナマークがある様に見える。
無意識、無自覚でしてしまっている表情なのか、それとも先輩の本質が見え隠れしていて誤魔化したのだろうか?
気になる部分でもあるけど、彼女が言いたくない・気づいていないことを、他者の見解で答えがでることはないのだろう。
まぁ…….これ以上、詮索するのは野暮ってことにもなりかねない。
「いや、私の気のせいだと思います…….何か飲みたいものでもありますか?」
頭の中で悶々と考えている物事を消し去る為に、私は温かい飲み物でも飲んで落ち着くことにした。
「んん、本当に気のせいにゃぁ?ココアをお願いするみにゃあ」
先輩が難しそうな顔をし、口元に握りこぶしを当てている。
…….ついでに話を紛らわす為に、ココアにマシュマロを入れておこう。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃいみにゃあ」
私はコタツという温かな天国から、極寒の地へ飲料を取りに行く旅にでたのである。
…….二階の部屋から一階のリビングまでの道のりを乗り越えた勇者がここにありけり。まさか道中にある階段の窓が開けてあって、指先が真っ赤になるとは思いもしなかった。多分、母親の閉め忘れというトラップだろう。
だが、しかし!
私は無事に辿り着いた!試練を乗り越えられたぞ!
もう何も怖くない!
「ふふふっ♪只今、ココアを持って来ましたよ!」
意気揚々と扉を開け、二つのスプーンとマグカップを机の上に置く。そのままコタツに体を委ね、ゲームにでてくるミッションクリア♪の画面を思い浮かべ優越感に浸っていると。
「極寒の大地の中、試練を乗り越えられるなんて凄いですね勇者様♪」
先輩が満面の笑みでからかうように言った。
「…….え?何で?えぇ?」
「部屋の外から、“二階の部屋から一階のリビングまでの道のりを乗り越えた勇者がここにありけり。
まさか道中に…….”と言った声が聞こえてきたみゃあよ」
「あ…….うう…….」
それによって、気分が上がりに上がり変な妄想を口にだしていたことに気づいてしまい、あまりの恥ずかしさに顔がアイロンみたいに熱くなったことは言うまでもない。
「まぁ気にするみにゃあ。ほら、そろそろ学校に侵入する方法を考えないと日が暮れるにゃあよ」
「…….そうですね。頭を切り替えて考えないと駄目ですね」
一回深呼吸し、心を落ち着かせる。
先輩もココアを飲んで冷静になったようだ。
「よし!第一回、学校侵入作戦会議を始めましょう!」
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