Start Point
真っ白な先輩からの兎の手紙
周りは段ボール箱が敷き詰められて、狭く埃っぽい教室の中。
椅子も机もないので、段ボール上に座り、二段重ねの段ボールを机にしなければいけない状況、どう考えても使われているとは思えない教室。
けれど、ここは立派な新聞部の部室である。
このボロボロの段ボールの中には、先輩たちが作った努力と成果の結晶達が詰まっていて、捨てるわけにはいかない。
……と、先輩はドヤ顔で言っていたなぁ。
そう思いだしながら、私は部室の電気を点け段ボールの上に座り、茫然としていた。
段ボールさえ処分できれば、南の部屋で陽の光が当たるちょうどいい部屋なのだが、先輩に言われたからには我慢しなければならない。
部活動というのは、先輩に必ず従わなければならないというセオリー……。
そして後輩に受け継がれて伝統になるのもセオリー……。
今より大きな段ボールタワーができていき……考えていくと後輩が可哀そうになってきた。
「あっ、今そんなことを考える時間じゃなかった」
私はやるべきことを思い出し、制服の胸ポケットに入っていたメモ帳を取りだす。
“銀の鍵事件について
・10月30日に4人が自殺未遂。
・一週間前にも1人が同じような手で自殺未遂。
・銀の鍵を胸に突き刺した。
・名前. 夜空 蕾 伊豆 咲 川口 彩花 山本 三葉 犬神 寮。
・時間 放課後の間 詳しくは不明。
・犬神 寮は意識を回復したが記憶喪失。”
そう……銀の鍵事件について調べないと。
今まで銀の鍵事件について調べた結果、分かった事はこれだけ。
学校の生徒や先生達がこの事件の調査に関して、非協力的すぎるから、中々真相にたどり着かないだよなぁ。
病院にも身内でも知り合いでもない私が入れさせてもらえるわけでもないし。
私は上を向いて段ボール尽くめの部屋を呆然と見渡す。
そして、ため息と同時に肩の力が抜け落ちていく。
「……もうやめようかな。」
そもそもこの事件について積極的に調べたいのか、自分でも分かってない。
考えても…考えても……頭の中が真っ白で何一つ単語も思い浮かばなかった。
この事件を解決して何かの利益を得ようとか、人々のためましてや自分のためにみたいな目的はない。
だけど、大切な理由があることは分かる。
どんな理由か。
何故そのように思うのか。
分からないけど。
勝手に思っているだけかも知れないと考えるときもある。
「でもそれは、この事件を解決すればきっと分かるよね!」
メモ帳をぎゅっと握りしめて、一回頷く。
そして立ち上がり、学校を徘徊して事件について調べようとしたときだった。
バンッ
と、ドアが乱暴に開かれる。
その衝撃で部室に埃が舞い上がり、世界が滅びた後の様に空気が灰色に染まった。
もちろん、この中にいる私は被害を受けるわけで……。
埃をもろに吸ってしまいむせ返り、目を痛めてしまう。
「……けっは、けっほ。……と、とにかくドアを開けて換気しないと」
後、ついでにうがいもしよう。
目を擦りながら、ゆっくりと光のある方向に近づいて行く。
「……視界がぼやけて何も見えない。あいった!」
思いっきり段ボールで足の親指を打ち、ぶつかった後の余韻をその場でしゃがみ込み味わう。
あー一番神経が繋がっている所をぶつけてしまった!
結構いたいし、指が赤くなってないよね?
「あっ大丈夫みにゃぁか?」
扉の方からフードを深々と被った少女が心配そうな顔をして、手を差し伸べる。
まぁこの人が埃をまき散らした本人こと変わり者の新聞部の先輩。
「あっありがとうございます?」
私は疑問形で返事をし、先輩の手を掴む。
すると、先輩が顔をニコッと頬を上げ。
「隙あり!!」
と声ともに思いっきり腕を引っ張られ抱き着かれ、反動で先輩のフードがずり落ちた。
「みぃにゃあぁ……ゴロゴロ」
真っ白で透き通ったような長い髪、薄桃色のかわいらしい目が夕日に照らされ、私の頬を猫なで声をだしながら舐めだす。
「わふっ!」
私は驚きの余り、体が硬直して動かなくなる。
先輩、今日は猫ごっこなのかな?
警察ごっこで手錠を私の両手に付けたり、犬の着ぐるみパジャマ着せられ“今日一日お前はペットだ!”と言いい廊下を歩かされたりすることが度々あるけど…….やっぱなれないし恥ずかしい。
頬が生暖かいし。
全体的にミルクの様な優しい感じがして安心するような、柔らかい所がいろんな部分が密着していていたたまれない気持ちが半端ない。
特に大きなお胸の部分が自分の胸に当たっていて。
…….先輩の胸。
「……っつう、先輩離れてください!」
私は両手でぎゅっと肩を掴み先輩を引き離す。
「いだだだあ!分かったもう離した!離したから!もうなんで急に鬼の様な顔になっているみにゃぁか?」
いや気にしてない……別に自分のモノが成長してないから、先輩の体系が羨ましいとか思っていない!
「……くっつかれて驚いただけです。……今日もごっこ遊びをしに来たのですか?」
すると真剣な顔をしてスカートのポケットの中から、ウサギのシルエットが描かれている便箋を私に差し伸べ、受け取った。
「えっと……誰からの手紙ですか?」
「…….」
「…….先輩宛てのラブレターとか?」
「…….」
「あっ便箋に私の名前書いてありますね!」
「…….」
私の言葉に対して、先輩は何も反応せず無言で立っているだけだった。
次はハシビロコウごっこかな?
けれど、先輩の表情からが悪ふざけしているようには見えない。
…….そう威圧的で圧迫感がある。
緊張しているのと、後ろ冷たい思いを感じ取れる。
私は怖いようなワクワクするような、微妙な気持ちが渦巻きながらも便箋をひらけた。
“雨宮 八重さんへ
銀の鍵事件について調べているようですね。
なら私の知っていることを教えて差し上げます。
けれど、教えるための条件があります。
下記の指示に従ってください。
12月31日の夕方に図書室で「獏の夢」という題名の本を探してください。
川口 彩花より”
川口 彩花…….銀の鍵事件の被害者で加害者でもある。そして、先輩と一緒の珍しい病状を持っていて、共通点を持つもの同士友達でもあったらしい。
性格は、明るくて社交的。友達も多く、悩みを抱えているような様子は無かったと聞いた。後、事件に関わった4人の接点は無かったとも聞く。
あれ?
接点といえば私もないような。
確か彼女たちは高一の時に事件を起こし、意識不明のまま一年も経過していると先輩が言っていた。
対して私は現在高校一年生の身なのだ。
先輩がこんな後輩いるよと紹介すらできる状況じゃないはず。
じゃあ何故、私宛の手紙が送られてきたのだろう?
銀の鍵事件についても気になることが増えていく一方だ。
「川口 彩花さんは目を覚まされたのですか?」
私はこう聞いてみた。
まずは、手紙を渡した人物が川口彩花自身か気になったからだ。
さっきまで無言だったし、答えてくれるかな?
先輩は銀の鍵事件を私が調べていることを知っているから、友達のことを詮索して欲しくないかもしれない。
すると彼女は一回ため息をつき言いたくなさそうな顔をしながらも、
「…….うん。昨日お見舞いに行ったら、起きていたみにゃぁ。棚からこの手紙を取り出して、八重に渡してくれと頼まれたにゃぁ」
と返してくれた。
…….知り合った覚えがない。知り合うすべもない。
それなのに相手は私のことを知っている。
もしかしたら意外に何処かで話したことあるのか?
いやいや、先輩と同じ体質の人は世界で4%しかいないとネットに書いてあったし、印象に残りやすいはず。
「それにしても、何処で彩花と知り合ったにゃぁ?」
先輩は首をかしげて聞いてきた。
「…….考えてみたけど、会った覚えすらないのです」
こう返すと、先輩は悲しそうな顔をして小声でみにゃぁと呟く。
なんかこう…….冬の寒い日に段ボールの中、白い猫が一匹で鳴いている。
多分段ボールには拾ってくださいって文字が…….。
「先輩!私が拾います!」
「コラコラ。センパイハステラレタペットジャナイミャァヨ」
「あっそうか…….じゃあ何かヒントがあるかもしれないので、手紙を見返してみます」
ジト目で凝視してくる先輩を見ないようにして、私は文章を読み返した。
特に何か暗号があるとか、ウサギのシルエットに隠されたメッセージが見たいなものはないみたい。文章も斜め読み、縦読みしても言葉になったりしない。
“ 私の知っていることを教えて差し上げます。”
確かに手紙の持ち主に聞きたいことが山ほどある。
何故、私が銀の鍵事件について調べていることを知っているのか、どういう趣旨でこの手紙を送ったとか、気になることがたくさんだ。
それに、何より今まで遠かった銀の鍵事件の真実に近づけるチャンスかもしれない。
「ちょっと怖いけど気になります。これは確かめるしかないです!」
目を光らせて両手をグッと握り、やる気を充填させる。
あっ!今更だけど先輩的には詮索して欲しくなかったりして!
手紙渡す時も無言だったし!
「先ぱっ」
私は先輩の方を振り向くと、
「頑張ってね」
クスッと大人びた笑顔を浮かべていた。
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