2番目の極め方

@r_417

2番目の極め方

***


「サトル、また2番だったんだー」

「みたいだね」


 定期試験の結果が張り出された掲示板の前で、不意に近付いてきた幼馴染のカナがボヤいてくる。


「てか、何でサトルいっつも2番なんだろ?」

「そりゃあ、1番には及ばないからだろ」

「え、嘘。本気で思ってるの?」


 俺の答えを聞いたカナは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。そんなカナの考えを汲み取れないほど、馬鹿でもないけど……。それでも、俺は敢えて馬鹿を貫き通す。


「それ以外に理由なんてないでしょ?」

「嘘だー! だって、一番早く課題をこなしてるのも、誰よりも図書館に通い詰めてるのも、私は知っているんだよ?」

「…………」


 流石、幼馴染。無駄に俺の行動を把握してる……。

 と、妙に感心しつつ、カナの出方を注意深く伺ってみる。


「順当にこなせばサトルが一番で間違いない。そのポテンシャルの高さは幼馴染の私が保証する」

「何故、そこでカナが偉そうに踏ん反り返るのかな……」


 『えっへーん!』という効果音さえ聞こえそうなカナのドヤ顔を見て、思わず苦笑しつつ、サラリと会話を続ける。想像以上に鋭い発言がカナから飛び出してくるとは思いもせずに、あくまで冷静に対処していくはずだった。


「だってー、サトルがマジでデキる子だって知ってるんだもん。てか、一度もサトルが1番にならないことが不思議でたまらないんだよね。別にサトル、本番で緊張して力発揮できないタイプでもないし。そもそも1番は下克上の如く、入れ替わりが激しいというのに……。どうして、サトルの2番だけは一切揺るがない不動のポジションになってるのかしら?」

「へっ?」


 カナに会話の主導権を握らせたままに、上擦りそうになる声を必死に抑える。


「だって、ある意味すごくない? 2番ばかり狙ったように取れているなんて」「偶然だろ、偶然」


 無理やり平静を装いつつ、何とかカナとの会話をやり過ごそうと躍起になる。


「うーん、そうだとは思うけど。ある意味、レアだよねえ。絶対に1番取れそうな実力がある人物がずっと2番をキープするとか」

「………………」

「でもサトルなら、絶対いつか1番取れる! がんばれっ!!」


 キラキラとしたまなざしで精一杯の励ましの言葉を選び、俺に投げかけたカナが笑顔で去っていく姿を見届けつつ、嵐が過ぎ去ったことに安堵する。

 例え、俺にとってあさっての方向の励ましだとしても、純粋に励まそうとしてくれたカナの心意気は素直に感謝すべきだろう。とはいえ、カナが掲示板を眺めている間中、俺は気が気でなかった。何故なら、俺は『2番ばかり狙ったように取れている』ではなく、『2番ばかり狙って取っている』のだから。


 1番なんて、本気を出して我武者羅に勉強すれば余裕で取れることが出来るだろう。だが、余裕で勝ち取る席には食指が動かず、モチベーションさえ下がってくる。そんな状況の中、1番を取るよりハードルの高いポジションである2番の存在を知ってしまえば、攻略したいと興味が湧くのは至極当然の流れだろう。


 1番を取ると思わしきターゲットを想定し、合計点数を推理する。そして、推理した合計点数をスレスレに下回る点数に狙いを定めて勝負に挑む。限りなくスレスレのラインに狙いを定める気持ちはさながら『名ハンター』のようだ。

 ちなみに1番の合計点をスレスレ下回る点数に狙いを定める必要性は『限界まで頑張ったことの対外的アピール』に他ならない。限りなく1番に近い点数をキープ出来れば出来るほど、無駄に努力を認められ、意味もなく結果を同情され、俺に対する評価が甘くなり1番を取る以上の自由を得ることさえ出来る。まさに打算から始まる戦略と言えるだろう。

 とはいえ、敢えて2番を狙ってゲーム感覚で定期試験を受けているという事実が、先生やクラスメイトの耳に入れば、間違いなくブーイングは避けられない。だからこそ、黙ってひた隠しにして楽しんでいるわけなのだが……。


「幼馴染とは、実に厄介だねえ」


 長年の俺の地道な行動をしっかりと見られている分、タチが悪い。誰にも聞こえない声でつぶやく中身は、確かな本音。

 ハッキリ言って、2番を極めることだって、楽じゃない。だが、楽じゃないからこそ、価値も面白味も見出せる。だけど、その努力を変に誤解されるのは弊害しかないだろう。とはいえ……。


「ま、極めるだけですけど」


 こんなスリリングな遊び、簡単にやめられるはずがない。

 というか、やめられるならここまでややこしい行動さえ取らないだろう。




 これは2番をキープし続けているからこそ知っている俺のクレージーでクレバーな遊び。


【Fin.】

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