6ページ目 果たされない約束

シャル達の目の前に広がる光景は、燃える村、村の人たちの叫び声だた。

突然の事で、シャルはその光景をしばらく眺めていた。

ふと下を見れば、そこにあったのは


村の人の死体だった。


「う、うわああああ!?」

「ひ、酷い・・・!」


村人の背中には何者かに斬りつけられた後、噛みつかれた後だった。

すると、奥の方から声が聞こえる。


「た、助けてくれぇ!うわあああ!!」


その瞬間、村人は背中か血を噴き出して倒れる、倒れた先には。

血が付いた剣を握った人が立っていた、それだけではなかった。


魔物を連れていたのだ


しかも、その魔物は先ほどシャル達を襲った魔物の狼だった。

シャルは瞬時に理解した、さっきの出来事も、今の出来事はこいつらがやっていたという事を


盗賊らしい人はこちらへ向いた。

そして、シャル達を見つけた途端にその人は不気味に笑いながらこちらへ走ってくる。


「ヒャッハアアア!!」


遠く離れた場所なのにいつの間にか近くまで詰め寄ってくる。

まるで人ではないスピードで近づいてくる


「く、くるな・・・!」


ナイフを構えた時には既に目の前に立っていた。

盗賊らしき奴は剣を振り上げる。


「ぼーっとすんな」


その瞬間、スピカが人間らしき奴の顔面に目掛けて、跳躍して蹴りを決める。

蹴りを決めたときに、顔がめり込んで、首が折れる音が聞こえた気がした。


そのまま、10m程吹き飛び、首が逆方向に曲がって盗賊は笑った状態で死んだ。


「ス、スピカさん・・・!」

「ほら、此処は食い止めてあげるから自分の家に帰りな」

「で、でも・・・!」

「今のシャルには勝てるわけないでしょ?」


そう言って、襲って来る魔物の頭を掴み燃やす。


「足手まといよ、早く行きなさい」


そうバッサリ、言葉で切り捨てたのだった。

スピカの言葉通り、シャルは何もできない足手まといでしかなかった。

シャルはスピカの言う通りに自分の家に向かうことにした。


「き、気を付けてくださいね!エル行こう!」

「その言葉そっくり、そのまま返すわ」


そういって、シャルはエルの手を握り一緒にシャルの家へ走り出す。

シャルは一瞬だけ後ろを向く、そこにはスピカが敵を一掃していく背中見えたのだった。


「この腐った世界は今も昔も変わらないわね・・・、まぁ変わったことがあるとしたら、我が大分丸くなったぐらいなんだけどねぇ」


スピカはそう呟きながら、襲い掛かる敵の群を雷撃で次々と敵を炭にしてゆく。


「ふむ・・・、シャルも残酷な運命を背負っているものだ・・・、実に重いものだ・・・、」


敵に囲まれれば、炎の渦で燃やしてゆく


「だが、同じ境遇者だ、惚れた身としてその決められた運命、我が最後まで付き合おうぞ」


そして、スピカは果てない群を一掃してゆくのだった。




シャルは細い一本道を走る。

見渡せば夕焼けで赤く染まているせいで、血を連想させる。

だが連想させるだけではとどまらなかった、家に近づくにつれて徐々に血痕が目立ってくる。


「母さん・・・、無事でいてくれ・・・!!」


シャルは人生の中で一番嫌な予感がした。

近づくにつれて、家が見えてくる

そして、シャルは家に前に着いた。


ドア越しでも分かる、鉄臭い血の匂い。

下をみれば、ドアの隙間から血が流れている。


「頼む・・・、頼むから・・・!この嫌な予感が外れであってください・・・!」

「シャル・・・」


ドアのぶに手を掛ける。

そのまま、ゆっくりと回す。

再び鼓動が跳ね上がる、どうか無事であってくださいと祈った。

そして、ドアを開けると、目の前にあった光景は


部屋の周りに血がビッシリと付いていた。

そして、キッチンの方をみると、首がない死体があった。

それは血に汚れててなにがなんだか分からなかった。

なぜなら、その死体の心臓の方に無数の剣が突き刺さっていた。

死体は男女なのか区別がつかなかった。


シャルは母の姿を見渡すが何処にもいなかった。

ふと、テーブルを見ると何かが置いてあった


そこにあったのは顔だ


綺麗な白い髪の毛の女性が頭が綺麗な置かれていた。

それはまるで顔を洗ったあとぐらいに綺麗に整った顔が置かれていた。

テーブルから赤い水滴が落ちる。


「なぁ・・・、母さん!冗談やめてくれよ・・・!!」


しかし、声は聞こえない、響くのはシャルの声だけだった。

エルはその場で泣き崩れる。


「嘘だ・・・、嘘だ嘘だ嘘だ!!、だって・・・今日の朝挨拶したばかりじゃないか・・・ねぇ!!」


しかし、返事は返ってこない、その声は虚しくも過ぎ去ってゆく


「なぁ、母さん・・・、生きてるんでしょ?お願いだから・・・」


シャルは不思議と涙が出なかった、そのまま母と思われる顔の頬を優しく触る。


「ハハ・・・ハハハハハ・・・・」

「シャ、シャ・・・ル・・・?」


シャルの今までの出来事で心が壊れそうになっていた。

そして、母の死を突きつけられ、シャルの繊細な心は限界に達していた。


残酷なことにシャルの祈りは届かなかった。


「シャル・・・!シャル!」

「あぁ、分かった・・・よ、そういう事か・・・」


エルはシャルを揺さぶり、呼んだ。

しかし、シャルにはその声は聞こえなかった。

シャルの声に釣られたのか、盗賊と魔物が集まってくる。


「フハ・・・、フハハハ!あぁ、母さん・・・!こいつらだね!こいつらが母さんを傷つけたんだね!!優しい母さんを!!」


シャルはナイフを抜く、黒いナイフは赤く光り出す。

その紅い光は、まるでシャルの狂気の状態を表しているようだった。

そんなシャルを間近でみていたエルはシャルが明らかに様子がおかしいが分かる。


「シャル!目を覚まして!」

「エル、僕は正気だよ、目は覚ましているよ、実にこの世界は汚くて醜いのが良く分かった」


その瞬間、シャルは物凄い勢いで走り出した、そのままナイフを構え、ジャンプして回転する。

盗賊の首の脈らしき部分をナイフで切り首から大量の血が噴き出倒れる、そのままか魔物の脳天に目掛けて回転を利用して、踵落としをした。

そのまま止めを刺す為、先ほど持っていたナイフで勢いよく脳天に目掛けて刺した。


その光景を見た、エルは見てる事しか出来なかった。

まるでシャルではなかったのだ。


次々とシャルは盗賊たちを殺していく、殺すたびによれよれの白いシャツが赤く染まっていく。

エルはその姿を見て恐怖を覚えた、シャルは人を殺しているのに"笑って"いるのだから・・・

このままだと、シャルは誤った道を行ってしまうかもしれない、エルはそんな気がした。


しかし、自分には何もできない、無力な自分に悔いた。


そして、シャルは最後の一人と一匹を殺した。

その時には既に、シャツは白いシャツは鮮血に染まっていた。


「シャル・・・」

「エル、もう大丈夫だよ・・・、もう大丈夫だ」


シャルの口角は不気味に上がったまま、目は虚ろになっていた。

シャルは背中を向けて、エルに近づこうとした時だった。


殺し損ねたのか、盗賊が起き上がりそのままシャルに向けて振る。

既に殺したと思いシャルは油断してた、そして盗賊の剣が振り落とされる。


「シャル!!」

「ッ・・・・!!」


このままだと、防御が間に合わない。

剣と顔の距離は僅か、どう考えても避けらなかった、そしてシャルは目を瞑る、愛した母を思い出しながら。

シャルが覚悟した時だった。

シャルの誰かがシャツの襟を引っ張る

そのまま、何者かが前にでる、見た事あるブロンド髪だった。

そこでシャルは気づく、引っ張っていたのは、エルだった。


「エル・・・やめろ!やめてくれぇええ!!」


エルはシャルに振り向いた。

そして、エルは


微笑んだ。



振り下ろされた刃はエルに向って切り裂かれる。

シャルが伸ばした短い腕は届かず、そのまま地面に尻をつく。

そのまま、エルはぐったりと崩れ落ちる。

エルから噴き出した血がシャルの顔につく、

盗賊はふたたび、曲がった首の状態で笑い続け、そのままエルに剣を振ろうとした。

シャルは立ち上がる。


「やめろぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


シャルはそのまま、盗賊に突進して、そのままナイフめった刺しする。


「やめろ!!やめろ!!やめろおおおお!!」


シャルは何度も、何度も何度も!!!

その盗賊の顔、肩、胸を突き刺した、それはどれぐらいったのか分からず。

すでに人の原型を留めていなかった。


「ハァハァ・・・、エル・・・?」


シャルは死体から離れて、エルに近づいた。


「エル・・・!エルしっかりして!エル!!」


シャルは血まみれになった手で抱きかかえてエルを揺さぶった。

すると、エルはゆっくりと瞼を開けて、シャルの瞳を真っすぐを見つめてる。


「シャ・・・ル・・・?」

「エル・・・!!」


シャルの声を聞いたエルは安心した声で話はじめる。


「シャル・・・」

「待ってろ!今助けるから・・・、助けるから!」


シャルは切り裂かれた胸を布で塞ごうとした。

しかし、エルはその手を掴み、止めた


「エル・・・、どうしたんだ?」

「シャ・・・ル、私ね・・・」


エルの口から血がこぼれる、しかし、エルはその事も気づかないのか話し続けた。


「シャル、あのね・・・」

「しゃ、喋るなよ!」

「ううん、言わせて・・・」


エルの目の光は今でも消えそうになっている、だが目の前にシャルがいると分かると、エルは最後の力を振り絞って話す。


「あのね、シャル・・・、私はシャルに出会えてよかった」

「ハハ、何をいまさら・・・」

「いっぱい、遊んだね・・・、他にも一緒に怒られた事もあったね・・・、何をするときもずっと一緒だった」


エルの声が徐々に弱くなっていく。

同時に脳内にノイズが掛かる。


「シャル・・・、私は約束を果たせそうにないや、えへへ・・・」

「おい・・・、何を言って・・・!」

「だからね、シャルにプレゼントあげる・・・、私のとっておきのプレゼント・・・、私の隣にあるバスケット開いてみて・・・」


シャルはエルにそう言われ、バスケットの中を見る。

中に入っていたのは、分厚い本だった。

中身を見てみると、全部白紙のページだった。


頭の中のノイズが強くなっていく。


「これは・・・」

「えへへ・・・驚いた?本当は私が使う予定だったけど、シャルに上げる・・・コホッ・・・」

「エル・・・・!!」


エルの命は尽きようとしていた。

灯が小さくなってゆく。

再びノイズが掛かるが、次第にノイズの先に何処か懐かしい景色が見えてくる。


「この本に巡った景色の事を書いて・・・シャルと一緒に旅をした思い出を書いて、旅が終わった時には思い出を振りかえって・・・、こんな事もあったねぇ・・・って」

「・・・」

「でも、駄目みたい・・・、だからね、この本を私だと思って、一緒に旅をして暮れる?」

「ハハ・・・、それじゃあ、プレゼントじゃなくてお願いじゃないか」

「フフ・・・、そうかもね・・・、私も綺麗な景色・・・私も一緒に見たかったなぁ・・・」


エルの身体が冷たくなっていく

そして、ノイズはやがてある人物を映し出した。


(いつか平和になった世界で、一緒に自由な世界を見に行こう)

その人物は男だがどことなく、エルと同じ雰囲気を出していた。


「シャル・・・」

「・・・なんだ?」


エルはシャルの顔に溜まった涙を手で拭ってあげ、笑う。

シャルは今でもパンクしそうな頭に次々と記憶が流れてくる。


「相変わらず、泣き虫だなぁ・・・シャルは・・・」

「ほっとけ…」


エルの目から徐々に光が失われていく。

光を失いつつも最後までシャルの事を心配した。

きっと私がエルが死んだら、シャルは変わってしまう

シャルの血まみれになった姿を見て思ったのだ。

エルはシャルにそうならない為の言葉を贈る。


「アハハ、シャル・・・・、この世界は残酷でも、醜くても・・・綺麗な景色は沢山あるから・・・ね?辛い事あったら、あの丘の景色を見て、綺麗な景色は裏切らないから・・・

だから・・・どんな事あっても・・・人の道から外れたら駄目だよ、だから優しいシャルのままで・・・いてね?」

「・・・ッ!わかった、約束する」


シャルはエルの言葉が突き刺さった。

きっと、先ほどの出来事の事なんだろう。


「良かった・・・、それを聞いたら安心してきた・・・」


エルはゆっくりと瞼を閉じる


「なんだか、眠くなってきちゃった・・・、おやすみ・・・」

「あぁ、良い夢を見てくれ・・・」

「シャル・・・・、一緒にこの世界で・・・回ろう・・・ね」

「・・・」

「シャ・・・ル・・・、あい・・・し・・・て・・・」


ここでエルは腕は力がなくなりぐったりと落ちた。。

エルの目には雫がこぼれていたが、なぜかその顔は満足げだった。

シャルは目の雫をエルがやってくれたと同じように手でぬぐってあげた。

しかし、シャルの涙がエルの顔に零れ続けた。


シャルの声が人ならざる声と叫びが響き渡る。

しかし、返ってくるのは虚しくも無音だった。

どんなに避けんでも、あの楽しかった日常は戻って来なかった。


そして、シャルの今までの精神的ダメージが溜まりにたまって、爆発した。

その爆発は、今までの記憶を蘇らせる、それは思い出を超えて過去の事、前世の記憶を呼び覚ます。


この日からシャルは全てを思い出した。

それは最も親しい友人を失ってから全て思い出したのだ


「そうか・・・、思い出した・・・、クク、クハハハ・・・・!!」


シャルの目は碧から紅に染まっていく。

シャルはエルを抱きかかえ、外に出ていく


外はいつの間にか雨が降っていた、降ってきた雨はシャルとエルに付いていた血を洗い流す。

シャルの顔は無表情だった。

そして、動かなくなったエルを見つめた。


すると、誰かが一人で歩いてくる。

それは、スピカだった。


「・・・シャル」

「スピカ・・・、いや、魔王か・・・」

「境遇者よ、どうやら、思い出したようだな」

「あぁ、おかげで全部思い出したよ。」

「そうか・・・」


俺達はこの雨の中、空っぽになった村でただただ、シャルを抱きかかえて立っていたのだった。


スピカはそんなシャルを悲しそうな目でシャルを見つめていた。


この日、エルダ村は誰もいなくなった。

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