7ページ目 新たな旅路
あれから一週間
シャルはスピカと共に村の人達の墓を作ってあげた。
墓は村の分かりやすいように真ん中に骨を埋めておいたのだった。
ミレイ先生、ピグレ、スモルなどの見知った人たちの名前が並んでいた。
「魔王、すまないな、手伝わせてしまって」
「あぁ、他でもない境遇者の頼みだ。
後、魔王はやめてくれ、今はスピカよ」
「あぁ、すまんな、スピカ」
シャルは最後のお墓を立てる為に丘の上に登った。
エルの一番好きな場所で安らかに眠ってもらう為にシャルは丘に登った。
丘の上には墓が建てられた、
墓の十字架には名前書いてある。
エル=ゾディエッタ 此処に眠る
サリア=クロエ 此処に眠る
シャルは手を合わせ祈った。
それを隣でスピカは不思議そうに見ていた。
「何をやっているんだ?」
「あぁ、ちゃんと天国に行けるように祈ってあげてるんだ。
人の思いってのは案外届くもんだぞ?」
「ふーん・・・」
そう言って、スピカはシャルの隣に達、同じように祈る。
すると、シャルはその光景をが何だか可笑しく感じた。
何たって、あの多くの人間を殺したあの魔王が死んだ人間の為に祈ってあげているのだ。
気づけば夕暮れになっていた。
人間になった魔王は、魔王だという事を忘れ去る程、夕暮れに輝く姿は美しく感じた。
シャルはいつの間にか似ても似つかないスピカとエルを重なり合わせ見ていた。
魔王に見惚れるなんて、シャルの心は既に壊れているかもしれない。
でも、それでも良い、今はその美しい姿を見ていたいと思えたのだから。
シャルの視線に気づいたのか、スピカはにやつきながらシャルを見ていた。
「おやぁ?人間が我に見惚れているのか?」
スピカはふざけ冗談で言うのだが
「あぁ・・・、そうだな、とても綺麗で惚れてた」
「なッ・・・!?」
シャルは正直な気持ちでスピカに思っていることを伝える。
本当に今の姿は美しいと思えたのだから。
そんなスピカはシャルにストレートに言われた事でスピカの顔が赤くなる。
魔王は人間になったことで感情豊かになったかもしれない、スピカの照れている所は可愛らしいとシャルは思った。
スピカは何かに気づいたようだ、シャルの顔を見て言う。
「おい、境遇者よ・・・、どうして泣いているのだ?」
「え?」
シャルは手で目を擦った。
手を見ると、スピカに言われた通りに涙が付いていた。
その涙がどんどん溢れてくる。
その姿にスピカは慌てふためく。
「あれ・・、なんでだろう、何故なんだ、何で涙が止まらないんだ・・・」
何度も拭っても、涙は止まらなかった、それどころか更に悪化する。
その様子を見たスピカはシャルに近づいて、そのまま
優しく抱きしめる。
そんな、唐突な事でシャルは硬直する。
「境遇者よ・・・、いやシャル、大丈夫だ」
「スピカ?」
抱きしめられたスピカの身体は暖かった。
最近、雨に濡れながら、不眠不休で墓を作り続けたせいなのかスピカの身体が物凄く暖かく感じた。
スピカが人間だからか、肌のぬくもりが久しぶりに感じた。
少し経ってから、シャルから離れる
「シャルよ、この先何があっても、我が一緒にいよう、その運命が自由になる時まで」
「スピカ・・・」
スピカの黄色の目はいつもの悪魔のような目と違って、優しく感じた。
その目を見ると不思議と安心できた、相手が魔王だと知っててもだ
「人間の身体は少々不便だが、そう簡単には死なんよ」
「ハハ、でも慣れれば色々できるよ」
「そうかもね・・・」
スピカはクスリ笑い話す
「なぁに、惚れた身だ、最後まで付き合うさ。
だからシャル、今は安心して休んで」
そう言って、スピカは再びシャルに抱き着く。
そして、心に溜まった水のダムが一気に壊れた。
シャルは大声で叫び、泣き続けた、今度は無音でなくスピカの心臓の音が答えるように、ぬくもりに包まれて。
その声は遠くへ遠くに響き渡ったのだった。
どれくらいたったのか、いつの間にか夕暮れでなく、夜になっていた。
その時にはシャルは落ち着いた。
「さぁ、シャル?落ち着いたか?」
「あぁ、迷惑掛けたな」
「いや、いいよ、これも我の役目だ」
そう言って、再びいつもの悪い顔のスピカだった。
シャルはスピカを見て言う。
「しかし、スピカ・・・惚れたって、前世は男じゃなかったのかよ」
「え?我は前世も女だったぞ?」
衝撃の事実だった、いやあの凶悪な見た目で野太い声だったので、未だに信じられなかった。
そんなスピカはジト目で言う。
「何か、失礼な事考えているな?」
「い、いや・・・」
「まぁ、良い、あの姿だから間違えられても無理もない、まぁ今はこんなにも美少女になったのだからな!」
「それは自分で言う事なのか」
何故か自信満々に言うスピカであった。
本格的に暗くなってきたので、シャルの家に戻ることにした。
暗い道を二人で歩きながら話す。
「なぁ、スピカ」
「なんだい、シャル?」
「お前の力って、完全に引き継がれているのか?その魔王の力ってのは」
その話を聞いてスピカは詳しく説明する。
「あぁ、その事なのだが、我の力は完全じゃないぞ」
「そうか」
「あぁ、人間の器だとな、耐えられないんだな、これが」
「ちなみに前世と比べて今の力ってどのぐらいなんだ?」
「そうだなぁ、せいぜい10分1だな、この美少女の肉体と引き換えに大分弱体化したね!」
自分が弱くなったにも関わらず、自分の外見が良ければなんでも良いと感じだった。
余程、前の外見を気にしているようだった。
「そこまで外見をこだわるのか?」
「当たり前だろう?じゃないとシャルが振り向いてくれないでしょ?」
そう言われて、改めてみれば同じ10歳にしては、雰囲気が大人っぽくて、スピカの綺麗な紅い髪に整った顔立ちは美少女と頷かせる。
たしかに同級生の男子が攻められれば簡単に落ちるだろう。
だが、全てを思い出したシャルは精神年齢は上がっていて、スピカはただの子供でしかなかったのだ。
ただ、元のシャルの人格が混ざってしまいスピカに見惚れてしまうのは事実だった。
その事を考えると、何だか複雑に思うシャルだった。
久しぶりに家に戻ると、いつの間にか血でこびり付いていた部屋は綺麗になっていた。
「あれ、何時の間に・・・」
「シャルがいない間に綺麗にしておいたわよ」
この魔王は見た目によらず、家庭的なようだ。
すると、何やら良い匂いがする。
「あぁ、そういやご飯も作ったんだった」
「え?スピカが作ったのか?」
「えぇ、そうだけど、食べるかい?」
そう言って、スピカが火をつけて料理を温め直す。
その火をつけるとぐつぐつと音を鳴らすと匂いがテーブルまで届く。
そして、スピカは火を止めて、お玉でお鍋の中にある料理をすくって、お皿の中に入れる。
スピカは二つのお皿を持って、テーブルに置いてシャルに差し出した。
シャルの前に出されたのは、ビーフシチューだった。
「いただきます」
「あ、あぁ、いただきます」
魔王の料理と思うとなんだか少し怖いと思ったのだが、しかし見た目は普通のビーフシチューで匂いも普通だった。
スピカの方を見ると、普通に食べていた。
「どうしたの?食べないの?」
「い、いや・・・」
「毒なんて入ってないわよー」
そう言って、スピカは食べ続けた。
シャルは意を決して、1週間ぶりに口の中に食べ物を入れた。
「美味しい・・・」
「ハハ、そう直接言われるとなんだか照れくさいものだな」
出されたビーフシチューは自然と口の中に次々と運び込まれた。
いつの間にか、お皿の中にあったビーフシチューはなくなっていた。
「スピカ、おかわり良いか?」
「あら、気に入ったの?」
お代わりを頼むと、スピカは嬉しそうに取りに行く。
そして、再びビーシチューが差し出される。
スピカは椅子に座り、シャルを見つめる。
「人間の身体が不便な代わりに、楽しい事が増えたわ、掃除に料理、娯楽とか、前世では我には必要なかったからな」
「なるほど・・・」
シャルは魔族の身体になれば何でもできる分はつまらなく感じていたのだろう。
それを少なからず8000年以上続けていたわけだ。
そう考えると、なんだか拷問みたいで嫌な感じがした。
魔王というだけで退治される、なんと不毛な事だ。
それで人間は普通に楽しんでいるのだから、怒るのは無理もない。
「さて、シャルは今後どうするつもりなの?」
「あぁ、そうだな・・・俺は・・・」
シャルとスピカは今後のどうするかを二人で相談した。
お互いに何をしたいか、何を目的にして生きていくのか
そして翌朝
「シャルー!起きなさい!!」
カンカンカン!!
鉄同士で叩く音が聞こえる、だけどその音は心地よい音になっていた。
「あぁ、今起きるよ」
昨日の倉庫に取り出した服を着る。
何時もの服と違って、黒コートに小さい鞄を背負う。
着替え終わって、下に降りるとそこには頬を膨らませたスピカが立っていた。
「遅いぞ、シャル」
「すまないな、スピカは準備は出来たか?」
「当たり前だろう?さぁ、行くわよ」
シャルとスピカは家から出た。
家から出れば村の景色が見えた。
もう誰もいない村の景色がただただ続いていた。
「さぁ、スピカ行こう」
「えぇ、行きましょう、シャル」
そうして、シャル達は村とは逆方向の道へ進んだ。
そして、シャルは振り向き言う。
「少しの間、留守にするよ、皆、母さん、そして・・・」
シャルは小さく息を吸って言う。
「エル、この世界を一緒に見ような」
そう、分厚い本を見つめながら呟く
遠くから、スピカの声が聞こえた。
「シャル!早くいかないと先に行くよ!」
そう言って、既に奥の方で手を振ってる"元"魔王がいた。
「あぁ、今そっちに行くよ」
そう言って、二人のこの世界の景色を周る旅が始まった。
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