5ページ目 約束

スピカが転入して、あれから一週間が経った。

今日は学校がお休みなので、エルと一緒に森へと遊びに行っていた。

近くの森は、魔素が少ないため魔物が現れる事はない。


「シャル!お待たせ!」


エルはバスケットを持って歩いてくる。

シャルはエルの作った料理は美味しくて好きだった為、いつも楽しみにしていた。

エルは下から覗き込むように顔を近づけた。

そこでシャルは気づいた。


「お?今日は化粧してるんだ」

「へへ、気づいた?」


エルの化粧は何も変哲もない薄化粧だった、普段と違う雰囲気のエルが見れて新鮮で魅力的だった。

エルの頬は少し赤くなるのが分かる、気づいてくれたから嬉しかったのだろうか?


「あれ?そのナイフは?」

「お、気づいてくれたんだ」


シャルの太ももに身に着けていたのはナイフだった。

それは何処か使い古したナイフだった。


「珍しいね、何時もだったら剣なのに。」

「ほら、この間ピグレに勝った時に、母さんに報告したら喜んでくれたんだ。

そしたら、記念にって言われて物置から取り出してきたんだ。」


そう言うと、シャルはホルスターからナイフを抜く。

ナイフの刀身と刃は共に黒かった、光に当たると反射して鋭く光る。


「へぇー!、かっこいいね!」

「でしょ?母さんが言うには亡くなった父さんの形見らしいよ。」


シャルのお父さんは冒険者だったのだが、旅の途中に強い魔物に襲われて、仲間を逃す為に自分が囮になったと。

その後、シャルのお父さんを助けよう援軍を呼んで再び向かったのだが、周りには魔物死体と息を引き取ったシャルのお父さんだった。

せめての遺品だけはと思って、家まで届けられたのだった。

父さんはそれなりに名の知れた冒険者だったらしく、今、生活できているのは父さんが活躍したお金のおかげでもある。


「それに、僕はナイフの方が得意らしいからね」

「あはは、そうだね、ピグレ君を倒しちゃったからねー」


ピグレはああ見えてクラスメイト中では強いほうだ。

身体と迫力のごり押しだけで上へと昇り詰めていたのだから、本格的に修業をしたらもっと強くなるだろう

そう考えながら、二人は森へと向かう。


二人は細い道へと歩いて行く、丘を登っていく。

丘の先には一つ大きな木が立っていた。


「着いたね」

「うん!」


そして、シャルは何時もの訓練を始める。

シャルは戦闘が苦手なものの、彼は彼なりに努力はしていた、

せめて成績は維持しよう頑張っているのだ。


シャルはナイフを振る。

シャルのナイフ捌きが徐々に上達していくのが分かる。

振る速度、正確さ、繊細さ、どれも何かを思い出すかのように振り続けた。

エルはそれを隣で見ている。


「うん!やっぱりシャルは剣よりナイフの方が向いてるね!」

「ハハ、本当は剣の方が嬉しかったんだけどな・・・休憩でもしよっか」

「うん!」


今まで、剣を振ってたこともあったから、その努力が今まで無駄だと思う何だか虚しくなるシャルであった。

それはナイフを使う度に思う事だった。


「そういえば、シャルは職業何するのー?」

「うーん」


職業、この世界には剣士や魔法使い、中には非戦闘職の調理師など様々な職業がある。

この時期の子供達はある程度、将来の夢が決まっていて、その夢に反映されて職業となるのだ。

しかし、稀に生まれつき職業が決まっている者がいる。

そう言う子は、決まって将来の夢が無い子が殆どであった。


シャルはエルの質問に対して考える。


「うーん、まだ決まってないんだよね、自分が何がやりたいのか・・・」

「そっかー」

「エルは何かしたいことあるのか?」

「私?私はねー・・・」


何時の間にか夕方になっていた、エルは丘の方へゆっくり向かう


「シャル、おいで」


エルは手で招くようにシャルを呼ぶ。

シャルはエルを後ろについて行く、丘の天辺を登るとそこには夕焼けに照らされた森だった。

とても綺麗だ。


「私はね、いつかこの世界を自分の目で見てみたいの。」

「世界・・・」


ふと、隣を見るとエルが夕焼けの光に照らされ、大人っぽく見えた。

その綺麗な姿にシャルは見惚れた。


「確かに旅には危険事ばかりが沢山あるかもしれないけどね、でも、こんなにも綺麗な夕焼けがあると思うとね!

他にももっと綺麗な景色があると思うの!私はその世界の綺麗な景色を見つけて、皆に伝えていきたいの」


エルはシャルの方へと見つめ、微笑んだ。

その立ち姿はまるで幻想的に見えてくる。


「だからね、シャルが良かったらなんだけど、いつか一緒に世界を見に行こ?」


エルはシャルの手を繋ぐ

それは、エルからの旅へのお供の誘いだった。

シャルはエルの手を握り返して言う。


「できたらね・・・」


そう言って、再び二人は夕焼けを景色を見るのだった。


「さて、もう遅いし村に帰りますか」

「うん!」


返ろうとしたら、その時だった。

茂みがガサガサと揺れる。

その音に気付いた、二人は思わず警戒し構える。


茂みから現れたのは、黒い狼の姿をした魔物だった。

牙は剥き出していて、爪は鋭く長かった。

少しでも攻撃を受ければ、重傷は免れないだろう。


シャル達は初めて魔物に遭遇してのだ。


「ま、魔物!?」

「ここにはいない筈なんじゃ・・・!」


魔物の姿を見て、二人は怖気づいてしまう。


「(守らなきゃ・・・!エルを守らなきゃ・・・!!!」


シャルは黒いナイフを取り出す。

鼓動が早くなる

息が苦しい

様々な事が小さい二人に負担が掛かる。

今でも吐き出しそうなシャルは狼を睨む。


アオォオオン!!


その時だった、狼が遠吠えをする。

その遠吠えに聞きつけたのか、次々と狼が集まってくる。


二人はこの状況を何を思うのかは同じだった。


―――死


その言葉が頭の中に過る。

だが、シャルはナイフを構える、一人の友の為に震える手を抑えつけて。


そして、狼たちは一斉にシャル達に向って飛びつく。


「シャル!!」

「下がってろ!!」


此処で死ぬかもしれない、でもエルだけは死んでも守ろうとした。

その時だった。


「全く、なさけないなぁ」


何処から声が聞こえた。

その瞬間、無数の雷が狼たちを襲う。

瞬く間に狼は殲滅された。

僅か5秒、本当に一瞬だった。

狼は炭となり、そのまま風に吹かれてパラパラと消えてゆく。


「た、助かった・・・?」

「そう・・・見たいだけど、いったい何が」


すると、森の奥から誰かが歩いてくるのが分かる。

森の影から出てきたのは、スピカだった。


「ハハ、シャルくんは情けないなぁ」

「ス、スピカちゃん!?」

「ど、どうして此処に!それに今のはスピカさんがやったの?」


シャルはそう聞くのだが、スピカはわざと誤魔化すように言う。


「まぁ、良いじゃない、それよりも村が大変だよ?」

「っえ!?」


スピカの話を聞いて、シャルは村に向って走り出す。


「待って!シャル!!スピカさんも行こ!」

「はいよ」


エルはシャルの背中を追いかけた。

スピカはそれに続くように走り出す。


道中、木の枝にひっかかりかすり傷ができるが、シャルはそれも気にもせず、走り続けた。

森を抜けるとそこには・・・。


「嘘だろ・・・!!」

「そ、そんな!」

「・・・」


そこには、燃える村、村の人たちの叫び声だった。

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