4ページ目 木のナイフ

結局、シャルと一緒に食べる事になった。

エルは気遣ってくれたのか、エルも一緒に食べる事になった。


この時は特に問題はなく、軽い談話をして過ごしたのだが

問題が起きたのは、食後の戦闘授業の時間だった。


「さぁ、模擬戦闘の時間だ」


この世界は魔王の脅威がなくなっても、魔王の魔力の残骸によって魔物が生み出されている。

才能がある人は冒険者ギルドに所属し、魔物を倒す冒険者になって、それで生計を立てる人もいれば、傭兵や護衛や騎士に所属など、戦闘経験が必要な職業が沢山あるのだ。

その為、魔王がいなくなっても尚、自分を守る手段として、生きる手段として戦闘訓練は幼い頃から必修科目として受けている。


「模擬戦闘かぁ・・・」


シャルはどちらかと言う平和的な為、争い事は苦手だった。

その為、模擬戦闘の成績はそこまで良くなかった。

しかも、今日に限って、今回の相手はピグレだった。

相性は最悪だった、体格差に筋力も何もが劣っていたシャルには一度も勝った事なかったのだから。


「よぉ!シャルゥウウ、お前と模擬戦闘するの楽しみだったぜぇ・・・」


ピグレは何時に増しても、やる気満々で満ち溢れていた。

鼻息は荒く、口からフシューフシューと音を鳴らしながら、シャルを小動物を狩るような目で見てくる。

先ほどの事を屈辱を模擬戦闘で晴らそうとしていた。


対するシャルはその真逆で肩を落としていた。

隣にいた、エルは頑張ってと励ましてくれるが、流石に今でも相手をボコボコにしてきそうな人と戦うとなると、やる気がなくなっていく。

そのエルとは反対にスピカは立っていて、何故か楽しそうに見ていた、相変わらず何を考えているのかが分からなかった。


お互いに木で出来た剣を手に取る。

武器は他にも木で武器はあるが、シャルは無難に剣を取る。


「ルールは先に2本取ったら勝ちだ!始め!」


そう言って、ミレイ先生の合図と同時にお互い動き始める。


「おりゃああああ!シャルゥウウウ!!」

「う、うぉ!?」


ピグレはシャルの頭を叩き割る勢いで木剣を振った。

シャルは反射的に手に持った木剣で防御する。


攻撃を受け止めるとドゴォッと音がなった、明らかに木剣が鳴らす音では無かった。

ピグレは持ち前の対格差と力でゴリ押そうとした。

シャルはそれに耐えるのが精一杯で、どうやって勝つかまで思考が追い付かなかった。


「シャルー!頑張れー!!」

「・・・」


エルの応援がシャルの耳に入ってくる。

その隣にいる、スピカはシャルを観察するようにジーっと見ていた

その視線が身体に突き刺さるほどに痛みはないが、痛く感じる。


「・・・っく!!」

「どうしたんだ?シャルゥ!その程度なのか?」


そう言って、ピグレは更に力を込める。

木剣がミシミシと音が鳴り、今でも壊れそうだ。

そして、ピグレはこのまま力任せで剣で吹き飛ばした。


「うわ!?」


シャルは転がるように吹き飛び、地面に倒れた。

そのまま、起き上がろうとすると、首元に剣が付きつけられる。

最初の一本はピグレだった。


「ふん!やったぜ!」


そう言って、ピグレは元の定位置に戻った。

シャルはそのまま大の字になる、今の勝負で大分消費した。

すると、何やらカランと小さな音が聞こえた。


その音の方を見ると、木のナイフだった。

更に奥を見ると、そこにはスピカが立っていた。

スピカはそのまま、無表情でシャルの方へ歩いてくる。


「スピカさん・・・?」

「・・・」


周りの皆は騒めくが、それを気にもせず、そのままスピカは傍まで近づいてしゃがみ込んだ。

スカートの中身が見えそうになったので目を逸らす。

しかし、スピカはシャルの顔をを掴みそのまま覗き込むように見る。


「今の戦いはなんだい・・・?」

「へ?」


転校初日だというのに今日はスピカと目が合う事が多い。

もはや、見慣れたその黄色の綺麗な瞳は吸い込まれるように見つめていた。

顔が近い、しかしその目は不思議と見放せなかった。


「君の力はそんなもんじゃないだろう?」

「スピカさん・・・、君はいったい何を・・・」


スピカが何を言っているのかが分からなかった。

君の力?そんなもんじゃない?どういうことだ?

その様な事を脳内でループするように思考が回る


「さぁ、君の"本来"の武器を選んであげたわ、感謝しなさい。」


今日は何故か戸惑う事ばかりだ。

何故、自分が理不尽な目に合っているか

そう考えると、無性に腹が立ってくる。

気づけば、スピカの顔が小悪魔的な笑顔になっていた。


「そう、それでいいのよ」

「何言ってんだよ・・・」


スピカはそのまま自己完結する、未だにシャルが理解しないままの状態でだ。

そのまま、自分の場所へと戻る。

エルはシャルとのやり取りを見て、気になったのかスピカに話しかけた。


「シャル君と何してたのー?」

「フフ、少し彼にアドバイスをしてあげたのよ」


遠くで笑ってるスピカを見る。

なんて自分勝手な人だと思いつつ、シャルは隣に落ちてる木のナイフを見る。


「これで、どう戦えと・・・」


シャルはナイフで戦った事などなかった、むしろナイフ事態を触るのが初めてだ。

しかし、スピカが渡してきた以上はこれで戦わなけばならないと思った。

じゃないと、次は何をされるか分からなかったからだ。


地面に落ちていた、木のナイフを拾う。


「・・・」


不思議とナイフを握ると落ち着く。

むしろ、初めて触ったのに何度も使った事あるかのような感覚だった。

シャルは握ったナイフを見つめる。

何か体の奥から溢れる感覚に陥る。

しびれを切らしたのか、ピグレが怒鳴るようにシャルに話しかける。


「早くしろよ!ったく!またスピカちゃんと話がって!許さねぇ!」


完全な逆恨みである。

シャルはゆらりと立ち上がる、そしてシャルはピグレを優しく見つめて言う。


「ごめんね」


シャルの優しい声で言ったのは、その一言だけだった。

ピグレは剣を構えた。


「さぁ、やるぞ!」

「・・・」


先生の合図と同時にピグレは踏み込んでそのまま剣を大振りに振る。

相変わらずの巨体を利用した迫力だった。

普通の人ならここでビビッて立ちすくんでいただろう


シャルは憶する事もせず、ピグレの眼を真っすぐ見つめていた。

何やら、嫌な予感がしたのか剣を振るのが一瞬遅れる。

シャルは小さく避け、そのまま横に回り込んだ。


「何ッ・・・!?」


そのまま、シャルはナイフを振り上げる。

しかし、ピグレの方がガードが早かった、そう早かったのだ。

ピグレはシャルの振り上げた手を見てみると、"何も持っていなかった"。


「う、うそだ、うぉ!?」


ピグレの首にもう片方の手に先ほどの木のナイフが突き立てられる。

周りはあまりの出来事に唖然とする。

あのシャルがピグレに一本を取ったのだ。


「こ、この野郎!シャルの癖に!」


それが気に入らなかったのか、それも腹が立ったのか分からなかったがピグレの口調が荒くなっていく。

しかし、対するシャルは恐ろしく冷静なっていた。

まるで研ぎ澄まされたナイフのように思考が切れていた。

そして先生の指示でお互いに元の位置に戻った。


「さぁ、最後だ!始め!」


ミレイ先生は合図をした。

しかし、ピグレは先ほどの事に警戒しているのか、むやみに近づかなかった。

ピグレでも学習はするんだなと思うシャルであった。


ここでシャルは構えるのやめて、シャルはゆっくりと歩きだした。

人が武器を持ってて構えていれば、それは誰しも警戒するであろう。

彼は仲間でクラスメイトだ。

シャルは木のナイフはポケットにしまう。


その急の行動に呆然とするピグレ

だがシャルは何時も変わらず、廊下ですれ違うような感覚で歩く。

廊下ですれ違うのはピグレだった。

知り合いなら挨拶はすべきだと思ったシャルは挨拶をする。


「おはよう、ピグレ」

「へ?」


彼との距離は近かった、すれ違う前に手を上げ振った。

それはあまりにも自然だったので誰も気づかなかった。

ただ"一人"除いての話だが

シャルの手にはいつの間にか


ナイフが握られていた。


手を上げると同時にナイフをピグレの首に向けて刺そうとしていた。

その瞬間、ピグレは気づいた。


自分は殺されかけている。

いや、殺しに来ているという事に!


「うわぁあ!?」


ピグレは思わずのバランスが崩れ、そのまま尻餅をしてしまう。

そのまま、シャルはナイフをピグレの首に突き立てた。


「勝負あり!シャルの勝ち!」


ミレイ先生の合図が聞こえる。

勝ったのはシャルだ。

周りは未だに何が起きたのかを理解していなかった。

だが、スピカだけはご機嫌よさげに笑っていたのは遠くから見ても分かる。

何故、スピカがシャルにナイフを渡したのかが少しわかった気がする。


シャルはピグレに近づいて言う。


「だ、大丈夫?」

「あ、あぁ・・・」


ピグレは負けたのがショックなのか大人しくなっていた。

ピグレはシャルを向いて話す。


「シャルゥ・・・、お前いったい何したんだ?」


その事を聞かれたシャルはどう返そうと困った。

何故なら、自分でも分からなかったからだった。

ただ、ナイフを持つと不思議と落ち着いただけを話す。

ピグレは当然の如く何を言ってんだコイツという顔をしてて、困惑していた。


「シャルー!お疲れ!初めて勝ったね!」

「あ、うん」


シャルは言われて気づく、ピグレに初めて勝った事に。

前のシャルだったら、普通に負けていたのだから。


次にシャルはスピカの方を向き言う。


「君は・・・、いったい何をしたの?」

「何もしてないわぁー、ただ貴方には剣が似合わないと思っただけよ」


そう、わざとらしく言うのだった。

結局の所、何も分からず、戦闘の授業の時間がおわったのだった。

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