1ページ目 2000年前の歴史

―――2000年前



俺達は魔王との最終決戦を迎えていた。

勇者とその仲間達と共に、激しい戦いの末

今、決着が着こうとしていた。


勇者は聖剣を構え、魔王に止めをさそうとしていた。

魔王の身体からは命とも言える"命核"が剥き出していた。


「魔王!貴様の命運はここで尽きた!」

「ククク・・・!最高だ!最高だよ勇者!我をここまで追いつめられるとはな!!」


勇者は聖剣を魔王の命核を突き刺した。

命核はひび割れ、光が漏れ出す。


「これで終わりだ!!」

「ククク・・・!どうかな?」

「何・・!?」


光が漏れ出したと思えば、次第に黒くドロドロしたものが命核から漏れ出でて、そして勢いよく噴き出す。

その黒くドロドロした黒い水は勇者を包み込むように体に巻き付いた。


「く、くそ!!これは何だ!?」

「クハハハハ!!!油断したな!!これは俺の禁忌の魔法「転魂」だ!お前は俺に憑りつかれて魔王になるのだ!!」


「勇者!」

「勇者様!!!」


後ろから、仲間の声が聞こえる。

このままだと、次第に魔王に取り込まれるだろう。


「ハァアアア!!!」

「無駄だ!無駄無駄無駄!!"聖なる"力は完全に無効化される!貴様の力では何もできまい!!」


勇者は叫んだ、この残酷な運命を抗えない力の前で絶望する。

皆の希望を背負って戦っていたのに、その果てが自分が魔王になってしまう事に

勇者の意識が次第に薄れていく、視界も暗くなる。


「ハハハハ!!お前の力があれば全てを手に入れられる!!」

「ま・・おう・・・」


勇者を取り込もうとした時だった。

紅い閃光が勇者の取り込もうとした黒い水を切断する

切断された黒い水は再生はせず、そのまま地面に落ち蒸発する。


「なに!?」


「おい勇者、いや・・・、"レイル"」

「シ、シャル・・・!!生きてたのか・・・!」


勇者と魔王の間にいたのは銀髪で赤目の青年だった。

青年の手には黒いナイフが握られていた。

青年は手に持ったナイフを構え、襲って来る黒い物体を斬りつけると赤いスパークを放ち蒸発させた。


「あの程度で俺が死ぬと思っていたか?」

「ハハ、違いない・・・、ありがとうシャル・・・」


自分があんな目にあったというのに、優しく笑う勇者のレイル

その後に後ろに待機していた、魔法使いと神官が近づいて二人でレイルを回復させる。


「勇者、大丈夫!?」

「今、回復させます!!」

「ありがとう、ライラ、レイ」


魔法使いの名前はライラ

ライラは勇者に付着した呪いを解除をした。

神官の名前はレイ

レイは勇者の傷を癒し回復させた。


「シャル・・・、すまない・・・」

「何謝ってんだ、気持ちりぃな・・・」


そんな、シャルの言葉に反応する回復役の二人はシャルを睨みつける。


「ちょっと!勇者が謝ってんじゃない!」

「そ、そうです・・・!それはあまりにも!!」


「うるせぇ、戦えない奴は引っ込んでろ

それとも、俺に殺されたいのか?」


シャルから滲み出る"殺意"の眼で睨んだ。

二人はその迫力に黙り込む

しかし、勇者本人は至ってケロッとしていた。


「はは、相変わらずだな・・・」

「取り合えず、回復するまですっこんでいろ・・・・」


シャルは魔王の前に立つ

魔王は禁忌魔法をいとも簡単に対策され、酷く興奮していた。


「貴様ァアアアアア!!!何をしやがった・・・!!俺が何百年もかけて研究した我が魔法にぃいい!!」

「何、こんな簡単な事も分からないのか?ハァ・・・、これだから魔王は・・・」


その言葉に更に激怒する

しかし、シャルは怯まず涼しい顔していた。


「しょうがないから、簡単に説明してやるよ」


シャルは魔王にナイフを向け、そして言う。


「"殺した"」

「貴様ァアアアア!!!」


魔王は剥き出しなった命核で襲い掛かる。

しかし、勇者との戦いで消耗していた魔王と万全な状態のシャルとは力の差は歴然だった。


シャルは黒く光るナイフを構え、渾身の一撃を魔王の命核に向けて・・・


ナイフを突いた。


「ぐ・・・、ぐおぉおお・・・、お前は・・・お前は一体何者なんだ!!」


「俺は・・・」


崩れ逝く身体を必死にもがく魔王を見つめるシャル

シャルはゆっくり近づいていく


「シ、シャル!危ないよ!」


近づくことを止める、勇者レイル

だがシャルは気にしなかった、シャルにはそんな力は残っていない事を知っていたのだから。


「お前と同じ境遇を辿った末路だよ」

「何・・・?」


シャルは知っている

沢山の人を殺し、それを糧として快楽を得る喜び。

魔物じゃ満足しない極上の快楽を

暖かい血に包まれ、雨のように浴びる喜びをシャルは知っていた。


人間をゴミのように見る魔王は常に人を殺し血を浴び楽しんでいた。

そんなシャルは魔王と同じ境遇だと思っている。


「俺は"殺人鬼"だ」

「ククク・・・、そうかお前も人殺しだったのだな。」

「あぁ・・・だから、俺は"お前"を殺す」


そう言って、魔王を不気味に笑い続ける

すると、建物が揺れ始め、次第にその揺れは大きくなる。

レイルは戸惑い魔王に向けて話す。


「な、何をした!!」


「クハハハ、我はここで死ぬのだから、そのお決まりだよ!我の魔力で作った城だからな!次第に綺麗さっぱりになくなるぞ!」


そう高らかに笑うのだった、諦めが悪いものだ

俺はナイフを再び握る


「じゃあ、さらばだ、同じ境遇者よ」

「ククク、来世では仲良くしたい者だな、境遇者」


俺はそのまま魔王の身体をナイフで突き刺した。

魔王の身体は砂になっていき、風に吹かれてパラパラと消えていく。

勇者は慌てて、城から出ようとシャルに話しかける。


「シャル・・・!行くよ!」

「あぁ、分かってる、先に行け」


そう言って、手で追い払うように早く行けと言わんばかりにジェスチャーをする。

走って行く姿を遠くで見つめる、レイルは振り返って言う


「絶対に来いよー!」


「あぁ、分かってる・・・」


まったく、クソお人よしだな・・・


「・・・ッグ、カハッ!!」


シャルはお腹を押さえ、血を吐いた。

抑えてた手を見る、血がべっとり付いていた。


「あーあ、此処までかなぁ・・・」


視界が徐々に暗くなっていく。

勇者が出てていった扉の前の足場が崩れるのが見える。


「ハハ、まぁ俺らしい最後っちゃあ、最後だな」


シャルは勇者と合流する前に魔物との大群と戦っていた。

その時に受けた魔物の攻撃で深手をおってしまったのだった。


シャルの足に次第に血だまりが出来ていく。

身体が冷たくなっていく、手も足も顔も

そのままシャルの身体を倒れる。


「あったけぇなぁ・・・」


血の池はシャルを包み込んだ。

瞼をゆっくり閉じる


視界は暗闇になった。


すると何処からか声が聞こえる。


(おいおい、ここで死ぬのか?)


「(あん?うるせぇな・・・、てかお前まだ死んでなかったのかよ!このクソ魔王!!)」


頭に響く声の正体は魔王だった。

陽気にケラケラと笑いながら話す。


(まぁ!お前も所詮、人間ってことか!ハハッハハ!!)


「(なんだコイツ、死んだ途端にフレンドリーになりやがったな・・・。

と言うか、もう一回聞くけど死んだんじゃねぇのかよ!)」


(あぁ、死んださ、でもなお前が死ぬとは思わなかったからさ、ったくよぉー)


「(おいおい、魔王の癖に人間の心配してるんのか?)」


(うっせうっせ!お前は我と同じ境遇者だろ?我はお前に興味があるんだよ)


「(うわ、気持ちわりぃ・・・、魔王に好かれるとか世も末だな・・・。)」


(気持ち悪いとか言うなし!!)


そう言って、さっきまでふざけた態度を取っていたが、急に真剣な声で話す。


(なぁ、確かお前さんの名前はシャルとか言っていたな?)


「(あぁ、そうだよ、急に改まって何なんだ?

気持悪いな・・・)」


(まぁ、聞け・・・、お主はもし生まれ変われるとしたら何がしたい?)


「(んだよ、急だな・・・・、そうだな・・・。)」


シャルは今までの事を思い返す。

今までの沢山の人を殺してきた事を、その快楽に溺れて沢山の人に追われる生活だった。

その度に、追いかけた者は殺し、相手の生きてた痕跡をすら消していた。

今はその快楽に溺れる事はなくなったが、決して自由ではなかった。

人には蔑まされ、憎まれていた。

だけど、俺の存在は知られてはいない、その証拠をもみ消していたのだから


生まれ変われるとしたら、何がしたいか・・・


俺はレイルの言葉を思い出す。

"いつか平和になった世界で、一緒に自由な世界を見に行こう"


俺はアイツの馬鹿正直な笑顔を思い出す。

自由な世界か・・・ッフ・・・それも悪くないな


「(俺は自由になって、世界を見ていきたい)」


それがシャルにとっての殺し以外の初めての願いだった

魔王は何やら頷くように話す


(ふむ、ならこれは我の選別だ)


次の瞬間、ふわりと体が浮いた。

目の前は見えないが、足場が崩れたのだろう。

選別?何の話だ?

だが、時期に俺の人生は終わりを迎える、暗闇と共に俺の存在は歴史から蚊帳の外に消える


「約束は守れそうにないな・・・、レイル・・・」


その瞬間、衝撃共に意識はプツリと途切れた








(ここは何処だ?)


シャルは周りを見渡せば、白い空間に立っていた。

目の前を見てみると、誰かが座っていた。


白い服を着た青年は白い羽ペンを手で器用にくるくると回していた。

すると青年はシャルに気づく


青年は嬉しそうにシャルに向って言う。


「さぁ、君の自由の物語は始まったばかりだ、始めよう新しい物語をそしてこのページに新しく刻もう」


再び青年は古びた本にインクを付けて書き始める

シャルはその光景を目に焼き付けて見ていた。


再び視界が暗くなり、あの青年の声が聞こえる


「さぁ、シャル・・・時間だよ、君はまだまだやりたい事があるんだろう?君の歴史は私が書こう、書き続けよう、そして君が欲しい自由を手に入れるんだ」


(どいうことだ?、おしえ・・・)


その瞬間、時計の秒針が動く音が聞こえると同時に、俺は再び意識が途切れた。


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