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@nakamichiko

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 この業界では知らぬ人はいなかった。テレビにもよく出演していて「外食業界の神」と呼ばれ、何種類かの外食チェーン店を展開していた。

「一種類のチェーン店を維持するのも大変なのに凄いですね」どの取材も最初の言葉はそうなるを得ない。今は会長となったその人は立身出世を絵にかいたような人で、幼い頃は家族が食べていくのも大変だったという。

「お客さんに喜んで欲しくて」それが口癖の気さくな人柄でもあった。だから結局自分のような経済社会、文芸までを扱うような雑誌記者は取材に行き詰まった時、最高の助け舟として悪いが「使ってしまう」ことになっていた。それはもちろん自分の所だけではない。それも会長はよくわかっていて「いいよいいよ」と言ってくれる、本当にありがたい人だった。

 その話を聞いたのも、そうやって彼の所を訪れた時のことだった。


「ああ! よく来たね! 久しぶり! 」感心するのは数多くの取材陣が来るのに、僕の顔と名前をきちんと憶えているということだ。成功者、と呼ばれる人にはこの特技を持っている人は数多くいる。しかし今日の表情はまた一段と楽し気で嬉しそうで、丸い会長の顔が一層あの笑う月の絵のように見えた。

「お久しぶりです、会長。何かまた良いことでもありましたか? 」

「あったあった! これが解決したからもう死んでもいいと思えるようなことが」

「は? 」

「ハハハ、それは大げさかな、でもとにかく長年の疑問が晴れて何とか形になったからね」

その話し方からして、「聞いてほしい」といっているようだったので、こちらも大スクープまでとは感じ取れないが、まったく新しい彼の話が聞けることは間違いがなかった。

「会長・・・では・・・」

「かしこまらなくていいよ! でも正直大スクープじゃないからね! 」

こちらの心など百戦錬磨の猛者には手に取るようにわかっていた。

「実は初めてのチェーン展開の頃からだったよ・・・」

「そんなに古くからの事だったんですか? 」とても意外だった。





「またか・・・」

「すいません社長・・・」

「これだけ続くともう何か別の事と考えた方がいいかな」

「ええ・・・」

 自分はいくつかの外食チェーン店を経営している。すべてがすべて新規ではない。倒産しかけているものをこちらに引き取って再建というものが多いが、実は自分が最初に手掛けた所もそうだった。


「何故2号店だけがこんなに経営が悪化してしまうんだ」


この業界に入って、文字通り裸一貫から店を持ち、やっと二番目の店、二号店オープンしたときもこの状態になっていた。立地も、人間も自分としては最高のものを選んだ結果だった。それでも最初のことなのであきらめ切れず、ほとんど見切り発車、夜逃げ覚悟で三号店を開いたらそれが大成功を治め、軌道に乗れたのだ。あの時の決断が今のすべてだと自分は思っているが、この妙な

「二号店の悪夢」はずっと続いていた。


「お祓いもしたのに・・・」

「社員の間でも二号店には行きたくないといっているものが多くて・・・」

「困ったな、もうそこまでなってしまっているのでは」

策を全く講じなかったわけではないのだ。どうしても二号店は自分の右腕のような人材を派遣する。要は一番信頼のおけるものだ。そのため過度のプレッシャ―やストレスがかかってしまうのかと思い、二号店に要は「二番目」の人間を行かせても見た。そうすると今度は社内の人間関係が悪くなって、それを感じ取ったのかやはりその二番手の二号店も閉店せざるを得なかった。人間が悪いわけではない。だめになった二号店の店長が四号店五号店で大活躍してくれて

「あの失敗があったから自分は今やれているんです」と言ってくれるのはうれしいことではある。だが経営者としては手痛すぎる失敗だった。

結局そのあと占い師、霊能力者にも見てもらったが、これといった答えが出ずに

「あの時の失敗と決断力を忘れるなということなのか」

ということで、自分を納得させ妙案を講じるしかなかった。


「二号店を最初から作らない? 」

重役会議で最初みんなきょとんとしていたが

「ああ、そちらの方がいいかもしれませんね」

何の反対意見もなくあっさりと決まってしまった。そのある種安易すぎる決定は功を奏し、それ以後会社は順調に成長していった。だがそれはあまり公表したくはなかった。何故なら自分の中では失敗というより、「消えた二号店」に失敗のすべてを押し付けたようにで、二という数字そのものにすまないと感じるようになってしまった。軌道に乗ってしまえば時が経つのは早いもので、自分はもう会長職になり、仕事はしているが趣味の食べ歩きの時間も十分にとれるようになった。


「大将! また来たよ! 」

そこは常連でいっぱいのラーメン屋で、自分は顔を知られているために、できるだけ人の少ない、常連といっても大将の所から離れてこっそり食べているよう客ばかりの時間帯に訪れることにしていた。

「すいませんね、気を使っていただいて」

「いやいや、自分だって客商売だから」と気さくに話せた。何度も通っているうちにちょうど自分一人の時があったので、丁度よいと思って長年の

「二号店の悪夢」の話をした。


「はあ、さすがに大型店は大変ですね・・・」と聞いてくれた。

「何なんだと思います? 大将。このことがずっと魚のとげのように引っかかったままなんですよ。何とかしたいんだけど」

「二号店ね・・・昔で言えば暖簾分けってところですよね」

「二っていう数字が悪い訳じゃないのにね」

「会長、でも聴いた話ですけど社員教育は厳しい方だったんでしょう? 」

「昔はね、今はそんなことはできないけど。だって腕が良くないのに食べ物屋なんてできないでしょう?」

「そりゃそうだ、じゃあ、二号店は腕利きを、一番をやってたわけだ」

「二番手をやったこともあるけど、それも大失敗でね」


しばらく大将は考えて


「一番が二番か・・・一番なのに二番だからかな・・・」


「どういうこと、大将?」


「会長の厳しい指導の中で一番になって、任されたのが二号店、一番なのに二番になったって思ったのかな? 」


「え! そんなことで? じゃあ・・・もしかしたら一号店にすれば」

「かなあ・・・と。でも会長やめてくださいよ、責任なんか取れませんからね」

「いやいや、責任を取ってくれなんて絶対に言わないよ! やってみよう! 積年の疑問を解決するために。見ておいてください大将! 」

若い頃に戻ったように、重役の反対を押しのけて断行した。



「で、まず一号店をオープンさせて、今までぬけていた二号店がすべて復活したよ! ああ! 最高に気分がいいんだよ! 君はラッキーだね! それに知っているよ、よくうちの店で食べてくれるんだろう? 今日は私のおごりだよ、さあ昼飯に行こう!」

「でも・・・自分よりもそのラーメン屋の大将の方が・・・」

「君は優しい男だね、心配するなよ、そっちはそっちでやっているからね! 」

確かにそれを心配する必要などない人だった。


「1番手に一号店、二番手に二号店、そして結果はやっぱりその通りだったよ。1+1は1でなきゃね! 」


二人で大きな部屋を出た。

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