2位というものは無意味なのか?
黒秋
No2の女
私には親父がいる。
だが血は繋がっていない、
年齢的には孫とお爺さんくらいの人だ。
とある場所から様々な理由があって
引き取られたのだ。
そして唐突だが私と親父は裏社会、
つまり非合法が常識の世界に生きている。
私達はとある組織に忠を尽くし
汚れ仕事を喜んで受けている。
腕も親父に鍛えてもらって
私達の組織で2番目に強い傭兵、
No2の称号を得た。
さて、
人は欲が尽きることの無い生き物である。
No2になった私は師匠である親父に挑んだ。
…全力で挑むも、
五体満足で親父は生きていた、
それどころか私を一切傷つけなかった。
「…2番目でも、いいじゃないか」
気を失う寸前、奴の言った言葉を
鮮明に覚えている。
それが二週間前のことだ。
「おいバカ野郎!なーに手を動かさないで
ぶつぶつ喋ってやがる!」
「うるっさいですねぇ!女にはふと
脳内で語りたい時があるんですよ!」
「うるっせぇ現実逃避してんじゃあねぇ!
さっさと目の前の奴らを片付けやがれ!」
とある事情で放棄された十数階建ての
工事現場の10階層辺りに私達3人はいた。
組織のトップの男と、
その取引相手、そして私である。
取引の為の会談をコッソリしていたところ、
集まっている巨大組織の2頭を狙う敵集団に
エリアの奥の木材置き場という
バリケードに私達は追い詰められていた。
「おいジジイ!クソガキ!
びびってねぇで銃撃ちやがれ!」
「誰がジジイだ あぁん!?
おいクインもっと弾よこせ!」
「あんたが
『今日はボディガードの仕事だ、
いつもの身体中に武器着込むスタイルは
見てて暑苦しくてダセェから辞めろ!
スーツでピッシリ決めろ ぐへへ』
とか言うから余分な弾丸とか
持ってきてねぇんですよ!」
「ぐへへ何て言ってねぇよクソアマぁ!
おいジキル、お前武器はまだ残ってるか?」
「俺はこのシカゴちゃんだけよ!
銃が欲しいならそこら辺の死体から取れ!」
そう言って短機関銃を乱射する。
流石は「取引にボディガード?
ひゃひゃ自分の身は自分で守れるわジジイ」
と抜かすまではある。
自衛の手段は一応持っているようだ。
「おいクイン!あそこの銃取りに行くぞ」
「撃ち間違えないように気をつけたり
気をつけなかったりするわ」
「自分の頭でも撃ってなさい」
まるでゾンビ映画のゾンビのように
うようよと目の前の階段から
現れ、登ってくる敵集団をジキル氏が
軽機関銃の荒い弾幕で抑制し、
その隙に走って死体付近に落ちてある
武器をかっさらう。
ライフルに拳銃に手榴弾、
たんまりと取れたのは良かったが
その時、我らが組織のリーダーに
銃口を向けた者がいた。
「死ねぇ!老害!」
「!?」
その老害を押し倒し、
近くの障害物となりうる場所に逃がすも。
リーダーを庇って
弾丸を二発、横腹に受けてしまった。
「クインっ!…テメェジキル!」
「丁度良い!テメェもそこらのゴミどもと
一緒にここでくたばりな!」
「野郎っ!」
ジキル氏自身が敵集団を
仕込んだわけでは無いのだろう。
彼は純粋に好機を見て凶弾を放ったのだ
「おいクイン!死ぬな!」
「死にませんよ…まだ十分動けるっす、
弾丸は内臓に当たらなかったみたいっすね」
「くそ…挟まれたか」
「リーダー、屋上へ逃げましょう」
「屋上?追い詰められるだけだろ?
それよりも下の階に逃げねぇと」
「おそらくこれからずっとこの集団は
襲いかかってくるでしょう。
脱出しようものなら下の階で待機している
無数の兵隊に蜂の巣にされかねません」
「じゃあ上に行ってどうすんだ?」
「ヘリコプターを呼びました、
それで逃走しましょう」
「あ、あぁ、だがここから動けば
ジキルの野郎に撃たれかねないぞ?」
「これを使いましょう」
形状からパイナップルとも呼ばれる
手のひらサイズの 爆弾 のピンを抜き、
軽機関銃を私たちや敵集団に乱射する
狂犬へと投げつける。
「なっ…てめぇらぁああああ!?
声を遮るように破裂音、爆裂音がする。
「今です!走って!」
迫り来る者達に銃弾の雨を浴びせながら、
上の階へと素早く登っていく。
そして屋上の奥に存在する
大工達の休憩小屋に飛び込んだ。
「ヘリはいつ来るんだ!?」
「確かそろそろ…あ、アレです!」
私たちが敵を撃っている窓とは逆側の窓に、
迎えのヘリから発せられる赤い光が見えた。
「よっしゃ!撃て撃て!
弾丸全部使っちまえ!」
「言われなくても!」
目に見える希望が現れたことで
私達のテンションや勢いが高まる。
が、20秒と経った時、
後方で何やら巨大な爆発音が聞こえた。
リーダーと私の銃を撃つ手が同時に止まり、
後ろを振り向く。
「な…ヘリが…墜落してやがる!?」
「まさか対空ミサイル…
そこまで持ってきてたの!?」
ヘリコプターが爆炎を纏いながら
工事現場の真下へと落ちていく。
そして私たちのテンションも一気に減少し
顔が若干青色に染まる。
「くそ、弾丸も…ちょっとしか残ってねぇ」
「私もです…また取りに行きますか?」
「いや、さっきと違って
途中途中に隠れれる場所が無い。
取りに行ってる途中に
何発も弾丸を受けるだろうよ」
「…」
「…」
まずい。
ヘリと共に呼んだ仲間達も
まだ駆けつけてはいない。
「こんな時にジャックがいてくれたらな」
「…!」
反射的に、歯軋りをしてしまう。
ジャック、という男は私の親父、
つまり前に語ったNo1の強さを誇る男だ。
「くそ、なんであいつ来ないんだ!?
今日来るはずだったろ?
あの野郎まさか裏切って…
「リーダー」
「なんだ?」
「あいつは…親父は確かに
この社会で一番強いかもしれない。
私よりも強かった、No1の器です」
「…それで」
「だけど、今はいない。
だから私が戦う、私がNo1の働きをする。
だからいない男より、目の前の私を頼って。
私は…No1以外に負ける気は無い」
武器の供給も断たれ、
絶望に染まったリーダーの顔が
なんとか元の色を取り返してきた。
「…言ったこたぁ守れよ、
俺を庇って死ね!それか…共に生きびろ!」
「了解」
先程とは違い、残りの弾を大事に使って
一発一殺を心がけ、実行する。
だがそれでも弾はすぐさま減少し、
全ての弾丸が底を尽きた、
「リーダー、後ろの窓から出てください。
弾丸が切れたので、 これ で戦います」
持参していたナイフを取りだし、
見せびらかすように振る。
そして同じく後ろの窓から脱出し、
窓の下部に隠れた。
「どうするつもりだ?」
「なぁに。近くに来たやつを斬るだけです」
リーダーは無言で顔をそらし、
タバコを吸い始めた。
しばらくして、
小屋の右側の影からスッと、敵が顔を出す。
その首元にナイフを突き立てる。
左側から、銃を構えて敵が飛び出す。
そいつの眼球から脳を突き刺す。
そうして殺していくが、
途中で利き腕を撃たれてしまった。
そこから何人か殺害するも、
最早転がっている銃を拾う気力すらも無い、
ーー絶望とは、死の前とはこういうことか。
気力を無くし青ざめ震え、水たまりのせいで
分かりやすい足音に恐怖する。
「リーダー、銃取らないんですか?」
「はっはっ、腕が動かねぇなあ」
リーダーも何発か弾丸をくらっていた。
両腕からは止血したものの
出血が止まっていない。
そんな状態でもタバコを吸う執念が何とも。
「…リーダー、多分そろそろ死ぬっすね」
「そうだな、よっしゃ、俺決めたぞ」
リーダーが最後のタバコを吐き捨て、
立ち上がる。
「私も、決めました。
今きてる奴の喉噛み切ってやります」
「俺は次来る奴の睾丸潰してやる」
せめてもの報い、死ぬ前の最後の抵抗。
プレハブ小屋の内部からやってきた者な
私達は同時に攻撃を加えた。
「な!?おい二人とも、何をするんだ?」
私の頭とリーダーの脚は軽々と抑えられる。
だが私達の顔から絶望が薄れていく。
その者は敵では無かった。
No1と呼ばれる者である。
「おい!おせぇぞ!
お前仕事時間に何分遅れてんだ!」
「いやぁ、少し手こずりましてねぇ。
…外の敵は仲間達が駆けつけて
排除しましたよ、ハイドの野郎も私がね」
「ったくよー…おいドクターヘリ呼べ、
クインも病院に運んでやりな」
「ではクインの方は私が」
「え、ちょっと?うわぁ!?」
ひょい、と背負われる。
親父は前に私が何をしたか
覚えてないのか?気まずいとか無いのか?
「んじゃ今日の仕事は終わりだ、俺は寝る」
「わかりました、私はこいつを運びます」
背負ったまま、歩き出す。
…別に傷が開いて痛いとかは無い、
だが無言の時間が続き、非常に辛い。
しばらくして無音の商店街にかかる。
「なぁ、クインよ」
「…なに、親父」
「なぜ1番になろうとする?」
「…それは…えっと…」
そういえば、なぜだろうか。
深い理由が思い当たらない、
あの時の私は1位が2位よりも位が高いから
という単純な理由だけで親父に立ち向かった
ような気がする。
「…私はな、1位も2位も変わらないと思う」
「なに、それ」
「確かに1位は目立つのかもしれない、
頂点なのかもしれない、だが、
だからと言って2位の価値は無いのか?」
優しく、前を向いたまま親父は言葉を紡ぐ。
「頂点に立つことがゴールで
その過程は無意味なもの…なのだろうか?」
「…」
「1位は絶対で2位やそれ以外はゴミ。
上に一人立つだけで、君は弱くなるのか?
いや違う。君のナイフ捌きは一級だし
先程見えた最後まで戦おうとする意思、
これらは評価されるべきものだ」
言葉が、出ない。何も考えられない。
「…No2でも、良いじゃないか。
君が頑張り屋で、才能を持っていて、
優しくて、アップルパイを焼くのが
上手いことに何ら変わりは無い。」
大きな2つの水滴が親父の背中を濡らした。
…私が親父に立ち向かった理由、
それは多分、認められたかったからだった。
親父を上回れば認めてくれる、
そう思っていたからだった。
「…たまには、また帰ってきてくれ。
君は頼れる仕事仲間と同時に娘なんだ、
君がいないと寂しくてたまらない」
泣き疲れた私はいつのまにか
傷の痛みなど忘れて眠っていた。
心が、暖かかった。
2位というものは無意味なのか? 黒秋 @kuroaki
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