第9話 死が私たちを分かつまで

午後9時。


ログインして中央広場に行くと、刹那さんの姿があった。しかし、刹那さんは私に気づかない。どうやら彼女は、隣にいる銀髪の男性アバターと話し込んでいるようだ。そのアバターの上には、「時雨」と表示されていた。名前をタップしてプロフィールを見ると、80レベで、装備欄には高レア装備がずらりと並んでいる。このゲームに、相当お金と時間を費やしているプレイヤーなのだろう。


刹那さんの、知り合いなのかな?


個別チャットで、「刹那さん、こんばんは」とだけ挨拶してみた。


すると、刹那さんは、出し抜けに「あっ、なつさん。そろそろギルド入ります? 」と聞いてきた。


「ギルド、ですか?」

「簡単にいえば、プレイヤー同士の集まりなんですが、今、勧誘を受けまして」

「時雨」さんとやらは、ギルドマスターというギルドの長らしい。


「なつさんにとって、ギルドに所属することは、プラスになると思うんです。オンラインゲームは、やっぱり『仲間』がいてこそですから」

仲間。私には、縁遠い言葉だ。


本音を言えば、刹那さんさえいれば、私はそれでよかった。でも、それを言うのも告白みたいではばかられる。私はただ相づちを打って、明確な意思を示さないでいた。


「時雨さんのギルドは経験者優遇みたいで、なつさんは居づらいと思います。いったん、バラバラのギルドに入って、強くなってから合流するのはどうでしょう? 」


バラバラ……


せっかく、刹那さんと出会ったのに。刹那さんは、私がいらなくなったのかな。


頭からさぁっと血の気が引いて、私は、即答することができなかった。


刹那さんは、時雨さんと、再び話し込んでいる。もしかしたら、私は、邪魔者になってしまったのかもしれない。


馬鹿だなあ、私。


私は、すっかり気付かないでいたのだ。ゲームの中も現実世界と同じ、人間の集まりだということに。


そして、優しい刹那さんに対して、恋心めいたものを感じていたことにも。


ベッドにごろんと横になって、自分の部屋のまあるい照明を見つめた。


馬鹿だなあ、私……


心のなかで何度も繰り返す。


ポン、とベッドに投げ出したスマホから、ゲームのBGMが流れたまま、私は眠りに落ちていた。




目を覚ますと、時計の針は午前5時を指していた。真っ暗な画面のスマホを、思わず手に取る。


刹那さんに、何も言わず、ログアウトしてしまった。何か、彼女に言わなくては。


かといって、ログインするのも、怖い。


私は、はっと刹那さんのSNSがある、ということを思い出した。


setsuna-games.


バクバクと拍動する心臓を感じながら、検索欄に入力する。


ぱっと、アサシンのイラストがアイコンの、アカウントが出てきた。


プロフィールには、今までプレイしてきたMMORPGのタイトルが書かれている。



つぶやきは、たった1つ。


「また、ひとを、傷付けてしまったかもしれない。」


日時は、昨日の11時。


この意味深長なつぶやきは、私のことに違いない。




急いでゲームを起動すると、DMが一件届いていた。刹那さんからだ。


「ごめんなさい」


それだけだった。


それから、刹那さんがこのゲームにログインすることはなかった。


27レベと22レベ。時はそこで止まってしまった。まるで、死が私たちを分断したかのように。



「ただ、私は、刹那さんと離れることが嫌だったんです」


SNSを通して送ったDMに、既読がつかないまま6日が過ぎて、その代わりに届いたのは……


あの、涙を流していた野村さんからの、メッセージだった。

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