第6話 マジョリティ

無邪気に話しかけてくる女の子たちと「友達」になっては、彼女たちの話す恋愛話に辟易するのを繰り返し、今では、ひとりで行動している私。


困ったことに、大教室にいるときは、余計なのが目立ってしまうようで……茶髪の男子生徒が、「今日もひとりなの? 」と声をかけてきた。


「夏実さん、だっけ。俺、同じ学科の三浦瞬っていうんだけど」

和風の細い目に、はにかむと現れるえくぼ。記憶をいくら手繰り寄せても、誰だか覚えがない。


「何でしょうか……? 」

恐る恐る聞くと、「やっぱり覚えてないかぁ」と、彼は頭に手をやった。


「オリエンテーションで見かけたときから、ずっと気になってて」

ぼんやりと、自己紹介をしあったような……と記憶が甦る。


「あぁ」

「思い出してくれた?」

彼の顔がぱぁっと明るくなる。そして、連絡先教えて、と続けた。私は、学科のグループに入っている「なつみ」が私だから、そこから友達に追加してください、とだけ伝えて、席をはずした。


こういうことが、入学してからたまにある。みんな彼女を作ろうと焦っているのか、6月になってからは、話しかけてくる人が多くなった。


好意を寄せられても、対応に困るばかりだ。


もし、私に好きな女の子ができて、告白しても、彼女が「マジョリティ」だったらどうしようもないように。


女子校生だったときには、学校に私みたいな人がいるという噂があった。◯◯ちゃんが、××ちゃんに、カーテンに隠れてキスしてたんだって、とか、下校中に手を繋いでるのを見た、とか。それらは噂にすぎないけれど、ひたすらに、「女の子同士で恋愛できる」ということが羨ましかった。


マンモス大学に入った今、探そうとすれば、ここでも私みたいな人がいるかもしれない。それでも、ひっそりと4年間を過ごしたいという気持ちが大きくて、行動に移すことはとてもじゃないけどできなかった。


なんで、マジョリティ側に生まれなかったのかな。理由は、無いんだろうけど。


私は、スマホをちらっと目の端で見ては、違う世界に行きたい、と思うようになってしまった。


とてつもなく長く感じられる、下校までの時間。私は、ぼんやりと刹那さんのことを思った。


女性か、男性か、何歳なのか……何も分からないけれど。


さっぱりしていて、現実に何ら関係の無い、「彼女」になら、愛想笑いしなくてすむ。


早く、会いたいな。


恋愛の歌詞によくある「会いたい」が、リアルに胸に響いていた。








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