第5話 夢
桜の舞う公園。本を読みながらベンチに座っている私に、一人の女性が近づいてきた。
とても、綺麗なひとだ。
歩み寄ってくる女性をぼーっとみていると、どんどん女性との距離は縮まってくる。
えっ、と思った瞬間、女性は急に私に抱きついてきた。柔らかい。私の胸は、早鐘のように鳴る。女性の温度がじわり、じわりと伝わってきたとき、ピピピ、ピピピ、と目覚まし時計の音が聴こえてきた。
夢だ。
私は、布団から飛び起きて、はぁ~と深いため息をつく。
決して、夢は現実から逃れさせてくれない。むしろ、夢こそが、現実でも見えない自分の一部を見せつけるのだ。
夢で、自分の性的指向を思い知らされた、そんな人はどれだけいるのだろう。
こんな憂鬱な朝も、大学に出掛けなければならない。私は、洗面台に立って、水でバシャバシャと顔を洗う。
それから、自分の長い黒髪をブラッシングして、メイクして……それは苦にならないし、むしろ楽しい。女の子に生まれて、よかったと思っている。
同級生からも「女子力高い、綺麗」という評価をもらっているくらい、The.女の子、という格好が好きだ。
それなのに……
私は、「女の子」が好き。
どうして、と思うけれど、
異性が好きな人と同じように、私にとっては自然なことで、「変」じゃない。
はぁ、と私はもう一度ため息をついて、家を後にするのだった。
12時30分。賑やかな大学のカフェラウンジで、Wi-Fiを繋ぐ。ゲームにログインしてみると、そこには刹那さんがいた。
「あっ、なつさん、こんにちは」
「こんにちは~」
刹那さんは、もう20レベになっていた。
「レベル上げ速いですね」
刹那さんは、「オートモード」を使ってレベル上げをしているのだという。
「やってみようかな」と言うと、
「10レベのプリーストだと、攻撃力ほぼないから、難しいかも。誰かとパーティー組んだ方が効率がいいですよ。後々、強い技覚えられるからソロでいけると思いますが」と刹那さんはすかさずアドバイスしてくれた。知らないことばかりで、本当に、彼女は頼りになる。
「あっ、そろそろ昼休み終わるのでログアウトしますね」
刹那さんはそう断りをいれて、パッと消えた。寂しいな、と思うと同時に、刹那さんの年齢はどのくらいなのだろう、と考えた。
現実から逃れるために始めたゲームなのに、刹那さんの現実が気になるなんて、皮肉な話だ。
私もログアウトをして、共通教養の授業がある大教室へ向かった。
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