第4話 刹那さん

胸を踊らせながら、アプリを開くと、まず現れたのは、ゲーム会社のロゴマーク。


そのつぎに、タイトル画面だ。


よくある、西洋風ファンタジーの世界が描かれているのだが、草の一本一本まで描写されるほど緻密だ。スマホゲーって、ここまで進化しているんだ、とあまりゲームのしない私は驚いた。


BGMの、バイオリンの音色が、心地よい。Startの文字をタップすると、シャララ、と効果音が鳴ってから暗転した。


「魔王によって闇に包まれた世界を救う」という、ありきたりなストーリーが流れた後、このゲームの目玉のひとつである、アバター制作の画面に移る。


髪・目・肌の色、眉・目・鼻・口・顔のかたち、髪型、体型……無数にある選択肢。選ぶのにどれほど時間がかかっただろうか。


30分は、かけてしまった。


結局、自分とは似ても似つかない、低身長・ピンク髪・ツインテール・アイドル顔のアバターが誕生した。


詰まるところ、私はこういう女の子が好きなのであった。中高で好きになったのも、小さくて、かわいい系の女の子だった。それが、恋だったのか、憧れだったのかは今でもよくわからないけど。


職業選択の場面でも、1番かわいい見た目だったプリーストを選んでしまった。


さて、冒険を始めよう!


……と意気込んだものの、平原が広がっている、はじめのフィールドはモンスターを取り合う初心者でごった返していて、なかなか次に進まない。


そんな初心者だらけのなかで、ひときわ目を惹いたのが、クール系の黒髪ロングのアバターを使っている「刹那」さんだ。


刹那さんは、慣れた手つきで、モンスターをバッサバッサと倒していく。


私が、そんな刹那さんを眺めて、ぼんやりと突っ立っていると、刹那さんからパーティー申請が届いた。訳もわからず承認を押すと、チャット画面に彼女からの言葉が並んだ。


「なつさん、パテ承認ありがとうございます。初心者で支援職はきついでしょ」

「危ない、攻撃は私に任せて」

「後ろでヒールしていてください」


私は、ただ「はい」と答え、彼女の指示にしたがっていると、10レベにまで上がっていた。


「ありがとうございます、刹那さん」

私は彼女に向かってひたすらお辞儀のモーションをした。


「お礼されるほどのことはしてませんよ、こちらこそ、ヒール助かりました」


「あっちにいきましょう」という彼女の言うとおりに、フィールドの端に移って、ふたりで並んで座った。


話によると、刹那さんは、他のMMORPGから移ってきたプレイヤーだという。危なっかしい初心者を見ると、ほっておけないらしい。早速、フレンドになって、毎日一緒にプレイすることになった。


「なつさん、また明日」


彼女は、私がアプリを閉じるまでずっと、手を降ってくれた。


ベッドに大の字になると、自分の息苦しさが、ゲームをしている間、無くなっていたことに気づいた。


「……楽しかった」


そう、ゲームの世界では、リアルの世界についての会話をしなくてもいい。する人もいるだろうけど、しない人はまったくしない。刹那さんは、幸い、まったくしない人だ。


楽しくて、楽で、生きやすい世界。

私は、やっと、それを見つけたのだ。


それでも、なんだか釈然としなかった。


刹那さんとの出会いによって、自分のうちに、新たな気持ちが芽生え始めていたのである。

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