フクロウは2番目の切り札

てこ/ひかり

1番はどっち?

 昔々ある森の奥に、大きな黒いフクロウ・クロと、小さな白いフクロウのシロがんでいました。


 クロは生まれつき体が大きく優秀ゆうしゅうで、夜中にネズミを取るのも、空を飛ぶのも、モノをカクのもヨムのも何をやらせても一番でした。そんなクロに、生まれつき小さなシロはいつも小さなあこがれを抱いていました。シロったら、とにかくフクロウのくせに物覚えは悪く、おっちょこちょいで、何をやらせてもドベから数えた方が早かったくらいです。二匹は子供の時から仲が良く、何をするにもいつも一緒でした。


 ある日のことです。

 クロが『一番の賢者になりたい』と言い出し、夜な夜なお出かけの準備を始めました。

 何でもクロは、森の外で開かれる賢者の選手権せんしゅけんに出場するみたいです。第一回大会で優勝すれば、一番目に一番の賢者を名乗れると知って、世界中からさまざまな賢い動物たちが集まってくるのです。さっそく大きなリュックサックにポンポン荷物をつめ込むクロを見つけ、シロが眠たそうにたずねました。


「クロ。こんな夜更けに、もうお出かけするの?」

「ああ、シロ。急いで出かけなきゃ。これでも遅いくらいなんだ。早いやつはもう、とっくに出発してるよ。もたもたしてたら、一番を逃しちゃう」

「二番じゃダメなの?」

「ダメだ。一番じゃなきゃ」

「フクロウは、だって、森一番の賢者でしょう?」


 首を斜めにかしげるシロに、クロは首を横に振って答えました。

「違うよ。フクロウだって、一番の賢者じゃない。上には上がいるものさ。僕が思うに、一番はきっとゴリラだよ。だってあいつらいつも、ばっかりいるだろう?」

 そう言ってクロはパンパンになったリュックサックを背負い、家のドアを開けました。これは面白そうだと思い、シロもまた、クロの後をついて行くことにしました。


「クロは一番になって何をするの?」

「何って?」

 夜の森の中を羽ばたきながら、二匹のフクロウがさえずり合いました。

「そりゃあ、分からないよ。だけどみんなが目指してるんだから、きっといいものに違いないさ」「そうかなぁ」

 シロは小さく首をひねり、クロはやれやれと言った様子で大きく羽を広げました。


「一番が一番。いつだってそうさ。二番は、どうがんばったって二番だろ?」

「うん」

「それに賢いだけじゃ、一番の賢者にはなれないんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。強さだったり、優しさだったり……森の番人、切り札的存在……全てのめんに置いて一番じゃないと、一番の賢者にはなれないね」

「一番強い動物ってなぁに?」

「きっとライオンだ。鋭い爪に、牙まで備えてる。フクロウは、まだ二番目ってところかな」

「一番優しい動物ってなぁに?」

「クジラとか、イルカじゃないかな。だってみんなそう言ってるし。フクロウは、残念ながら二番目ってところさ」

「一番の森の番人ってなぁに?」

「ショベルカーさ。あいつらいつだって、森の一番はじに座ってるだろう? フクロウは、二番目ってところだろうな」

「一番の森の切り札って?」

「木こりだよ」

「切ってるから?」

「切ってるから。僕たちは、まだ二番目なんだ」

「クロは物知りだねえ」

 シロは少し嬉しそうに羽を羽ばたかせ、クロは少し悔しそうにそう言いました。

 

 だけど、そうやっておしゃべりに気を取られている間に、シロは思いっきり頭を木にぶつけてしまいました。おっちょこちょいのシロはそのまま木の枝に落下して、羽を痛めてしまいました。

「シロ!」

 クロが慌ててかけよると、シロは痛そうに顔をゆがめ、羽から血を流していました。

「平気。なれてるから、大丈夫だよ……」

「待ってろ。カバンの中に、『賢者のばんそうこう』と『賢者のしょうどくえき』があったから……」

選手権せんしゅけんに、遅れちゃうよ!」

 シロが慌てて先に行くようにさとしましたが、クロは顔をゆがめ、せっかくつめこんできた荷物をその場でひっくり返し始めました。



 やがてクロがシロの手当てを済ませる頃には、空はすでに白み始め、選手権はもう始まっていました。遅れてきた二匹もけんめいにがんばりましたが、あいにくクロは全体の二位で、シロにいたっては下から数えて二番目でした。


「ごめんね、クロ。クロはずっと一番だったのに。私のせいで、二番目になっちゃって……」

 大会が終わり、シロが小さく身をちぢめしょんぼりしていると、クロがやれやれと大きく笑いました。

「なにいってるんだ。一番大事なのはどっちだよ?」

 それからクロとシロは、それぞれ『二番目』の賞状を受け取って、仲良く森へと帰って行きましたとさ。おしまい。

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