フクロウは2番目の切り札
てこ/ひかり
1番はどっち?
昔々ある森の奥に、大きな黒いフクロウ・クロと、小さな白いフクロウのシロが
クロは生まれつき体が大きく
ある日のことです。
クロが『一番の賢者になりたい』と言い出し、夜な夜なお出かけの準備を始めました。
何でもクロは、森の外で開かれる賢者の
「クロ。こんな夜更けに、もうお出かけするの?」
「ああ、シロ。急いで出かけなきゃ。これでも遅いくらいなんだ。早いやつはもう、とっくに出発してるよ。もたもたしてたら、一番を逃しちゃう」
「二番じゃダメなの?」
「ダメだ。一番じゃなきゃ」
「フクロウは、だって、森一番の賢者でしょう?」
首を斜めにかしげるシロに、クロは首を横に振って答えました。
「違うよ。フクロウだって、一番の賢者じゃない。上には上がいるものさ。僕が思うに、一番はきっとゴリラだよ。だってあいつらいつも、憂いてばっかりいるだろう?」
そう言ってクロはパンパンになったリュックサックを背負い、家のドアを開けました。これは面白そうだと思い、シロもまた、クロの後をついて行くことにしました。
「クロは一番になって何をするの?」
「何って?」
夜の森の中を羽ばたきながら、二匹のフクロウが
「そりゃあ、分からないよ。だけどみんなが目指してるんだから、きっといいものに違いないさ」「そうかなぁ」
シロは小さく首をひねり、クロはやれやれと言った様子で大きく羽を広げました。
「一番が一番。いつだってそうさ。二番は、どうがんばったって二番だろ?」
「うん」
「それに賢いだけじゃ、一番の賢者にはなれないんだぜ」
「そうなの?」
「ああ。強さだったり、優しさだったり……森の番人、切り札的存在……全ての
「一番強い動物ってなぁに?」
「きっとライオンだ。鋭い爪に、牙まで備えてる。フクロウは、まだ二番目ってところかな」
「一番優しい動物ってなぁに?」
「クジラとか、イルカじゃないかな。だってみんなそう言ってるし。フクロウは、残念ながら二番目ってところさ」
「一番の森の番人ってなぁに?」
「ショベルカーさ。あいつらいつだって、森の一番
「一番の森の切り札って?」
「木こりだよ」
「切ってるから?」
「切ってるから。僕たちは、まだ二番目なんだ」
「クロは物知りだねえ」
シロは少し嬉しそうに羽を羽ばたかせ、クロは少し悔しそうにそう言いました。
だけど、そうやっておしゃべりに気を取られている間に、シロは思いっきり頭を木にぶつけてしまいました。おっちょこちょいのシロはそのまま木の枝に落下して、羽を痛めてしまいました。
「シロ!」
クロが慌ててかけよると、シロは痛そうに顔をゆがめ、羽から血を流していました。
「平気。なれてるから、大丈夫だよ……」
「待ってろ。カバンの中に、『賢者のばんそうこう』と『賢者のしょうどくえき』があったから……」
「
シロが慌てて先に行くようにさとしましたが、クロは顔をゆがめ、せっかくつめこんできた荷物をその場でひっくり返し始めました。
やがてクロがシロの手当てを済ませる頃には、空はすでに白み始め、選手権はもう始まっていました。遅れてきた二匹もけんめいにがんばりましたが、あいにくクロは全体の二位で、シロにいたっては下から数えて二番目でした。
「ごめんね、クロ。クロはずっと一番だったのに。私のせいで、二番目になっちゃって……」
大会が終わり、シロが小さく身をちぢめしょんぼりしていると、クロがやれやれと大きく笑いました。
「なにいってるんだ。一番大事なのはどっちだよ?」
それからクロとシロは、それぞれ『二番目』の賞状を受け取って、仲良く森へと帰って行きましたとさ。おしまい。
フクロウは2番目の切り札 てこ/ひかり @light317
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