私の人生はね、小説の次くらいに面白いのよ

空音ココロ

2番目の良さを説いてみた

 今日は旧知の仲にある引きこもり(彼女)の元へ押しかけに行っていた。


 数日前に押し掛けた時もそうだったがほとんど外へ出ずに暮らしているようだ。まったく、少しは外に出ないと白い肌がもっと白くなっちゃうじゃないかと心配になる。それに人とも会おうとしない、無理やり誘わないと俺とすら会うのを面倒くさそうにする時がある。だから無理やりにでも用事を作って出掛けていく。


 前回、ノートパソコンの通販サイトが開きっぱなしになっていたのでフクロウのラベルが貼ってある地ビールを発注しておいた。

 この子は面倒くさくなったら「ほーほー」といってフクロウの鳴きまねをするんだ。だからフクロウに関係するものを探して、気に入りそうなことも確認して仕込みをしていたんだ。フクロウだったら不苦労と言って縁起の悪いものでもないしね。

 サイトのショートカットをデスクトップに貼りつつ1クリック詐欺を働いておいてあげたんだ。


 ビールが来る頃であろう時を見計らって家へと突入した。ぐだぐだとどうでもいいことを言いながら今日の機嫌を探っていく。そしてしっかりとした箱が到着したらサインをしてもらってルービーを目の前にちらつかせるのだ。


 俺が買って持って行ってもいいのだが、そうすると飲まないだろう。変なところで意地っ張りで、天邪鬼。俺が甲斐性無しでどうしようもないけれど、なんか来てるし買わされたものだけど自分の懐から出たものだし飲もうかな。くらいの気持ちにさせないと、ってここまでしないと引きこもろうとしちゃうんだ。

 俺にとっては一緒にいる口実が出来て、酔わせてふにゃふにゃにちょっとなった姿を見て癒されたり損というばかりではない。


 さて、彼女は酔えば「ほーほー」と言っていたのが饒舌になってくる。普段あまり喋らないのはなんでだろうと考えたことがある。

 彼女はちょっとした物語を紡ぐお仕事をしていて、考えを口に出すというよりは文字にして表現していることが多いから、ということもあるのかもしれないと思う。


「私の人生はね、小説の次くらいに面白いのよ」


 お酒が回り始めて喋りだしたみたいだ。人生論を語るなんて珍しいな、最近は推しがどうとかっていう話が多かった気がする。


「私の人生はね、2番目ってことなの。事実は小説より奇なりとは言うけれど、私の人生は小説より何も起きないどうしようもないのよ」


 おいおい、どうしたんだい? 何か嫌なことがあったのかな?


「私なんて2番目なのよ……」


 2番目がなんなのかは分からないけれど、とりあえず2番目な事にショックを受けているみたいだ。どうしようか、ここは2番目のいい所を言ってみようかな? 2番目だって悪くないんだよ?


「俺は2番目好きだけどな。2番目のいい所いっぱい知ってるよ」

「あら? 言ってくれるじゃない、それじゃあ2番目の良さを教えてよ」


 彼女が俺の目の前に胸ぐらをつかむんじゃないかというくらいの迫力で迫ってきた。じっと俺の眼を見つめてきて何かを見極めようとしているのか動かない。とはいえ、酔っぱらいなので少しとろんとした瞼と小刻みに瞳が揺れている。

 息が少し荒くて、距離が近いので少し彼女の体温を感じていた。


「歌の歌詞ってさ、1番は良く知られていたりするけれど2番目って知らなかったりするじゃない。あの童謡に2番目があった! とかたまにやってたりさ」

「それで?」

「最近の曲でもさ、2番目って歌ってる人の隠れた思いが込められていると思うんだよね。1番目ってストレートに分かり易い伝えたいことだったり、万人受けする言葉って感じだけど2番目って聞こうと思う人しか聞かないからさ、じわって来ることあるよね」

「そうかしら、それが良いことなの?」

「俺は好きなんだけどな」

「あなたが好きなことじゃなくて、私にも感じられる良いことってないの?」


 彼女には伝わりにくかったらしい。ということはこんなことを考えてるのは少数だったりするのかな?


「それじゃあ、景品の2番目とか、ビリから2番目のブービーとかさ、1位じゃ高額なもの貰えるんだけどヨーロッパ1周旅行とか使うに使えないよ! とか思っちゃったりするけれど2位は現実的な商品券とか現物支給だったりするじゃない。ブービーに至っては成績悪いのに上位の商品と同格のものが貰えちゃったりするし、どう? 2番目っていい感じしない?」


 どうだ? どうだどうだ? みたいな食い気味な感じで2番目の良さをアピールして見る。けれどこれも彼女にはちょっと効きが弱いみたいだった。


「私は景品が当たるような勝負はしないし、やったとしても1位の景品が現実的にいいものしかやらないから関係無いわ」


 なかなかしぶとい、さすが天邪鬼さんです。少しは共感してくれてもいいかなと思ったんだけどな。

 一般的な攻め方は通じないらしい。ふふふ、それなら君自身の話をしたらどうかな?


「2番目ってセコンドて言ったりするじゃない、リングの隣に君がいてくれると思ったらさ、2番目は好き以外の選択肢はなくなっちゃうんだよ」


 俺の言葉は伝わるだろうか?

 少しぽわっとした顔をしていたけど自分のことを言われていると気付いて急に眼がぱっと開いて固まっていた。これはもっと押しが必要そうだ。


「どんな体験だってさ、初めては感動したりするじゃない。初めてだから感動するのは当たり前で2回目はいいやっていう場合もあるけれど、2回目も体験して感動したら本当に好きなんだなぁって噛みしめてる感じがしない? リピーターとかもさ、したりされたりすると嬉しかったりさ」

「それは2番目じゃなくて2回目だよね?」


 突っ込まれてしまった。確かにそうかもしれない、2という概念を広く捉えすぎたかな。


「きみは2番目の良さを言おうとしているみたいだけど2番目が好きなの?」

「そうだね、2番目が好きで、2番目の良さを知っているよ」

「悪い所は?」

「もちろん、好きだからこそ良い所も悪い所も知ってるよ」

「ふ~ん、ちなみに私のことも2番目に好きってことなのかしら? それとも2番目がいいなら、私にとってもあなたは2番目に好きって言った方がいいのかしら?」


 むむむっ、この天邪鬼さんめ。酔ってふにゃふにゃになったと思っていたのに戻ってきてしまったぞ。しかし2番目に好きってなんだかちょっとショックのような……、でもポジティブに考えよう。2番目が良い理由を彼女に教えてあげるよう。


「君のことは1番目に好きだよ、ちなみに2番目は予約済です。それとね2番目に好きってのも嬉しいんだよ、だって1番は両親のはずじゃない。2番目に好きってすごい嬉しい言葉だなぁ」


 どうだ、どうだ。呆れ返ってくれてもいいさ。2番目の良さを言っているのだから。


「予約済みって誰を予約してるの? 私以外に誰がいるの?」


 なんだかちょっと泣きそうな顔になってる。いや、ちょっと待って。何か勘違いしてるって。こんな顔をされるようなことを言ったつもりは無いのだけど。


「予約済みって、そりゃ君との間に出来る子供に決まってるじゃないか」

「えっ、あ、こ、子供!?」


 いや、俺もいったい何を言ってしまったんだと思う。俺としたことが、2番目が良いという話なのになんで、こ、子供とか言ってしまってるんだろう。言ってる自分の体が熱くなってきた。

 とりあえず別の話題、別の話題!


「2番目が良いってのはさ、俺が2番目ってことはさ、1番は君に上げられるんだよ。それが俺には嬉しいのさ」


 って俺はいったい何を。どんどん墓穴にハマっていく気がする。いやまぁ、間違って無いんだけどさ、いや、だからさ、彼女固まっちゃってるし。えと、えーっと!


「恋のABCってあるじゃない、俺は2番目が好きなんだよ。だからさ、俺は君のことが好きで、君にキスをするのが好きなんだ」


 おーーーぃ! もう駄目だ。お酒に酔ってるからって、もうさ、熱い、めちゃくちゃ熱い、お酒のせいだ。全部お酒のせいだ。こんなこと言って嫌われてしまっただろうか。きっと自分の顔も真っ赤になっていることだろう、お酒のせいで。


「そ、そうなんだ。ま、まぁ、そんなに2番がいいなら、に、2番目良かったじゃない。え、あ、う、すーはー……」


 むっちゃ動揺しているのが分かる。

 そりゃこんなこと言ってたらね。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせている。これで酔いがさめてしまうのかな。


「きみに魔法をかけてあげましょう」


 おい、どうした、いきなり。やっぱり酔っているのか。俺が血迷ったことを言ったから、君まで。


「一番目は、手を繋いで……」


 そういって彼女は俺の手を握った。


「ほら、温かい」


 まぁそりゃあ血圧無茶苦茶上昇中ですから。


「これは私が手を握ると体が温かくなる魔法です」


 いや、別に魔法じゃないしとは思ったけど、魔法ってことにしておこう。


「次に……」


 そう言って彼女は俺に唇を重ねた。


「2番目はきみが私のことを好きになる魔法です」


 いや、元から好きだし。

 つか、心臓の鼓動が早い、こんなことをしてくるなんて珍しいような、珍しいとか言ったらもうやってくれなさそうだから言わないけど、初体験? これは2回目あっても感動できそうだ。

 しかしこれはどうやって反応すればいいのだろう。真面目に返すか、俺も魔法使いにでもなるか? いやいや、ここは魔法にかかったことにした方が良いのかな? やばい! 何が正解か分からない! というより、こんなことしてたらいろんなものが我慢できなくなりそう。落ち着け、俺!


「魔法が効きすぎてオーバーヒートしそうです。ところでこんなことしちゃう君の人生は物語よりも2番目なのかい?」

「さぁ、どうかしらね。2番目だって良い所いっぱいあるんでしょ? もっと教えてくれる?」


 彼女はまだまだ天邪鬼のようだ。俺は彼女の背中に手を伸ばして抱きしめる。

 顔を真っ赤にした可愛い君は2番目も気に入ってくれたのかな。

 あー、えっと本当は1番が良いというのは黙っておこうと思います。

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