グータラな秀才次席のno.2願望
大艦巨砲主義!
第1話
9つの銀河の外に存在する銀河系では、白楊帝国、審級教王国、バルデガミランの3つの勢力が銀河系の覇者の地位をかけて鎬を削っている。
そんな中、白楊帝国にて新たに即位した若き皇帝ジークフリート11世は、帝国に蔓延る特権階級による貴族主義の体制を廃棄し、白楊帝国を皇帝の威光の元1つの国とする中央集権国家にする改革を打ち出した。
これに当然特権階級だからこそ栄華を極めていた貴族たちは反発。
白楊帝国は皇帝の率いる白楊帝国軍と貴族たちがまとまった貴族連合軍の2勢力に分かれ、内乱の時代に突入した。
これは、そんな白楊帝国の内乱期に起きた戦いの一幕、後に『バーラム会戦』と言われる戦いの記録。同期たちに「グータラな秀才次席」と称されていた、形はそれぞれながら万年次席指揮官の地位に甘んじていた1人の怠け者が活躍の一頁を記したものである。
貴族連合軍はサンクチュアリ級惑星型巨大要塞6基中4基を占領し、各地で白楊帝国軍と戦闘を繰り広げていた。
サンクチュアリ級第3要塞『ビューガ』では、第7皇帝の弟である大公を祖とする帝国最高の貴族であり時に皇帝以上の権威を有すると言われるケーニヒデルグ大公が保有している要塞である。
そのビューガにほど近い宙域、恒星系バーラム沖合の宙域にて、白楊帝国軍2個艦隊からなる6万隻の艦隊と、貴族連合軍トルラバン侯爵率いる8万隻の艦隊が激突していた。
しかし、それぞれが黒と赤で統一された2つの艦隊が連携をとる帝国軍に対し、連合軍はトルラバン侯爵の率いる5万隻の侯爵艦隊がそれに突撃している形となっており、3万隻の後衛艦隊は傍観していた。
帝国軍は、白楊帝国の英雄マクミリシアン軍務総統の両腕と称される黒豹艦隊のジャスティン・カーヴァード、赤狼艦隊のダグラス・ホークランドが率いる精鋭艦隊が3万隻ずつで計6万隻。対する侯爵の率いる艦隊は所詮貴族の私兵軍で編成された5万隻の寄せ集め同然の艦隊である。数にも劣っている上に指揮官の差も明らかであるため、侯爵の率いる艦隊は帝国軍の両艦隊に圧倒されていた。
………え〜、クソ長い説明でしたがそれを後方で眺めている後衛艦隊3万隻を率いるのが、副将であり万年次席指揮官であり侯爵に交戦を許されなかったことで惰眠を貪っているグータラ、この俺バルグェイド・ジャン・ロベスピエールです。
ロベスピエール侯爵家の三男坊で、ご覧の通り貴族に名を連ねていますが爵位のない身の上です。それを理由に侯爵殿には戦列参加を禁止されました。
同様の理由で、連合軍では常に参謀、良くて今回のような次席指揮官の地位にいます、毎度。ついたあだ名が万年no.2。俺は割と気に入っていたり。
このように、侯爵殿の命令があるため味方が圧倒されている様をこうして眺めるしかないわけです。やることないので堂々と怠けられるのが、次席のいいところ。
蹂躙してやる!とかほざいた割に、いいようにやられているなぁ侯爵殿は。
「トルラバン侯爵討死!」
「あ、死んだの?あのおっさん」
と、グータラしすぎているうちにトルラバン侯爵が戦死した。
総司令官戦死のため侯爵の艦隊はもはや機能しない。ありゃダメだな、豹と狼に刈られて終わるわ。
巧みな連携と多彩な戦術でこちらの艦隊のno.1を討ち取ったマクミリシアンの両腕。頭をなくし、あとは降伏しない敵をすり潰すだけとなったところで、狼の方が何やら狙いをこちらに向けてきたらしい。
「バルグェイド次席司令官! 赤狼艦隊がこちらにやってきます!」
「えー!?」
なんでホークランド伯爵の坊ちゃんの方なんだよ!?
あいつ脳筋な上に執念深いから、狙いをつけられれば戦うしかない。
うわ〜、心底めんどくせえ。
本心も何も、個人的にはトンヅラしたいところである。
しかし、あいつの率いる艦隊は何かと速い。スピード特化の艦隊で構成されているからな。
総司令官の侯爵は特に役に立たず戦死したので、今後のこの艦隊の指揮官は次席指揮官である俺がしなくちゃいけない。
こういうのが嫌だから万年次席で押し通してきたのに………めんどくせえな。
侯爵が戦死した時点で、俺は司令官になった。これで負ければ失敗したの烙印の元に殺されるので、戦うしかない。
貴族連合軍の将として戦うたびにこういう場面に出会うなら、目立ってもいいから次席指揮官の任務を頑張ろうかと思う。
まあ、とりあえず俺があのおっさんの尻拭いで敗戦の将になるのは嫌なので、とりあえず戦うことにした。
回線をオープンにする。敵にも聞かれるけど、別に関係ないし。
「とりあえず、あの狼はさっさと追っ払おうか。はーい、皆さーん! 万年次席指揮官のバルグェイド、これから艦隊指揮を取らされまーす! 侯爵さんとこの艦隊も俺の指示に従ってくださーい! さもなくば死にまーす! ホークランドの坊ちゃんは赤毛のワン(赤毛のアン)ちゃんらしく、尻尾巻いてさっさと帰ってくださーい!」
『バルグェイド! てめえ今日こそ借りを返してやる! 首洗って待っていろ!』
オープン回線ついでにホークランドの坊ちゃんを挑発したら、すぐに頭に血を昇らせて返事をしてくれた。よしよし、単細胞が突っ込んでくる。
「はい回線変更」
ここで回線コードをオープンから切り替え、敵に聞かれないようにする。
それからそのコードを使って、侯爵の残兵に赤狼艦隊が抜けたことでできた退路を示し、そこから離脱してこっちに合流するルートを乗せた指示を送った。
「よしよし。じゃ、ホークランドの坊ちゃんを出迎えよっか」
次席指揮官が良かったなと思うけど、もうどうしようもない。
とりあえず、敗軍の将として処刑されるのは嫌なので、さっさとあの足の速い犬っころを追い払うとしましょうか。
カーヴァードの率いる黒豹艦隊は正面衝突の戦いに攻守ともに優れるけどあまり足は速くない艦艇が多い。犬っころを追い返すまではここに来れないと見た。
後衛艦隊が俺だと聞くや、すぐに残兵処理を配下に任せて5千隻ほどの艦隊とともにこちらに向かってきているけど、まあ間に合わないよねー。犬っころの足が速いから。
さてと、まずは犬っころの艦隊2万7千隻から相手にしましょうか。
こちらは3万。まあ、数は互角だけど勢いは向こうにある。
錐行陣(円錐の形となり、頂点に旗艦を据えてそれを先頭に突撃する陣形)で突撃してくるホークランドは脱落艦艇も出るほど速度を出している。
その分、激突すれば正面がひとたまりもないだろう。
ならどうするかだけど、わざわざ正面から迎え撃つ必要なんてない。
というわけで、艦隊を逆推陣形(要するに鶴翼の陣を円錐のように立体的に展開した陣形)に展開、正面突撃を仕掛ける艦隊を包囲する体制を整える。錐行陣を組む赤狼艦隊を型にはめ込むような、いわばほぼ同じ形だ。違いは中が空洞になっているくらい。
一方、犬っころはその陣形移動を見るや、すぐさま突入点をキルゾーンから陣の上辺へと変更した。
流石にまっすぐ突っ込むほどアホじゃないか。
「敵艦隊、突入します!」
突入点を逆推陣形の上辺に定めたことで、包囲攻撃から逃れるとともに陣形を食い破るルートを作れる。
そこから逆推陣形を崩して、壊れて機能しなくなったキルゾーン、中央を攻めてくる後続と連携して飲み込もうという腹積もりだろう。
「ま、読めてるけど。適当に往なして」
こちらも指示を飛ばす。
突入点をずらすことなんてわかりきっていたので、上の陣形をあえて大きく開き突撃してくる赤狼艦隊の攻撃を横に受けながすとともに、逆三角形を描くように陣形を上から広げていく。
同時に他の艦隊を半球状に展開し、調整していく。
すると敵には攻勢に押されて陣形を崩され撤退するように見えるから、それを追撃してくる。
うんうん。そうやって広がった陣形は、下っ腹がガラ空きなんですよ。
「ほい、反撃開始」
いつの間にか逆推陣形の上側は開ききっており、突入点から逃れて遊兵とかしていた他に展開していた艦隊の射線上に展開されていた。
言ってしまえば、今の陣形は半月状になっており、上の面は端っこ以外全部帝国軍の艦隊。半球の部分には上に斜線を向けている連合軍の艦隊。但し、帝国軍の艦隊は、こちらに艦底部をもろに晒している状態である。
艦艇の砲撃と防御で一番弱いのは、艦体の底である。
それを晒せばどうなるか。ま、わかりきってることだよね。
「一斉砲撃ヨロシク!」
「撃てぇ!」
………えーと、あとはもう赤狼艦隊はいい的でした。
先行した犬っころの艦隊は8割以上が撃沈。ホークランドは命からがら逃げ出し、オープン回線で「これで勝ったと思うなよ!」と負け惜しみを向けた。
そして赤狼艦隊が抜けた上に、こちらには穴だらけの包囲を突破した侯爵配下だった艦隊が合流。数の優劣は完全に逆転され、カーヴァード率いる黒豹艦隊は撤退した。
結果を見れば逆転勝利だけど、被害はほぼ同数。
そしてこの勝利だが………次席指揮官の立場を利用してグータラしたい俺は大公がもしも侯爵が戦死した時に次席指揮官(俺)に託した必勝の策を実行しただけということにして、手柄を全部大公家に押し付けた。
よしよし、これでまだまだ次席指揮官の地位でサボれるわい。
万年次席指揮官こと、グータラな秀才次席。
銀河統一の英雄マクミリシアン・アスカムに、生涯を通して一度として勝てなかった存在といわしめた人物、バルグェイド・ジャン・ロベスピエール。
その真実を隠した偉業は、バーラム会戦と称されたこの戦いにも1つの功績として影に残されたのだった。
「俺はさ、万年次席指揮官が似合ってんの(no.2によるグータラ願望)」
グータラな秀才次席のno.2願望 大艦巨砲主義! @austorufiyere
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