どんな存在も、死ねば永久に失われる。日常においては死は忌まれ避けられるものだ。しかし、ある状況においては歓迎される可能性がある。そこで考えるのは、死そのものが直接に利益をもたらすのか間接にそうなのかの違いだ。例えば自分を追い詰めていた殺人鬼が突然雷にでも打たれて死ぬのは実に直接の利益だろう。それとは別に、自分が好意を持つ相手を苦しめていた人間が死ぬのは間接の利益だろう。
本作の悲劇は、直接の利益になると確信してもたらされた死が間接の利益だった点にある。ただし、ここで述べる『自分が好意を持つ相手』は彼ではない。主人公自身だ。主人公が愛しているのは主人公。彼はその影法師に過ぎぬ。影法師が独立して誰かを愛するなど論外だ。だから、ああならざるを得なかった。