前世から…

小坂ひかる

偉大なるナンバー2

私の足をいま、治療してくれている彼…


手がとても温かい。ときおり私を見つめて楽しく話してくれる彼の黒目はとても大きい。そして、美しい。


私の足にことごとく流れてくる虹のようなパワー。真綿にくるわれたような暖かみ。先週初めて出会った治療者なのに、その不思議さに圧倒されていた。


わからないんだけど、なぜだか本当にわからないんだけど、彼が愛おしくてたまらない。


先月の雑談で「僕の妹、隣の駅前にある病院でバイトしていたんです」

「ほんと!私もそこでバイトしてましたよ。でもセンセイと同じ名字の方がいたかなあ、覚えてないなあ…」という話をした。


そのときは何も思わなかった。ただの偶然だと思っていた。


しかし、どんどん偶然が重なる。


「あの大地震の時、私はボランティアに行ったんです」

「その避難所に、僕たち家族がいましたよ!」

「奇遇ですねえ、ひょっとしたら会っているかもしれないですね」


信じられないことに、まだ重なる。

「僕の自宅から高校まで、本当に遠かったです。H町の団地から40分かけて毎日自転車で…」

「その団地の何棟ににいたんですか?」

「40棟1階です」

「私41棟5階にいましたよ!」

「うそ!」

そういえば、たばこを吸っている人を、5階から毎日見ていた。


その人のことを、意味もなく見つめていたことを思い出した。別に何も知らない人だけど、そのたばこを吸う姿だけをなんとなく見つめていた。


その人が、いま、わたしの足を治療している。


私は、結婚して子供もいる。家族を愛している。

彼には、婚約者がいる。未来がある。

そんな状況で、治療者と患者として知り合った。


それぞれに、一番大切な人がすでにいる。

すでに、いる…。

いくら、出会う前から呼び合っていても、もう私たちには「一番目」がいる。


彼は、私をじっと見つめる。

私も彼を、じっと見つめる。


でも、見つめられるだけでこんなに幸せなのは

お互いに「一番目」がいるからだろう。


出会うのが遅かった、とは言わない。

出会うのを遅くしたんだろう…私たちは、生まれる前にそう、決めてきた気がする。


そして、お互い「二番目」という間柄ではあっても

それは、「それぞれの一番目を大切にできるよう、力を与え合っている」

それがどれだけの繋がりを感じられることか…。


一番目を大切にすることほど、しんどいことはない。それは戦いにも似ている。愛があっても憎しみに変わり、憎しみが無視にも変わる。


一番目ほど、しんどい間柄はない。



おそらく私たちは、前世から約束してきたんだろう…

一番大切な者同士で生きてきた前世があって、

愛し尽くしたんだとおもう。


「お互いに唯一無二であることはもうわかっているから、それぞれの道を歩もう。それぞれの一番大切な人を大切にできるように…そんなパートナーでいられるように」


…そして、私も彼も現在離婚してしまっている。

これから、私たちの関係はどう変化するのだろうか。私は彼の一番になりたくない。


彼が「一番大切にしたい」とおもうものを、私が守りたい…。

彼も「一番大切にしたい」とおもうものを、彼が守ってくれる…。



お互いにとって「偉大なるナンバー2」でいたい。
























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前世から… 小坂ひかる @kosaki

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