第二十四話 進行

「想定外の珍客もいたが、まあ概ね想定通りだろう」



 第十一階層。わずかに疲労の感じられる体と心を叱咤し歩き進める。

 原因は当然、先ほどの勇者もどきである。



「結局なんだったんですかねー」


「わからん。そもそもどうやってここまで来たのかも不明だ。私達の後をつけてきたのかもしれないが、そうであれば私かライラが気が付かないはずがない」



 バジリスクを倒す前であれば、多少なりとも格好がついたかもしれんが、アレでは仕方がない。

 あ奴も倒すべきと思っていた者が助ける側の者だったとは夢にも思わなかったはずだ。

 

 あの巨躯で、威圧感。敵だと感じてもおかしくはない。


 そんなヴェルフェールは、十一階層へと向かう直前に退去してもらった。魔力消費に見合った扱いではないかもしれないが、半分は久々に顔を合わせるためであった。バジリスク討伐はついでのようなものである。つまり何の問題もない。



「まあそんなことはどうでも良い。あいつは立ち直れないかもしれないし、なんならあのまま再び現れるであろうバジリスクにやられるかもしれない。当分会うこともないだろう。金輪際、になる可能性だってあるのだからな」



 しかし、なんとなく予感がする。ただの勘か、アレに関わる者との共通点か。


 長い付き合いになりそうだ。



 つい漏れた溜め息に、思わず苦笑いをしてしまった。

 


 11階層とはいえ、先ほどと特に変わりはない。強いて言えば、少々敵の強さが増したくらいか。


 流石六大迷宮、私の欠片を核として使っているだけあって、一体一体がそれなりの強さを持っている。本当に人間はこのあたりまで進むことが出来たのか、不思議に思うくらいだ。

 いやそうか。我々は二人だが、多数のパーティで同時攻略という可能性もあるか。むしろそれのほうが正解だとは思う。人間は数だけはいるからな、その利点を使わない理由はない。



 相変わらず駆け足での攻略であることは変わらないが、現在はそのほとんどをライラに任せている。


 十階層以前も似たように攻略していたが、今回はもっと露骨だ。



「何階層まであるかは知らんが、できる限り頑張ってくれ。消耗した状態で戦いたい相手ではない」


「わかってますよー。まっかせてくださーい」



 この階層に踏み入れてから感じていた気配。

 それは、昔からよく知っているもの。今となってはただただ嫌な気配としか感じない。

 未だ距離が離れているためか、うっすらとしか感じることはないが、それでも伝わるこの清廉さ。


 わかっている、理解わかっているさ。この迷宮の最下層に誰がいるかなんて。

 

 当然だ。アイツは私が三千年で封印から覚める事を知っている。

 であれば、対策を練るに決まっているのだ。


 アレだってそこまで無能であるはずがない。仮にも神を名乗っているのだから。認めることは絶対にないが。


 私が目覚めたら六大迷宮に来ることなど、容易に想像できるだろう。となると、力を取り戻させない様に何かしら番人を配置するに決まっている。私があいつの立場であれば、まず七欲の全員をバラバラに一人ずつ向かわせることだろう。

 


「三千年前、逃亡を許したのは何体だ?」


「えーっと……見過ごせないレベルはー、七体ですかねー」


「七体か。七体となれば……嗚呼、まあそうだろうな」



 三千年前、取り逃がした神の先兵。

 

 昔のこいつらから逃げ遂せる程の実力を持っている、序列上位の天使たち。

 神によって創られ、神に仕える天界の猛者。あらゆる障害を打ち払い、死に逝くものへの救済を与える番人。


 私もよく知っている。散々話し、戦い続けた者達だ。



 天使はそれぞれ、複数の翼を持っている。そして天使における翼の数とは、基本的にその者の位と戦闘力を示している。

 内包する魔力、そして天使にのみ許される純粋な善性・・の力。


 天使においては翼の枚数こそが、全てなのだ。


 ただ、単純な実力主義ではないので何とも言えないが。



「勢いで来たものの、実際問題、勝てるのか?」


「まおーさまならだいじょーぶですよー。多分」



 目の前に迫る敵らしきモノを焼き払いながら、ライラは告げる。

 改めて考えると、今の私が勝てる要素なんて殆どないに等しい。


 だって、ほら。全盛期の私に近い実力を持っていたこいつらから逃げ遂せるんだぞ?半端な力であるはずがない。


 いざとなれば奥の手の一つや二つはあるが、あまり切りたいものではない。



 戦い方を模索しながら、迷宮を進み続ける。


 時折ライラに手を貸し敵を屠る。


 ただ黙々と、駆け降りる。それに連れて嫌な気配はどんどん濃くなっていく。




 そのまま私たちは、二十階層へと辿り着いた。




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