第十九話 迷宮
迷宮の内部は、十分先が見える程度には明かりが灯されていた。
ライラによると、これは迷宮特有のモノらしい。どんな理由があって設置されているか、詳しい事はまだ解明されていないという。不思議現象もあったものだ。
壁は上質な石、のようなものだろうか。滑らかな質感を持っており、それなりの力を込めて殴っても傷一つ付くことはなかった。破壊不能というのは本当らしい。
道幅は人が十数人は横に並んで歩けるほどに、広い。戦闘するのであれば好都合だ。
「ここまで来てから言うのもなんだが、迷宮はどうやって進むものなんだ? 各階層の最奥に階段でもあるのか?」
「えーっとー、私が攻略した迷宮もー、魔大国の六大迷宮もー、全て階層の奥に魔法陣が設置されていましたー」
「ああ、なるほど」
場所を固定した転移魔法陣か。なるほど、などと言ったがこれは相当な代物だ。
各階層、という事は少なくともこの迷宮には18以上存在することになる。
そもそも転移という魔術が非常に希少価値の高いモノである。三千年前でも、今でも変わらない。
確かに転移する手段も魔術も存在するが、扱える者は極めて少ない。
と考えると、やはりこの「迷宮」という場所には人知を超えた何かが関わっていると考えて間違いないだろう。世界のルール、なんて馬鹿げた事すらあり得る。
私もライラも、この迷宮に関する知識はない。そのため、分かれ道は感覚で進んでいくしかない。非常に面倒だが虱潰しだ。
二つ目の分かれ道を右に曲がったところで、視界の先に一つの影が映る。
あれは、ゴーレムの類か?
「見たことの無い種類だな」
「この迷宮独自のモノですかねー?」
ゴーレムは基本的に魔力核を媒体にして動く存在だ。明確には生物、というくくりには入らない。
そのため、動力源である核を潰してしまえばそれで終わりだ。
だが、種類により物理抵抗だったり魔術抵抗だったり、またはその両方を兼ね備えている場合がある。
私の三倍はあるだろう、巨大な体躯。それに見合わない速度で襲い掛かってきた。
「分からないのであれば、殴ってみればいい」
物は試しだ、初見の相手など殴れば大抵のことは分かる。力は、ぱわー。力こそ正義である。
魔力強化は対グラトリアの時と同程度。七割の力で、降り注ぐ巨大な拳に向かって、真っ向勝負を仕掛ける。
華奢な腕と、謎の魔力物質でできたゴーレムの剛腕がぶつかる。常人であればいとも容易く弾けるであろう、強烈な威力。
力負けしたのは、剛腕の方だった。小さな拳が抉る様にめり込み、そのまま腕を砕いてしまった。
うむ、やはり殴れば壊れる。世の道理だな。
しかし、想像以上に、やるな。
核ごと粉々に砕く勢いで殴ったと思ったが、ゴーレムの強度は私の予想を上回った。
「堅いな」
「物理耐性でしょーかー」
「なら魔術も試すか。【弾けろ】」
殴り合いで自身の腕が押し負けた事が信じられないのか、こちらへの歩みを止めたゴーレム。しかしそんなことは知らない、念じた魔術はもう片方の手へと向けられている。
内部からの爆発をイメージしたそれは、先ほどと同じように七割の力で放たれた。
腕が砕け散る、または身体ごと吹き飛ぶ。そんな姿を想像していた。
しかし。またもや予想に反し、ゴーレムの腕は
「ほう」
「あー……これ魔術耐性ですねー。わたくしと相性悪いですー。もしかしたらどちらも備えているのかもー?」
もちろん無傷というわけではなく、今にも崩れそうな様子である。
しかし、耐えきったというのもまた事実。
いくら最も威力の低い形式とはいえ、仮にも私が七割で放った魔術である。
それを耐え抜くというのは、並大抵のことではない。少なくとも、メリウスレベルで致命傷で済めばいい方だ。
「これは、確かに人間では相当に厳しいな」
「よく十八階層まで行けたものですねー。十階層毎に割と強いのがいたと思うんですがー」
「それは初耳だ」
軽く話してはいるが、一応戦闘中である。ただ、両腕がほとんど使えないデカブツなど恐るるに足らず。万全でも同じことだが。
ただ目の前のゴーレムよりも、十階層ごとに出てくる割と強いの、という存在に注意が向いてしまう。
ようやく襲い掛かってきたゴーレムの核を飛び蹴りで粉々に砕きながらライラへ問いかける。
「魔大国の六大迷宮ではどんな奴だった?」
「デカい蛇みたいなやつでー、そこら辺の家を丸呑みできそうなサイズでしたー」
「苦戦したか」
「グラトリアとエニディアが抑え込んでる間にー、他五人でー合成魔術を使って仕留めましたー。巻き添えで二人が瀕死になりましたけどー、一撃ですー」
ああ、うん。そうか。
過去のグラトリアと、それからいまだ姿を見ていないエニディアへ、せめてもの合掌を送った。
さて、初戦も無事終わった事だ。強い事には強いが、この程度であれば集団で襲い掛かってこられたとしても問題はないだろう。
まだまだ先は長い。
私とライラは迷宮の中を、ひたすら駆け続ける。
背後に感じた嫌な気配は、今も消えないままでいた。
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