第十七話 術力
「それでー。人間が使う魔術というのはー、まおーさまが考えた魔術をー、自分たちが使えるレベルまでー、落とし込んだものなんですよー」
「ほう」
「型を定めてー、種類を固定してー、汎用化させた―ってとこですかねー。数が多い人間ならー、それなりに有効な手段ですー」
四大魔術だかはそういう経緯があったからか。最初は魔力の存在にすら気が付いていなかった人間が、自らの手で魔術を創り上げた。その事実は確かに、頑張ったと言える。
しかし、なぁ。三千年だ、三千年。
「まおーさまが見たのはー、四大魔術だけでしたっけー? 他にもいくつかまともなのがありましてー」
「ほう」
「蘇生は無いですけどー、欠損までは治せる回復系だったりー、雷落としたりもできてー、あとはー、えっとー、魔術とか色々反射できるやつだったりー……」
「ほうほう」
それだけ聞くと、中々豊富に思える。やってることは私とあまり遜色はないと思うが、実際はどうなんだ。
疑問に思ったその時、ライラはその場で両手を開くと、予備動作なしで背後に四色の球体を浮かべた。
美しく練り上げられた魔術。思わず視線を寄せてしまう。
「四大魔術のー、一番簡単な奴でーす。赤いのが【
「緑いのってなんだ」
「間違えましたー」
四大魔術。それは、魔術によって引き起こされる現象の性質を分類したものである、と。
お手玉のようにくるくると遊ぶライラの姿。先ほどまで球体を維持していた魔術は。星型になったり棒状になったりと、好き勝手崩れている。
「固定化されている、という話ではなかったのか?」
「例えば―、【
形を作り、発射する。それだけを固定する。なるほど、確かにこれでアレンジし放題、使う者によっては脅威にすらなり得る可能性がある。
「無詠唱ができるならそれなりに使い勝手がいいかもしれないが、魔法陣が見えてしまえば簡単に対抗魔術を放たれるのではないか? ご丁寧に属性、なんて物を指定してくれているんだ。何か対策はあるのか?」
「そーなんですよねー。だから結局ー、個人の素質に関わってくるんですよー。あんまり対人の事は考えていなかったんですかねー?」
「…………はぁ」
こればっかりはどうしようもない。種族の差、というのは容易に覆せるものではない。ただ、工夫次第では少々格上程度であれば勝つことは可能のように思える。
三千年をかけて、魔力すら扱えなかった種族のほとんどが魔術を容易に行使できるレベルに至った。これは、多分。それになりの進歩なんだと思う。
利用されるだけだった昔とは、少しばかり違う。この少しが大きな違いであることを、祈るだけだ。
「そうだ、最後に聞きたかったことがある。この前魔術戦で使った、あのよくわからん魔術は何だったんだ」
「あー、あれですか。風の最上位魔術のー、【
「ほう」
「まおーさまみたいにー、魔術そのものを消されてしまうとーどうしようも無いんですがー、風の塊を操作してるのでー、魔法陣さえ隠しちゃえばー、どこから何が来るのかー分からないんですよねー。使い勝手はー、結構いいんですよー」
あの妙な圧力は、質量を持ったと錯覚するほど高密度な風の塊……という事か? 見えないというのは、なるほど有効だ。形状が分からない以上、風の通り道を分かるように雨を降らしたり、身の回りを固めるたり、相応の対策を取らねばいけない。それが無ければ、一方的に
「これは、私には考え付かなかった。やはり人間の工夫の仕方だけは、弱者特有のモノなのだろう。着眼点が面白い」
私が考えごとに夢中になっているとき、多数の魔術反応が起こる。
目を向けてみれば、先ほどの魔術を消したライラが、今度は数多の魔法陣を背後に展開していた。
その魔法陣は色ごとに並んでおり、四大魔術だろうと考えられる。
「これがー、全ての四大魔術ですー。各属性六つずつ、計二十四。基本的に人間が使う魔術はこの中のどれかになってますー。それでー、さっき見せた【
こうしてみると圧巻だ。数だけを見れば大したものではない。私が扱える魔術は無数に存在するからだ。
しかし、この魔法陣の構成。これは中々考えられていると言える。
確かに拙い部分は多々見られる。私やライラなら多分、今からでも書き換えて、自分に合ったより良い魔術構成に出来るだろう。
つまりこれはそういう事だ。人間が扱える範囲で、なお且つ扱いやすい様に、工夫に工夫を重ねた努力の成果だ。
魔術において、どの工程が難しいのか。それを理解したうえで構成を考えたに違いない。
【
更にその横は――――これは「座標指定」か。手元や、身体の周囲ではなく、自らの望む位置に魔術を発生させるもの。
はは。誰かは知らないが、これを考えた者は、
この魔術体系が完成した……いや、広まったのはだいぶ前だという。であれば、当人はとっくに死んでしまっているのだろう。
「なあライラ」
「なんですー?」
すまんな、人間。私は少々短気だったのかもしれない。
「私と一緒に来ないか?」
だいぶ昔のこととはいえ、このレベルを扱い理解していた人間がいたという事だ。それが本当に人間かは定かではないが、人間に益をもたらそうと考えている、稀有な存在。人間ではないかもしれない、妙な存在。
さて、
誘いを受けたライラは驚くこともなく、平然とした表情のまま告げた。
「いいですよー、私ここで鍛錬しかしてませんでしたしー」
よし。いや、よしではない。何してるんだお前。役割とかないのか。国防とか。
「いざとなれば、スラヴィアがどうにかしてくれますよー。使い捨ての転移用魔道具持ってますしー」
「いいのか、それ」
こうしてライラが旅の仲間に加わった。物凄く軽かったが、本当に大丈夫か?
少し心配になってきた。七欲の彼らの事は信用しているが、いくらなんでも関与しなさ過ぎな様な。
…………そうだな、まあいいか。何かあれば、その時に考えればいい。
確かに私はこの国のトップではあるが、私がいなければ崩れてしまうような国であれば、とっくに滅んでいるだろう。自分達の身は自分達で守る、それくらい出来なければ話にならない。
「じゃあ、行くか。とりあえず、サクッと迷宮まで」
「りょーかいでーす」
「スラヴィアに何言われても知らねえぞ……」
決まれば即行動。グラトリアに見送られながら訓練場を後にした私たちは、王都の方面に向かって出発した。
後日、グラトリアは制御係の仕事を全うできなかったという事で、スラヴィアに叱られたらしい。どんまい。
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