第十一話 ギルド
王都へはあっさりと入る事が出来た。
検問では少額を払うのみで通過が可能だったのだ。冒険者や商人、貴族など身分を示せるものがあれば自由に行き来することができるらしい。それゆえ、冒険者ギルドや商業ギルドに入る者は中々に多いそうだ。
門をくぐると賑やかな喧騒が響く。
相当な賑わいを見せているが、何か催し物の様な事をしている様子はない。
王都の名に恥じぬ繁栄ぶりを見せているのか。魔大国と比べても人や出店の数が段違いだ。
検問を行っていた衛兵にギルドの場所を聞いて凡そ把握してはいるのだが、何も見えん。
主に身長的な意味で。
周囲の人間の大半が私のそれを大きく超えており、視界が不自由極まりない。繁栄は良い事だが、この道幅は何とかならないものか。
牛歩のごとき進みで歩き進めていると、ようやく目的の建物へとたどりついた。
衛兵の話では「一際目立つ建造物」という事なのでまず間違いないだろう。
周囲の建物と比べ明らかに大きさが異常である。倍、程度で収まるレベルではない。
貴族位の豪邸といっても差し支えない大きさ、それ以上かもしれない。
とにかく、宿屋や民家の中に混ざる冒険者ギルド(と思わしき建物)は間違いなく異彩を放っていた。
民衆はもはや慣れきっているのか全く気にしていない様子。彼らからしたら立派な背景の一部なのだろう。
若干気圧されつつも、私は建物の扉を開け放った。
街中と同様、ギルド内は喧騒と熱気に包まれていた。
視界を埋め尽くす人、人、人。唯一異なるのは、その大半が屈強な男だという事くらいか。
ちらほらと女性や細身の者もいるが、いかにも、な雰囲気を纏っていることに違いはない。
となれば当然、突然入ってきた場違いの様な私に視線が向くのは仕方のない事であり、注目を浴びるのもまた仕方のない事である。
雨のように降り注ぐ視線を全て無視、一直線に受付と思われる場所へと向かう。
幸いなことに受付が並んでいるといったことはなく、すぐに受付嬢と対峙する事が出来た。
「冒険者ギルドへようこそ。初めての方ですね、どのようなご用件でしょうか?」
「ギルド長に会いに来たわ」
「ギルド長への面会には相応の理由、又はAランク冒険者以上の資格が必要となります」
「持ってないわね」
持ってないものは持ってないのだ。そんな唖然とした表情をしないでほしい。
ただまあ、そう簡単に会わせてはくれないか。予想はしていたが、どうしようか。
受付嬢は丁寧な対応をしてくれている。逆に言えば 教本通りともいえるが。
相応の理由、またはAランク冒険者以上の資格ね。
……うん?そもそもAランク冒険者ってどの程度なんだ。ギルドというものの仕組みというのを理解していなかった。
「ああ、ならちょっと変更。ギルドの仕組みについて教えて貰える?」
「はい、わかりました」
♦♦♦
受付嬢からギルドについての説明を受けた。
端的に言えば、任務を達成することで報酬を得て冒険者ランクを上げる事が出来ると。冒険者ランクには基本的にF~Aがあり、Aランクをも超越する力を持った者達はSランクの資格を所有している。このSランクはほとんどいないらしく、事実上の最高ランクはAであるという。
つまりAランクになるにはFランクから地味に任務をこなして実績を積む必要があるのだ。
ふむ、やってられん。別の道を選ぶとしよう。
「じゃあ、そうね。依頼を出すことは出来る?」
「はい、問題ありません。報奨金の用意はありますか?」
「大丈夫よ。この紙に書けばいいのね」
手渡された一枚の紙、そこには依頼内容や条件、報奨金について記す欄が書き込まれていた。
依頼内容は当然、ギルド長の元へと連れて行く事。条件はAランク以上の冒険者か、これを達成することのできる人物である。
私だけで会えないのなら、会える人物に会わせて貰えばいい。実に簡単なことだ。
というわけで、依頼として出すことにした。
我ながら素晴らしい考えだと思う。
これで強引な手段を使う必要もなくなった。
「……このような依頼は、少々難しいかと」
「え、ダメなのこれ。ちゃあんと報奨金も払うわよ? ほら、一般的なAランクへの報酬の2倍も」
「そういう事ではなくてですね…………」
断られてしまった。
ギルドの規約に反してはいないとは思うんだが、ダメか。
抜け道のような手だと思ったんだが、やっぱりもう強引に行くしかない。
諦めて夜中にでも
「いいんじゃないですか? そのくらい。規律を守ってはいるんですし、何も悪い事はないでしょう? 私が受けますよ」
その男は、このギルドに不釣り合いなほど優し気な表情であった。長い髪の毛を真っ直ぐに伸ばし、揃えられた前髪から細目がこちらを覗き見ている。
依頼を受ける、と言っているのだからこれでもそれなりにやり手の冒険者か何かなのだろう。
ざわつき始めたギルド内の雰囲気からも想像がつく。様々な声の中に、黄色い歓声もとい悲鳴が上がっている事でこの男のおおよその人となりも知れるというものだ。
「ですが、メリウス様……」
「大丈夫ですって、何かあったらギルドマスターに私から伝えておきますから」
「……分かりました、では任務の承認及び受注を確認しました。わかってると思いますが、ギルドマスターの部屋は上った先にありますので失礼のないようにお願いします」
納得のいってないような表情の受付嬢を横目に、私はメリウスと呼ばれていた男と共にギルドマスターの部屋へと向かう。受付嬢の反応から、このメリウスという男はそれなりに信用のおける人物だと伺える。
確かに、ギルドにいる人物の中で感じる魔力量が一回り以上大きい……と思う。私の基準からみると、五十歩百歩もいいところなのだが。
先導していたメリウスが歩きながら振り返り、満面の笑みで告げる。
「こんな美しいお嬢さんの依頼、受けない方が間違っていると私は思います」
気障な男とはこういう者の事を言うのだろうと、心から理解した瞬間であった。
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