『錬成術とギルガントの関係』 その10




 ミリアルド・アーシュタインは巨人が立ち上がるのをじっと見守っていた。


 巨人は地面に手を付き、のっそりと立ち上がる。


 遠目からは巨人に見えるものの、近くで見ると、巨人ではなく個の集合体である事が分かる。


 数百、いや、数千もの人を集めて、巨人の形に無理矢理に成形したようなものである事がありありと窺える外見であった。


 元々は人であったのであろうが、今では、巨人の身体の一部でしかなく、そこには命の片鱗も、人としての意思も喪失してしまっていた。


 だがしかし、巨人には顔があった。


 無数の人によって成形されているが、それはまさしく人の顔であった。


 パッツィーの顔立ちにどこか似ている老人であった。


「お前が誰かは知らねえ」


 ミリアルドは立ち上がった巨人を見据えて言う。


「だが、これだけは言える。俺に股を開くかもしれなかった無数の美女達を錬成した罪は万死に値する。俺の楽しみを奪った奴は決して許さねえ」


 始皇帝の剣も聖剣ラストレギオンも構えずに巨人を睥睨し続けていた。


「……来いよ。貴様が王様だったんだろうが、俺みたいな勇者の前じゃ鼻くそ以下なのを思い知らせてやるよ」


 その声が巨人に届いたのか、ぎょろりと目を見開いたかのような動きを見せるなり、猪突猛進と言うに相応しい程の勢いで突進を開始した。


 巨人が地面を踏む度に地表が地響きという悲鳴を上げる。


 場所によっては地面に亀裂が走り、近辺にいた動物たちが逃げ惑う姿がそこここで確認されていた。


 天変地異であるかのような状況であるのに、ミリアルドは怯まない。


 むしろ鼻で笑っているかのような微かな嘲笑さえ浮かべていた。


「でかけりゃ良いってもんじゃねえんだよ」


 巨人が目と鼻の先まで迫ってきても、ミリアルドは構えさえしない。


 巨人は両手を振り上げるなり、手と手を合わせ、指と指とを絡み合わせる。


「俺相手に素手か? 雑魚確定だな」


 ミリアルド・アーシュタインは右手で握っている始皇帝の剣をさっと右へと軽く薙がす。


 瞬間、振り上げていた巨人の両腕が肘の辺りから綺麗な切り口を晒しながら両断され、


「俺を相手にするなら、選ばれし者の装備程度は用意しておけ。じゃねえと、ただの紙切れと変わらねえ防御力なんだよ」


 柄だけの聖剣ラストレギオンを軽く左へと薙がすと、両腕を振り上げたままの体勢の巨人の身体がぐわんと揺れた。


 強力な力によってねじ曲げられるように左へ左へと身体がねじ曲げられていく。


 そして、その巨体が抗いきれないほどの力で押しやられていた事を証明するかのように真っ二つに裂けた。


 それだけには留まらず、真っ二つになった巨体が見えない炎で焼かれていくかのように断面から消滅しき、瞬く間にそこの巨人がいたのだという事が嘘であるかのように存在そのものが消え去ってしまった。


「……こんな奴のために……」


 ミリアルドは深いため息を吐いて、


「こんな奴のために、パッツィーが抱けなくなったのか。ギルガント化しかけていなかったら、良い女だったんだろうな……。惜しいよな、美女の喪失は……」


 嘆きと共にもう一度ため息を吐いた。



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