『錬成術とギルガントの関係』 その9



「おのれ、ビッチめ! わしの楽しみを奪いおってからに!」


 竹箒を飛ばして、巨人に斬り込もうとしていたシシット・ブラウナーは忌々しげに声を荒げた。


 竹箒の勢いを殺さないどころかさらに速度を上げて、踏みつぶされそうとしている巨人の傍へと向かう。


「その巨大な足共々消し去ってくれるわ!! わしの怒りをその痛みで受け止めるがいい!」


 言葉に怒気が含まれていても、シシットの表情には変化は見られなかった。


 怒っているのか、ただ声を張り上げているのかの区別がつかない。


 もしかしたら、ただ怒鳴りたかっただけなのかもしれない。


「サンダー・レイン!! 降りしきれ、雷の雨よ!!」


 雨雲などが一切出ていないのにもかかわらず、雨の粒が天井より数多降り注ぎ、巨人と巨大な足がいる近辺を濃霧のような雨粒が覆う。


 雨粒が何かに当たる度に、白い火花が散る。


 巨人だけではなく、巨大な足に雨粒がほぼ同時に着弾し、一斉に火花が走る。


 それはまるで星の煌めきが同時に起こったかのように華やかに、そして、優美に火花が咲き乱れる。


 咲き乱れる火花に連鎖するよう地上へと向かっていた雨粒にも光り、百科量産といった様相へと繋がっていく。


 最後には、巨人も、巨大な足も、一つ一つの火花がつながり合ったかのように光の柱へと形成されていった。


「ほっほっ、見事な雷の柱じゃ、ほっほっ」


 天へと向かって光を広げていく柱を見上げながら、シシットがからからと快活に微笑んだ。


 ただ雷によって起こった光の柱がただ見たかったかのように。


 光の柱が天へと昇り終えたように消滅すると、そこには、地面に横たわる巨人しかいなかった。


 巨大な足は柱と共に戻って行ったかのようにその姿が見えなくなっていた。


「か弱きも、巨大なる者よ」


 この時を待っていたとばかりに、アイアンウィル・ディメーションが横たわる巨人とある程度の距離を取るようにして仁王立ちしていた。


「……押して参る」


 羽織っていたマントを脱ぐなり、アイアンウィルは何か格闘でもするかのように両手で構えた。


「第四の波動、参る」


 アイアンウィルは、シャドーボクシングをするように右ストレートを軽く繰り出す。


 すると、拳の先に小さな円が虚空に描かれた。


 その円は瞬時に巨大な円へと変化し、倒れている巨人へと突き進んでいった。


 円が巨人と衝突をすると、円は綺麗に弾け飛ぶ代わりに、倒れていた巨人をなぎ払った。


 ドンと地表を揺らすようにして巨人が地面へと打ち付けられる。


 一度、二度、三度。


 まるで地震の震源であるかのように辺りを震わせながらバウンドし、四度目にしてようやく勢いが十分に削がれたのか、地面に打ち付けられるようにして落ちた。


「……弱い」


 アイアンウィルは脱いだマントを再び羽織り、これで終わったと背中で語りたかったのか、倒れている巨人にその背中を向けた。


「立て」


 頭上からミリアルド・アーシュタインの清閑な声が場を支配するように響き渡る。


「俺は横になっている奴を殺すほど卑怯者じゃない。俺は小悪党であっても、卑怯者ではないんでな」


 不死鳥の翼フェニックスウィングで空に浮かび、右手には始皇帝の剣をき、左手には聖剣ラストレギオンを握るミリアルドがいつからか巨人のすぐ傍にいた。


「卑怯者じゃろうが」


「……小悪党ではない。大悪党だ」


 シシットとアイアンウィルの反論のような呟きが漏れるも、ミリアルドの耳には届いていなかった。


「一撃で終わらせてやる。それが俺の慈悲だと分かれ」


 ミリアルドは左の口角をつり上げて、にんまりと微笑んだ。


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