『錬成術とギルガントの関係』 その8
ミリアルド達が目標と定めていた、他の山々とは一線を画する茶色の山がもぞもぞと動き始める。
敵が接近した事に勘づいたのか、それとも、眠りから目覚めたのか、億劫そうに山が蠢動を始めた。
「ちぃっ、気づきやがったか」
ミリアルドが舌打ちと共に吐き捨てるように言った。
「気づいて当然よ。私達の存在に気づかないのなんて、よっぽどの鈍感か、ただのでくの坊よ」
エメラルダがミリアルドの耳元で囁くように告げると、
「違いねえ」
ミリアルドは不敵な笑みを動き始めた茶色い山へと投げかけた。
その笑みに反応したかのように、山が山である事を止めて、人へと変わっていった。
蹲る事を止めて、二本足で立ち上がっただけであったが、その様は山から人へと変化したかのようである。
山と見間違うほどの巨人である。
「……さっさと片付けるぜ」
「……ふむ」
その言葉が合図であるかのように、アイアンウィル・ディメーションが手を離した。
腕をマントの下にしまい、そのまま地表へと落ちていく。
そして、普通の人間ならば、そのまま転落死しそうなものであるのだが、アイアンウィルはそのまま、普通に着地するなり、土煙を上げながら、起き上がった巨人の方へと猛烈なスピードで向かい出す。
「一番槍はわしじゃな」
シシット・ブラウナーはアイアンウィルと同様に手を離して、空へと飛び出した。
手を空へと向かって差し出すと、いつのまにやら竹箒がその手に握られていた。
竹箒に手繰り寄せて器用にまたがる。
すると、シシットは竹箒にまたがったまま、空中にゆらゆらと浮遊し始めた。
「ほっ、ほっ! 一足お先に」
ずる賢そうな笑顔をミリアルドに向けた後、地上を疾走するアイアンウィルを容易く抜き去り、起き上がった巨人の方へと竹箒にまたがったまま飛んでいった。
「お金にしかならない善行って嫌よね」
ミリアルドの耳にふっと甘い吐息を吹きかけてから、エメラルダ・フォン・ヴァナージは突き放すようにミリアルドから離れていった。
「だから、意地悪したくなるの!」
小悪魔のような微笑を口元に刻み、ミリアルドの能力をあらかじめ盗んでおいた不死鳥の翼フェニックスウィングを背中に煌めかせた。
「シシットの邪魔か?」
「違うわよ。私のき・ま・ぐ・れ」
その言葉と共に、上空に浮かんでいた白い雲がパッとかき消えた。
「踏みつぶして、巨神兵カーラン」
その言葉に従うように上空から、蹲っていると山と勘違いしてしまうほどの巨人など小人であるかのように錯覚してしまうほどの足が降りてきた。
そうするのが当然といった様子で、巨大な足が巨人を踏みつぶそうと襲いかかる。
自分が踏まれるなどとはゆめゆめ思っていなかったようで、影に覆われたことに気づいて、巨人がゆっくりと上を仰ぎ見た。
しかし、顔を上げただけで受け止めようとする素振りさえ見せなかった。
瞬く間に足の裏の潰されるようにして地面に這いつくばるようにして押し潰される。
踏んだ衝撃波が土煙などを上げて、円を描くようにして周囲に広がっていく。
アイアンウィルも、シシットも、エメラルダも、ミリアルドも当然の事ながら怯まず、衝撃波をも軽くいなした。
「ふふっ、足蹴の方がよかったかしら?」
シシットよりも先に巨人に一撃を食らわせた事で満足したのか、踏みつぶされた巨人が地面にキスをしかねない姿を見て、エメラルダは鼻を鳴らして笑った。
「無様だな、シシット! 悔しがる顔が目に浮かぶ!」
ミリアルドはそんなシシットの顔を思い浮かべて腹を抱えて笑いそうになっていた。
欲して止まないパンツを手に入れられなくて、悔しがる姿を何度も見ているからであった。
好みの女のパンツが手に入らないと、
『宗教上の理由でパンツをはいてないなんて、いやじゃ、いやじゃ、いやじゃぁぁぁぁぁ!! わしはみとめんぞぉぉぉぉぉっ!!』
悔しさを奇声に変換しながら、駄々っ子のように床でじたばたしていたりするのだ。
その姿はだだをこねている子供そのものだ。
竹箒にまたがりながら悔しさのあまりもんどりうっているかもしれない姿を想像すると、滑稽そのものだ。
「私はもう疲れたわ。後はよろしく頼むわね、二番目の勇者様」
エメラルダはミリアルドに投げキッスをするなり、戦場となるべく場所から遠ざかるようにミリアルドから離れていった。
ミリアルドは投げキッスをひょいとかわして、
「怠け者が。金の分くらいは働けよ。取り分減らすぞ」
毒づいた後、深いため息をついた。
「しゃらくせぇ。手を抜く奴がいるから俺が本気を出さないと駄目になったろうが……」
まずは始皇帝の剣を右手で抜き、左手で聖剣ラストレギオンを抜き放った。
「金のために俺達に倒される事を光栄に思え。元、人であった者達よ」
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